想いが言葉になる前に

平日の昼下り、劇団四季の8軍メンバーはカルチャーセンターの小会議室に集合していた。
「いっちょ声出しときますかー」
リーダーの八木橋は腰に手をあて天井を見つめて言った。他のメンバー達は八木橋のもとに集まり円陣を組む。
「マジ演技リミッター解除!」
「解除!」
「そろそろ本気出しますか〜!」
「出しますか〜!」
「春夏秋冬!劇団四季!」
「ガンバ!ガンバ!」
8軍オリジナルの掛け声が響き渡った。
「そろそろ来るんじゃない」
芝居より芸能人の裏アカウントを発見するのが得意な細貝はメガネを拭きながらそわそわしている。それもそのはず、今日は半年に一回に行われる7軍昇格の演技試験の日なのである。本部から派遣された試験官の前で演技を披露し合否を言い渡される。小会議室はピリピリムードに包まれていた。
ホワイトボードにライオンキングのシンバがふきだしで「ご足労!」と言っているイラストも描いたし、ドラッグストアで買った78円のドデカミンも試験官用のパイプ椅子の上にもう置いてある。準備万端。メンバー達は床に正座してどこを見るでもなく、試験官の到着を待つことにした。
ブックオフでグラビア写真集を買う加茂のお尻のポッケからデカいスマホが落ちた時、扉がゆっくりと開いた。
現れたのは短髪で背の低い熟女だった。ほうれい線を限界まで強調させた、いわゆるウンコ臭そうな表情で、部屋には入らず扉から顔だけ出して8軍をじっと見ている。
「試験ですよね」
八木橋が尋ねると熟女は部屋に入り、用意してあった椅子には座らず、床にぺたんと腰をおろした。お手本のような女の子座りだった。ただ特筆すべき点は女の子座りではない。恐ろしく巨乳で谷間がくっきりの七色のボディコンを着ている。
「ちょっと、おみかん食べるから」
かすれた声で熟女が喋った。おもむろにみかんを取り出し、床にティッシュを敷いて剝いた皮を置いていく。
「試験ですよね」
八木橋の同じ質問はまた黙殺され、チュウチュウみかんを吸う音を聞くだけの時間が流れた。
「自分語りいいっすか」
熟女は無い髪をかき上げて言った。そして身体を前傾させて巨乳を更に強調させた。
「ワタシ昔あいのり出とってね、ラブワゴン乗ってたのよ。今でも一緒に乗ってた人達とは繋がりあるんよ。それでこの前、同窓会じゃないけど、お食事会みたいな事した訳。そこでさぁ、みんなでネットラジオしない?って話になったの。」
熟女は後ろを振り返りドデカミンを手に取った。白目を剥いて飲んでいる。
「それで盛り上がっちゃって、やる事になったのネットラジオ。いつの間にか私がメインで頑張る感じになっちゃって。でも嫌じゃなかったの。お喋り好きだし。うん。」
白目を剥いてゴクゴクする熟女。喉仏が立派だ。ニューハーフの方なのか?とメンバー全員の頭の上にでっかいチンポマークが点灯している。
「あのぅ」
細貝が蚊の鳴くような声で手を挙げた。
「ラフワゴンてどうですか?ラジオのタイトル。ラフは英語で笑うです。」
熟字はドデカミンを飲み干して、成分表示を読んでいる。
「どうでしょうか?」
「お前以外合格」


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