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美しい夜の記憶


赤レンガ倉庫、大桟橋から山下公園を抜けて元町まで、時間をかけて歩いた。はっきりとしているような、ぼうっとしているような曖昧な意識で、夢と夜の狭間を彷徨っているみたいに。

男性ブランコのコントライブ
「やってみたいことがあるのだけれど」
を観劇した帰り道。

大きな客船が寄港する港に歴史ある洋館、久しぶりに歩くと改めて、雰囲気があって好きだなぁと思う生まれ育った横浜の街並み。慣れ親しんだ夜景の中を歩きながら、いま観た舞台への驚きに脳内も心もぐちゃぐちゃで、熱っぽくなっていた。ガス燈の橙色の灯りで照らされる歩道に、横浜開港の歴史が可愛く描かれているのをぼんやりと見つめる。

何だかものすごいものを観た、、という言葉にならない感動と、いくつもの感情を心の奥深いところで動かされてしまったのとで、とまどい、放心。。遠い昔に眠らせた悔しさとか、はっとするほどの純真無垢さ、人間であるが故のエゴと狂気、愛らしさなどが、二人の豊かな表現によってあまりにも自然に、完璧な間合いと心地よさで、心の深いところに触れて。登場人物たちはそれぞれ悪戯っぽくこちらを笑わせて、じゃあまたねと帰ってゆく。懐かしい切なさをもう少し味わっていたいよと思う名残惜しさと、あぁ、でもやっぱり、可笑しく不思議で儚い時間こそが優しかったんだなあと思う気持ちと。

しばらく何にも触れたくない、五感をそっと閉じていたい、心の柔らかいところに触れた感触を追いかけて、いつまでも眠りたくなかった夜のこと。

あの夜、作り手の人たちが大切に守り抜いてきた、透明で純粋な欠片をそっと受け取った感じがした。時と記憶を辿りゆく物語で、登場人物たちの在り方で、光で、音楽で。

薄く心地よい照明の中
流れる静かで穏やかなギターの音色
身支度を整えて、
すんっとした一瞬の呼吸で
役を切り替えていく
その一連の所作の美しさに
ずっと感動していた

こんなにも心を震わせる素晴らしい作品が
これからたくさんの人に広がっていくのを
想像する

あの夜の美しさを、私は忘れないと思う

「そうだったらいいなあ、」

ぐらいのこと..
なのかもしれないけれど

あの日、空調の効いた劇場で
膝にかけていたお気に入りのストールは
感動で熱に浮かされた私なんかよりも
ずっと鮮明に
美しい夜の記憶を宿しているはず


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