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『パーリィナイトメア』ゲーム開発者×漫画家が生み出す化学反応【受賞者ドキュメンタリー第1弾】前編

■チャレヒト ※写真右
同志社大学 情報システムデザイン学科卒業後、ゲーム会社と一般企業に数年勤務。現在は、フリーで漫画関係の仕事をしながら、インディーゲーム制作者として活動中。

■藍葉悠気 ※写真左
武蔵野美術大学映像学科を中退後、広告制作会社や出版社勤務を経て、現在はフリーランスの漫画編集者・原作者・講師として活動中。
1億円40漫画賞佳作、第6回ストキンPro佳作、他受賞歴多数。主な作品に『さよならクリスタルマン』(講談社)などがある。

第1回GYAAR Studio インディーゲームコンテストを受賞した「パーリィナイトメア」(カクカクゲームス)は、敵がギリギリまで迫ったときにタイミング良くボタンを押してさばく「パリィ」の気持ち良さにフォーカスしたゲームだ。ゲーム作りに疲れたプログラマーのチャレヒト氏が再び立ち上がり、漫画原作者の藍葉悠気氏とともに受賞にまで至った道のりを聞いてみた。


■ゲーム作りを止めたプログラマーが、再び立ち上がるまで

――まずは入賞おめでとうございます。まず、「パーリィナイトメア」についてお二人がどういった部分を担当されたのかを教えてください。

🔸チャレヒト:私はグラフィックと音楽以外の全てを作っています。

🔹藍葉:僕はイラストを描いている妻のマツダ ユカを始めとした作家を紹介するなど、クリエイターのアサインや取りまとめをしています。僕らは、漫画原作者である僕の個人オフィスの一部をチャレヒトさん にシェアし、一緒に仕事をしているという関係です。お互いの距離が非常に近いので、相談に乗ったり、テストプレイしているので、ゲームデザインの部分に関わっているといえるかも知れません。

🔸チャレヒト:藍葉さんはゲーム制作の経験こそないんですけど、漫画を通してのものづくりの経験値がめちゃくちゃ高いんです。物事を見たり整えたりする力がすごいので、とても信頼しています。

――漫画原作者とゲーム開発者というのは違う職種ですが、一緒に仕事をするようになったきっかけは何だったのでしょう?

🔸チャレヒト:もともと私はサラリーマンとしてゲーム会社に勤めていました。ちょうど自由になるお金が貯まったタイミングがあって「働く理由がなくなった」と、ふと思ったんです 。その時、目の前に「 働き続けるのか?思い切っていろんなことやってみるか?」という選択があり、私は一度好き勝手に全力でブラブラしてみよう、人生の中でそういう期間もあっていいかなと思ったんです。

🔹藍葉:そのタイミングで僕はチャレヒトさんと出会い、個人オフィスに誘ったわけです。ただ、その時チャレヒトさんは「ゲーム開発を仕事にする気はない」といっていて、当初は僕の仕事を手伝って貰っていました。そこから色々あって「パーリィナイトメア」を作ったんですね。

――波瀾万丈ですね。「ゲーム開発を仕事にする気はない」というのはなぜだったのでしょう?

🔸チャレヒト:ゲーム会社あるあるなんですが、仕事が忙しすぎたからです。大学を卒業した後に「アトの跡」というインディーゲームを作って2014年の「ニコニコ自作ゲームフェス」に応募し、「ZUN賞」と「ふりーむ!賞」をいただきました。これをゲーム会社に持ち込んで就職し、プログラマーになったんですが、0時頃まで働いて、家に帰って自炊をして、そこから自分のゲームを作ってイベントに出展する……という暮らしで自分の時間が取れなくなったんです。別の働き方を模索するために一般企業のエンジニアに職種を移してみたのですが、やりがいの面で厳しいという状態になりました。そこでいったん、好き勝手に全力でブラブラしようということにしたわけです。

🔹藍葉:そこからチャレヒトさんがゲームを作りたいと言うようになったのは嬉しかったですね。

――チャレヒトさんがゲーム開発に至る上で、ゲーム原体験というのはどういうものだったのでしょう?

🔸チャレヒト:原体験は、おじいちゃんの家にあったゲームギアかセガ・サターンか、バーチャルボーイだったと思います。親が勉強に厳しい上にゲーム嫌いだったので、学生間の裏取引で携帯ゲーム機をこっそり買っていました。折りたたみ部分が壊れていて、通常とは違う方向に開いてしまうニンテンドーDSとか、画面が壊れてしまったゲームボーイアドバンスなんかを安く手に入れていたんです。

🔹藍葉:加えてチャレヒトさんは3人兄弟で同じ部屋に住んでいたので、制約の中でいかに遊ぶかを考えつつゲームをするのが癒やしの時間だったと思いますね。

🔸チャレヒト:子どもの頃はとにかく勉強が嫌いでした。そこで「どうやったら一番楽をして、勉強をしないで済むか」と考えた結果、大学付属の高校に推薦で入ったら、受験を一回もせずに人生を終えられるという結論に達しました。

――中学生の段階でしっかりと人生を設計していたわけですね。

🔸チャレヒト:受験自体は上手くいったんですが、やることが何もないことに気づいたんです。何をしようか……となった時に自分がゲーム好きであることを思い出し「プログラミングというものを勉強したらゲームが作れるらしいぞ」ということで独学を始めました。ゲーム開発者さん……おそらくは宮本茂さんか桜井政博さん(※)だと思うんですが、インタビューを読んで、面白いというファジーな感情を理屈で作れるのが「あ、これめちゃくちゃ面白い」と思ったんですね。

※宮本茂
任天堂の代表取締役フェロー。「スーパーマリオブラザーズ」「ゼルダの伝説」など、ゲーム史的に重要な作品を幾つも手がけた人物。

※桜井政博
ソラ代表取締役。「星のカービィ」「ニンテンドウオールスター!大乱闘スマッシュブラザーズ」などの作品を製作。

――かなり理詰めのスタートというか、ゲーム製作そのものの面白さに惹かれたわけですね。「パーリィナイトメア」にもそれが現れていると思います。

🔸チャレヒト:PLAYISMさんの3周年パーティーに忍び込んだことがあって、そこでインディーゲームを知ったんです。ゲーム作りが巨大化していくと、ゲーム会社の中でも小回りの効いたワンアイディアな作品が作りづらくなってくるんですね。そうした中でもインディーゲームはゲームの根っこにある部分を問いかけるものがある。私が親の目を盗んで携帯機でゲームを遊んでいたときの、原体験的なものをそこに見たんです。だから、大学卒業後にやりたいことがなくてブラブラしていた時にゲームを作ってBitSummitに出展したんですよ。

――この時はゲーム製作で身を立てると決めていたのでしょうか?

🔸チャレヒト:この頃はゲーム製作を仕事にするとは考えていませんでした。正確にいうと、腹をくくれていなかった。会社に入るなら何らかの分野におけるスペシャリストにならないといけないし。もともと、自分の作ったゲームを外に出していく感覚すらなかったですから。

――周囲にゲームを作っている知り合いはいたのでしょうか?

🔸チャレヒト:いなくはなかったですが、専門学校でもなかったので情報もノウハウも少なく、ゲームエンジンも使わずにC++で全て作っていました。絵も描いたことないけど、ドット絵ならポチポチ打てるだろうって。

🔹藍葉:すごいことしてるんですよ、チャレヒトさんは。先に話した諸々の理由から、無駄のないものとか機能美といったミニマムを好む傾向がありますよね。複数の問題を一つで解決できるものを。チャレヒトさんがインディーゲームと出会った時も、そうしたミニマムなところに惹かれたんじゃないかとも思います。スペシャリストという歯車ではなく、ミニマムに個人がゲームを成立させられるということですね。

🔸チャレヒト:だからコンテストの賞金で買ったドラム式洗濯機はすごく良かったですね(笑)。まさに複数の問題を解決するミニマムさがあって。

■目標は単なる完成から、周囲を幸せにできる作品作りへ

――第1回GYAAR Studio インディーゲームコンテストの受賞前と受賞後で変化した部分はありますか?

🔸チャレヒト:経済面以外だとマインドセットでしょうか。最初は「リハビリだと思って完成重視で作ろう」位の気持ちだったんです。しかし、今回賞をいただいたりして話が大きくなってきて「完成させるだけでいいんだろうか?」と思うようになってきています。

🔹藍葉:「もうゲームは作らない」と言っていたチャレヒトさんが「皆さんに何かしらお返しができたら」というところまできたのは本当に嬉しいことでした。プレッシャーと夢が大きくなったんじゃないでしょうか。僕自身も、GYAAR Studio インディーゲームコンテストがインディーゲームを作る人の登竜門になってくれたらとは思います。

🔸チャレヒト:元々ゲームが好きなので、ゲームの市場を拡大させたい。ゲーム自体が面白いものであって欲しいんですよね。自分が頑張ることで、お世話になった、楽しませてもらったゲームというものに対して恩返しにもなるといいなと思います。

――受賞してみて、良かったことはありますか?

🔹藍葉:入賞してありがたかったことの一つは、試遊会を開いていただけることですね。他のインディーゲーム開発者やバンダイナムコスタジオさん、Phoenixxさんといった玄人の方からフィードバックをもらえるので、ショーに出展するのとは別の良さがありました。例えばPhoenixxさんからは「現状だとインディー感が強いので、画面に枠を付けたらどうでしょう」という、パブリッシャーとしてのご指摘をいただいたことがあります。周囲を断ち切った状態でのプレイに耐えうる画面になっているかどうか、というのは後回しにしていた部分だったので、ご指摘いただけたのは非常にありがたかったですね。

🔸チャレヒト:賞金をいただけるという、金銭面のメリットは可能性が広がるので分かりやすいです。また、同じ受賞者の皆さんと知り合えた人との繋がりも大きいですね。インディーゲームを作っている人たちは横の繋がりを作りづらいと思うんです。でも、今回受賞したみんなはもう少し踏み込んだ繋がりなので、意見を言い合ったり助け合ったりできるのが大きい。

🔹藍葉:個人製作は最小規模で効率よくやれるというメリットはありますが、周囲の目がないというデメリットもあります。製作のモチベーションやペースを維持するには他人の目が必要です。チャレヒトさんが今回のコンテストに応募したり、製作状況を知らせる配信(※)を頻繁にやったり、コミュニティに積極的に参加するというのは一人で作るからこそですね。他人の目を自分から手に入れるようにしないと、無限に作り続けてしまいますから。

※YouTube: https://www.youtube.com/@user-iz1fu7qn7n

🔸チャレヒト:視野もどんどん狭くなってしまいますから。


――確かに、他人の目というのは大事ですね。一人で作っている内にモチベーションが失われたり、何が面白いのか分からなくなってゲームデザインが迷走したりして、結局完成しないという例が非常に多いですから。外との交流でモチベーションを上げるというのは、意識してやっておられるのでしょうか?

🔸チャレヒト:意図的ですね。何もしないと一人で完結してしまいますから。

🔹藍葉:ベッドと製作場所とトイレがあれば、多分ずっと往復してると思うんですよね。これはチャレヒトさんのいい所であると同時に課題でもあり、コインの裏表のようなものですね。

🔸チャレヒト:ベッド、製作場所、トイレのトライアングルですよね(笑)。たまにスーパーに行くみたいな。

🔹藍葉:最近はスーパーでの買いだしも僕がやってるから(笑)。一緒に仕事をするようになって3年ほどになりますが、エンターテイメントや娯楽を享受するのが下手なんですよ。自分からは旅行にもいかないし、連れて行っても何も感じないんです。

🔸チャレヒト:「何をする時間なんだろう」という感じですね。

🔹藍葉:僕は外食好きなのでチャレヒトさんを誘うんですが、何を食べても同じ反応しかしない。おいしい肉を食べさせても「肉の味がします」、寿司なら「寿司の味がします」という感じですから、食べさせがいがないんです(笑)。食の快楽はもちろん、スマホゲーム、ギャンブルや風俗的なものに依存することが全くない。キャベツとシーチキンだけを食べてずっと生きていくということができてしまうんです。これはいいところではあるんですけど、同時に欠点でもあるということを認識していて、だから意識して僕の外食に付き合ったり、コミュニティに参加したりといったことをしているんだと思います。

――どこかで意識しないと、自分自身は変わらない。

🔸チャレヒト:やらないと何も形にならないと思うので。ただ口を開けていても、誰も何も入れてくれない。だから「自分から食べ物ないかな」と探しに外に行かないといけない。

――チャレヒトさんがゲーム開発者、藍葉さんが漫画原作者と、職種がまったく違うわけですが、そんなお二人が上手くやっていけるのはなぜなのでしょう?

🔸チャレヒト:私には藍葉さんのことが分からないですし、その分からない部分について何かをいうことはありません。逆もまた然りでしょう。ただ、通じているところは通じていて、こうした根っこの部分の了解があるからじゃないでしょうか。

🔹藍葉:もともとチャレヒトさんは大阪にいて、リモートで僕の仕事を手伝って貰ったりしていたんです。僕自身が特殊な仕事の仕方をしているので、チャレヒトさんが巻き込まれた感じかな?

🔸チャレヒト:リモートのままでも仕事はできたんですが、上京して藍葉さんの事務所に行き、隣にいて直接やり取りした方が絶対に面白い、彼に巻き込まれた方が絶対面白いと思ったんです。

🔹藍葉:彼が事務所に来たときは、部屋が1つしかなかったんですよね。カーテンがないから、日差しがダイレクトに注ぎ込む部屋の中で寝なきゃいけないわけです。僕のライフサイクルが不規則で、睡眠3時間くらいで起きて打ち合わせや制作を始めたりとかするからチャレヒトさんが眠れないんです。

🔸チャレヒト:あれは大変だった(笑)。

🔹藍葉:こうした諸々を乗り越えて一緒にやってるわけですね。あの時はチャレヒトさんが「カーテンを買ってください」ということをずっといってたけど、僕の側にはカーテンを買わないというこだわりがあった(笑)。今の事務所にはカーテンがありますけどね。

🔸チャレヒト:カーテンがあるのは素晴らしいことです。

(後編へ続く…)

▼『後編』では「審査されるのが怖い?評価との向き合い方」等をお話いただきました!


▼作品紹介:パーリィナイトメア
悪夢に捕らわれた主人公がもう一人の自分「ホンノウちゃん」と協力し悪夢(ナイトメア)からの脱出を図る見下ろし型アクション。 無数の敵の攻撃をパリィで凌ぎゲージを溜めて敵を一掃、光を集めてナイトメアの闇を祓え! 簡単操作で爽快アクション、新感覚パリィ&バディアクションゲーム。

Steamストア:パーリィナイトメア (steampowered.com)

©2023 Valve Corporation. Steam及びSteamロゴは、米国及びまたはその他の国のValve Corporationの商標及びまたは登録商標です。

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