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『うたうおばけ』

2023/7/19
くどうれいん,2020, 書肆侃侃房.

読んでる間ずっと幸福だった。こんなにも、ただ楽しいと思って読書したのは久しぶりな気がする。
芥川賞の選評ではテーマの扱い方とか構成面でいろいろ言われてたけど、私はくどうさんの、まろやかな色に光るような文章が好き。書き手が世界を愛しているのがわかる。
たしかに、氷柱よりおばけのほうが面白い気がしたけど、じゃあエッセイストとしてやっていってほしいのかといえば、やはり物語を書いていってほしい。気がする。

花やうさぎや冷蔵庫やサメやスーパーボールの泳ぐ水族館のように毎日はおもしろい。(p. 7)

そう、くどうさんの目に映る世界は現実の範囲ですでに可笑しさといじらしさが溢れているのだけど、もっと空想の世界にまで思いっきり筆を広げてほしい。絵本たくさん書いてほしい。童謡とかも作れそう。

自分のともだちのことを思うとき、それはおだやかにかわいい百鬼夜行のようだ。(p. 11)

くどうさん、私なんかシンパシーを感じる。話の中に、おもしろいともだちがたくさん出てくる。永い関係もそうだけど、一瞬の関係も大事に切り抜いて保存する。パソコンのひとも、内線のひとも、雪夜のタクシードライバーもみんな素敵だった。

絵本のようなことをいう恋人がいる。絵本のようなほんものの人生。(p. 137)

ときめきポイントが似てるのかも。付き合うに至る夜の話、2人ともロマンチストでやばかった。あとは、元彼の家の合鍵で瓶を開ける話もよかった。ナンパ師に車で送りますよって言われて、馬とかなら乗りたいって返したお姉さんもイケてる。絵本みたいに生きてたい。絵本みたいと思ったら、たぶんけっこう生きてける。

この次のエッセイ『虎のたましい人魚の涙』は未読だけど、短いあとがきがとてもとてもよかった。

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