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『透き間』

2023/5/14
@メニコンシアターAoi
サファリ・P

後輩が強く薦めるので弾丸名古屋で行ってきた。翌週に大阪インディペンデントシアター2ndでやるのでまだのひとは観てほしい。
演出とそれを可能にする役者の身体表現が豊かで舞台芸術として非常に楽しめた。透き間風は山の呼吸、跳ねる音楽は山の鼓動。他者からの支配によって奪われた自分自身の生のリズムを取り戻すというテーマに、自然の音とヒップホップが上手く取り入れられていた。

アフタートークでは戦争と復讐というテーマを軸に話が展開されていたが、もしかすると女性ゲストを招いたら、しきたりの裏で存在しないかのように扱われてきた人たちの声や、支配からの離脱、主権の回復といったテーマのほうに一層の関心が向けられたのではないかと思った。
原作や過去作についての知識がないので比較できないが、本作における山口茜さんのオリジナリティは、どちらかというと後者のテーマにおいて色濃く発揮されていそうだと想像する。

本作は現在もアルバニアにある復讐の掟、一族の男を殺されたら相手の一族の男を殺さねばならないというしきたりをもとにストーリーが展開される。暴力の連鎖、繰り返される悲劇、という言い方をすると、「復讐」と「しきたり」は似ているように思える。というか、この話に登場するのは「復讐のしきたり」なので、2つが混同されやすい。
けれど、「復讐」はこちら側とあちら側、味方と敵が決まっている、水平方向の暴力の連鎖であるのに対して、「しきたり」は地縁や血縁に従って代々受け継がれるもの、垂直方向の暴力の連鎖だ。先に述べたように、作り手の関心は「復讐」よりも「しきたり」のほうに向いているような気がしたので、この点が整理されると作品の輪郭が定まって、どの角度から本作を読み解くのがいちばん美味しいかを掴みやすくなるだろうと思った。
当日パンフレットを見るに、回を追うごとに少しずつ原作から独立しているようなので、ここが終点ではなく次回作がありそうだと期待してしまう。

山口茜さんは今回の稽古場について「恐い演出家がちょっとでも間違えたら灰皿投げる」ような現場ではなかったと笑っておられ、「幸いにも日本社会で女性として育ったのでそういうの得意じゃないんですよ」とおっしゃっていた。マイノリティ側であるからこそ持てる視野があることを「幸いにも」と言い切る姿に勇気をもらえる。
同時に、noteで私は何度も言及するが、女性であること以外はほぼすべての要素についてマジョリティ側である自分の特権性についても考えながら、この舞台で描かれた事象を反芻する。
(後半へつづく)

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