「大正おんち令嬢アヤクラ」マンガ原作企画書

  • キャッチコピー(1文で50字まで)

絶対音感の真逆〝絶対音痴〟の華族令嬢が「歌姫」として爆笑されつつ拍手喝采されてしまう!?

  • あらすじ(300字まで)

 落ちぶれたオペラ歌手・丈太郎は伯爵令嬢・綾倉椎那の歌の先生として雇われる。だが教え子となる彼女は歌うことは大好きだったが、無自覚な大音痴。それなのに迷惑なリサイタルを開くイタい子だった。

 歌の上達なんて望み薄だが、椎那は勘違いしていた。自分なら実力で日本最大の歌劇の舞台である帝劇以上にお客を集められると。

 歌の特訓を通して丈太郎と椎那は次第に惹かれ合っていくが音痴は改善しない。
 ダメかと思いきや椎那の歌は人々を笑かすことで不可能な夢も身分違いの恋も叶えていく。

  • 第1話のストーリー(1,000字まで)

 関東大震災の爪痕が残る帝都・東京。綾倉伯爵邸では復興支援の寄付という名目で慈善園遊会、つまりチャリティーパーティーが開かれていた。集まった馴染みの上流階級の人々。その彼らに向けて歌の余興が披露されており、今回は帝劇(帝国劇場)の元スター歌手の丈太郎《じょうたろう》(30)が前座として呼ばれていた。
 落ちぶれたとはいえ元スター、丈太郎は歌い終わると自分を前座にするような奴はどんな歌手だと苛ついていた。そして。その会を締めくくったのは伯爵の愛娘・綾音《あやね》(20)だった。彼女はアカペラを披露する。その歌は抱腹絶倒級の大音痴。だが、丈太郎を唖然とさせたのはそこに広がる異様な光景だった。笑う者は誰もいないのだ。執事ら使用人と馴染み客たちは耳栓をしたり手の甲を抓ったりし対策して笑いをこらえていた。

 その綾音は亡くなった母の影響で幼い頃より歌うことが大好きだった。ただ母と違い音痴だったのだが、そのことに自分では無自覚なため人前でも気にせず歌おうとした。このままでは幼い娘が傷ついてしまう。音痴と言い出せない父・綾倉伯爵が考えたのが、このリサイタルだった。それが彼女が大人になった現在も続いているのだ。
 落ちぶれ金に困っていた丈太郎は選ばれたのだ。ここに来る連中は伯爵へのごますりが必要だったり金欲しさのため、綾音の音痴が本人にバレないよう気を使いそうな者ばかりとなっている。
 当然、丈太郎もおべっかを言った。パトロンが欲しいのだ。
「ご令嬢はプロになれる」褒めすぎてしまった……それを聞き綾音は彼を音楽教師にと父にねだる。欲求を助長させていた綾音はいつかスター歌手になって大舞台に立つことを夢見ていたのだ。
 断る丈太郎。だが伯爵からも頼まれてしまう、娘を社交界の恥にしないようにしてくれと。結局、丈太郎は自分の再デビューの後押しの約束に釣られ音楽教師の仕事を受ける。

  • 第2話以降のストーリー(3,000字まで)

 綾倉伯爵邸で行う初回のレッスン。綾音と一緒にボイストレーニングをした丈太郎は歌劇(オペレッタ)業界の古い言い伝えを思い出す。それは絶対音感と真逆の、どんな音楽の曲でも必ず音を外してしまう〝絶対音痴〟があるという話。ひたむき練習しても全く音痴が改善しない彼女こそそれではと恐怖した。でも、まだ諦めてはいなかった。
 同じ女性の歌う姿からコツを学べれば改善のきっかけになるかもしれない。丈太郎と綾音はとある華族の茶会に潜り込む。
 そういった場に一流の歌手も余興を披露しに行く時代だった。また、震災で劇場の多くが焼け落ちたことで歌手たちは社交界に活躍の場を求めたのだ。
 そこにいたのはよりにもよって丈太郎が帝劇にいた頃の相手役であり当時の恋人・響子(25)。そして、その隣には丈太郎から役を奪い今の彼女のパートナーにもなった若手スター・星也《せいや》(20)の姿があった。
 その場から離れたい丈太郎を無視して綾音は憧れのスターたちに興奮。星也はそんな彼女が丈太郎の教え子だと知ると自ら伴奏し始める。歌わせ良いアドバイスしてやることで丈太郎より上だと証明したのだ。彼は響子の元カレである丈太郎から常にマウントを取りたかった。だが、綾音の歌声を聞くと爆笑し伴奏をやめてしまう。アドバイスどころではなかった。
 響子と話していた丈太郎はその笑い声を聞き、綾音を連れ庭から脱出しようとする。そこに星也からの罵声が!
「音痴の歌なんて、誰も聞きたがらない」その星也の言葉に丈太郎は見栄で反論し、ついには「引退を賭けて」しまう。聞きたい奴がいたら「彼女と共演してやる」と星也は賭けに勝った気で言い、綾音のやる気に更に火をつけることに。
 だが次のレッスン、丈太郎は伯爵邸にやって来ない。逃げたのでは? 不安になる綾音。しびれを切らし丈太郎の寝泊まりするバラックの小劇場に執事の運転する車で行くと、そこではピアノ伴走者のオーディションが行われていた。丈太郎は逃げたわけではなかった。綾音の歌声を聞いても鍵盤を弾く手を止めない人物を探していたのだ。
 そして、丈太郎が選んだのは老婆のピアニスト加恵(72)。綾音には一番の腕利きだと紹介したが、選んだ理由は耳が遠いからだった。彼女なら綾音の歌声がよく聞こえないから弾き続けられる。これでアカペラ以外のレッスンも行える、それに――
「レコードが録れる」音程は取れていると思い込んでいる綾音に気づかせる作戦を丈太郎は考えていたのだ。


 丈太郎は綾音と加恵を連れてラジオ局内の収録スタジオへ。そこで綾音の歌をレコードに録音していく。この音痴な歌声を本人に聞かせれば治るきっかけになるかもしれん……しかし、そこに伯爵がやってくる。
「娘が事実を知ったらどうなるかッ!」激怒する伯爵、出来たレコードは破棄……したはずだった。
 ある日、伯爵邸のラジオから綾音の歌が! それはあのレコードものだった。
 彼らが帰った後、同じスタジオに仕事でいた星也にレコードは渡ってしまっていた。世の笑いものにして綾音に歌を諦めさせようと彼はラジオ放送に曲をかけやがったのだ!
 自分のあまりの音痴加減に信じられない綾音。歌うのに必死すぎて自分の耳にこれまで入ってこなくてわからなかったから衝撃だった。伯爵は電波状況が悪いから酷く聞こえるのだと言い張るが、その滑稽な自分の歌に動揺を隠せない。せめてこの1回だけですめば良かったのだが……毎日何度もラジオから流れてきた。
 それはラジオ局にリクエストが殺到していたからだった、そのあまりに面白い歌声に惹かれて。
 その反響はついには彼女を主演にした歌劇が企画されるまでに。場所はあの帝国劇場……の焼け跡。焼け跡でも夢の舞台だから、と立つことを綾音は承諾する。本当は星也との賭けに丈太郎を勝たせたかったからだ。実際に聞きに誰か来なければ負けを認めないと星也は言った。
 本番まで綾音は丈太郎と猛特訓。世間を見返してやるのだ。
 最後の仕上げに森で歌う綾音。鳥たちが逃げないよう優しく歌うよう丈太郎に教えられたが、森から鳥は一匹残らず飛び去っていく。このままでは聴衆の面前で彼女が笑われてしまう!
 丈太郎は綾音に出演を辞退するよう説得するが断固拒否される。舞台の相手役が憧れのスター・星也だからチャンスを逃したくないと綾音は嘯いた。ラジオにレコードをかけた星也が彼女を発掘したということで共演も彼になっていた。丈太郎は真に受けてしまい、そんなミーハーな理由のためにと落胆し「勝手にしろ」と彼女の元から去っていく。


 歌劇の本番当日――。
 リクエストは嘘で誰も聞きに来ないのでは不安に襲われる綾音だったが、帝劇の焼け跡に震災で傷ついた数多くの人々が集まってくる。ひとまず安堵したが、今度は震えが止まらない。この観客は自分を笑いにきたのだ。それがわかっているから怖くて仕方なかった。
 だから開演しても声は上擦り詰まって出てこない。嘲笑と野次が飛び交う中、なんとか声を絞り出すがその調子っぱずれな歌に相手役である星也は笑い転げ応えてくれない。綾音はもう泣きそうに。
 そのピンチに丈太郎が客をかき分け舞台に飛び入り参加で現れる。彼は星也を押し退け代わりに男性パートを歌い出す。強引に続けられる歌劇に人々は爆笑していた。でも、綾音はもう怖くなかった。丈太郎は笑わずに一緒に歌ってくれる。
 丈太郎は彼女を笑うなんてことは絶対できなかった。
 知っているから。努力をどれだけ重ねてきたかを、そしてそれでも上達しなくて今日はもう嘲笑われるとわかっているのにこの舞台に上がった彼女の勇気を。
 途中、冷やかしを入れる客もいた。それでも二人は歌い続ける。会場にいた伯爵はその姿に涙し、歌劇が終わる頃には客の大半も目に涙を浮かべ笑っていた。彼女の歌は震災で傷ついていた人々を笑顔にして癒やす力があった。だから人々は聞きたかったのだ。
 そして、なんとか最後まで歌いきると観衆から綾音へ万雷の拍手が! 今のこの暗い時代を明るくする新たなスター“大おんち令嬢”綾音が誕生した瞬間だった。
 舞台は閉幕し丈太郎が裏で気を抜いていると、アンコールの温かい拍手が聞こえてくる。それを聞いた綾音は再び舞台に駆けて行き、あの調子っぱずれな歌を元気よくお客に届けるのだった。《完》

#週刊少年マガジン原作大賞
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