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どうでもいい正解を愛するよりもおもしろそうなフェイクを愛すよ。【2023年のお気に入り】

2023年が終わる。あっけないもんである。
ということで2023年に出会ったお気に入りのものや良かったものなどについてつらつら書いていこうと思う。


①『傷を愛せるか』宮地尚子(ちくま文庫)

精神科医で医学博士でもある著者によるエッセイ。
傷を抱えながら生きるということについての文章が書かれた本である。

大人になってもざわめきはつづく。尖り加減が減って、一見スムーズでも、そのぶんぶつかると鈍角な痛みが後々まで響く。縁のほうは、絡んだり、もつれあったり、ほどけたり、切れたり、何度も結び直されたりして、いよいよ複雑になる。だからこそ大人たちは、〇にあこがれつづける。シンプルで、ミニマムで、歪みも途切れもなく、満ち足りた〇に。

心は震えつづける。早く逝きすぎた者たち。生を受けなかった者たち。あったはずの可能性。なかったはずの災禍。抑え込むべき情熱。ねじれ、もつれた絆。来るべき喪失。この広い世界の中で、それでも一生懸命生きようとする人たち。

②『猫を抱いて象と泳ぐ』小川洋子(文春文庫)

大きくなることを悲劇だと考えた少年が、「リトル・アリョーヒン」となり、からくり人形を操ってチェスを指す物語。
小川洋子の作品は久しぶりに読んだのだけれど、この作品は、登場人物、その関係性、物語、すべてが美しい。
その登場人物たちは皆少しずつ歪である。しかし、彼らの関わりの中でその歪さは優しさの証であったり、希望の一部でもある。その描かれ方がとてつもなく美しいのである。

③『母という呪縛 娘という牢獄』齋藤彩(講談社)

2018年に実際に起こった、娘が実の母を刺殺した事件についてのノンフィクション。
母娘関係に思うことがある人は読まない方がいいとも思うし、読んだ方がいいとも思う。

④『君が手にするはずだった黄金について』小川哲(新潮社)

あらすじも感想も上手く説明することが難しいので、とにかく読んでくれ。去年読んだために省いたが、小川哲作品に関しては『地図と拳』は絶対に読んでくれ。めちゃくちゃ長編な上、複雑なので、頭がクリアな時に読むのがいい。

⑤『夜の国のクーパー』伊坂幸太郎(創元推理文庫)

この下半期はもっぱら、綾辻行人をはじめとしたミステリー小説を読み漁っているのだが、巡り巡って辿りついたのが、この『夜の国のクーパー』。
伊坂幸太郎作品は、SF的な世界観で描かれることも多いが、この作品はSF的世界観とミステリーの色が絶妙に混ざっていてなんとも私好みなのである。

⑥『月と散文』又吉直樹(KADOKAWA)

私はこういう文章が書きたい。

⑦『続続・新川和江 詩集』(思潮社)

私は新川和江の「わたしを束ねないで」という詩を人生の詩としているのだけれど、新川和江しかり茨木のり子しかり、この時代を生きた女性の言葉の力強さに強く惹かれる。
そしてその言葉を浴びながら考える。
彼女たちが怒りを向けた時代から、何か変わっているのか。
彼女たちが何十年も前に紡いだ言葉に、変わることなく心揺さぶられる今は、やっぱりまだどうしようもない世の中なのではないだろうか。

台所のある階下へと階段を降りながら
自分にこう言い聞かせるのが
朝ごとのわたしの習わしだった
今踏みしめているこの地球の
はるか真下の国 わけても戦乱の絶えない国の
ひとびとの飢餓 苦痛 悲しみ 憤り
それらをこの足のうらが感受できなくなった時
おまえは病んでいると思え、と

本以外のものたち

①「ダブルヒガシの列伝チャンネル」(YouTube)

愉快な人たちが愉快にゲームをしているチャンネル。
毎週火曜日、夜10時からのゲーム実況をみんな見てくれ。
私はこれのために毎週生きている。

②Soup Stock Tokyo

俺はスープストックの「とうもろこしとさつま芋のスープ」を人生のフルコースに入れることに決めたぜ!

③前職の先輩たち

知らないでしょう。
辞めた今でも飲みに誘ってくれる度、戻ってくる気になった?と言ってくれる度、まだ一緒に働きたかった、と言ってくれる度、私はとてつもなく救われて、自分の存在を認めることができていることを。
あなたたちは知らないのです。

④お友達

私はさあ、出会って何年も経った友達が、それぞれの人生を歩みながらも、出会った頃と変わらないテンションで喋ってくれることが、その人生の中にちょっとでも存在できていることが、本当に嬉しいんだよ。
私は割と嫌なやつだし、将来を生きていくのが割と憂鬱なのだけれど、それでも忘れずに会ってくれる友達がいて、仕事納めだというとおもむろに動画でメッセージを送ってくれる友達がいて、そんな友達と会って話をする度に、意外と人生捨てたもんじゃないな、とぽろっと思えたりもするのです。


以上、なんかつらつらと書いてみましたが、そんなことをしているともう何時間かで年が明けます。
年が明けようが、虐殺は止まらないし、クソみたいな価値観は蔓延ったまま。
私の人生は変わらないし、絶望しようがどうせのうのうと生きていく。
どうすればいいのかと考えながら、同じ頭の片隅で、どうせどうにもならないよな、と諦めている自分がいる。
どうしようもない毎日だけど、それでも毎日の生きるために、自分を大丈夫にしてくれるものをかき集めて、そうやって自分を律しながら、2024年は少しでも、どうせどうにもならない、を捨てられる年にしたいな、とそう思います。


番外編:2023年嫌だったものたち

①転職活動

職務経歴書は二度と書きたくないし、面接は二度としたくない。

②カメムシ

急に現れすぎ。

③部屋干し

部屋干しでどないしたらタオル臭くなくなんねん。

④冬場の風邪

鼻詰まって口呼吸になれば、エアコンで乾燥してのどがやられるし、乾燥を潤そうと白湯を飲もうとすると、温度加減がわからず、舌を火傷して味覚が消えるし、風邪は引くもんじゃないね。

⑤冬

寒すぎ。

⑥M-1放送後のSNS

他を下げることなく、自分が感じた面白いを信じろ。


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