要約 富永仲基『出定後語』

〇仏教経典の相対化と学問的意図
〇加上とはテクストの歴史性と論争性である。
〇「三物五類」とは語義の多様化の過程の分類である。
〇「転」とは転義の説明である。
〇「国に俗あり」とは言説の受容に民俗的傾向性があるということである。
 
 本書は仏教経典を歴史的言説として相対化する。ただし、仏教批判というよりは、言説の正統性の争奪戦という混迷した状況をどう客観的に判断するかという学問論的意図が強い。まずある言説には「加上」というフィルターをかける必要がある。ある言説は常に対抗的言説をしのごうとする動機から生まれるという前提である。また、「三物五類」という言葉の意味の多様性が拡張されていくパターンが説明される。さらに「転」という言葉の転義の仕組みが語られる。また、「国に俗あり」という標語によって、各民族によって受け入れられやすい言説のパターンが述べられる。以上の学問的方法は、近代の客観的科学的意識を日本において先取りしたものとして高く評価される。また、言説を歴史的文脈から相対化して捉えることは、ニーチェのパースペクティブ性やガダマーのテクスト解釈学における「伝統」という地平への眼差しと通ずるものがあろう。

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