『あれ問答』
「ンア~っ!??」
ベッドから目覚めて開口一番、鳴り続けるスヌーズも忘れて、我を失う。
ない。ないのだ!どこを探しても、身体中をまさぐろうとも、あるべきところにあれがないのだ。
そう、"あれ"が、キレイさっぱり無くなっているのだ。
◯母
「かあさん!大変だ!ないんだよ!」
忙しなく階段をかけ下りる。
トントントントン。
母の手元で、まな板の音と重なる。
背中ごしに、みそ汁の湯気が香る。
「あらあら~、今日は早いわね~。」
「あら?あなた、"あれ"がないじゃない。」
そうなんだよ、かあさん。"あれ"がすっかりそのまま僕の中から抜け落ちてしまったんだ、と訴えかける。
「でも、ないほうがかわいくていいじゃない。ふふっ。」
「落ち着きなさい。"あれ"がなくても、あなたはあなたよ。さ、朝ごはんできたわよ。」
あぁ、何でそんなに落ち着いていられるんだ。
"あれ"がないなんて、格好がつかないじゃないか。
だが、見つかろうと見つからまいと、時間が来たら、家から出なければならない。学校へ行き、皆と学ばねばならない。
えいがままよ!
"あれ"は見つからないが、行くしかない。
落ち着いて、みそ汁をすする。
すするあいだ、"あれ"がないことが、頭の中をぐるぐると駆けまわっていた。
◯学校の親友
キーンコーンカーンコーン。
「マジうけるwww本当にキレイさっぱり消え失せてんのなwww」
シッ!みんなに聞かれたらどうすんのさ!
「恥ずかしいからみんなって?」
「無いものを見て何で怒られなきゃなんだよwww」
「隠すからばれんだよ。隠さずに堂々としてれば、誰も今のお前に"あれ"がないことなんか、わざわざ指摘してやろうなんて思わねぇよ。」
「まぁ、もともと無かったようなもんじゃん。おれじゃなきゃ、見逃しちまうね。」
「ドンマイドンマイ!、、、クッwwwマジうけるw」
「お前、"あれ"が無くなって、なんだか丸くなっていい感じじゃん。ま、いつでも相談にのるから。がんばれよ。」
◯学校の先生
休み時間。保健室へ向かう途中。
「資源を大切に」のポスター。
節電で蛍光灯が消えた、太陽の影が伸びる廊下にて。
「おぅ、顔色悪いな。大丈夫か?」
「どうした?先生が相談にのるぞ。」
あ、先生。実は......。
◇ ◇ ◇
「そうか、朝、目が覚めたら、あるはずの"あれ"がないことに気が付いて、恐ろしくなったのか。」
「そうだな、言われてみると、たしかにお前から"あれ"が無くなっているな。」
「先生は、いままで、いろんな生徒をみてきた。」
「裕福な家の生徒、貧乏な家の生徒。親がいない生徒、逆に父親が何人もいる生徒。外国人の血をひいた生徒、生まれつき肌が弱くて日光を避ける生徒などなど、様々、挙げればきりがない。」
「そのなかには、"あれ"がないと戸惑う生徒もたくさんいたよ。」
「思春期になると、"あれ"って何だろう?何で"あれ"ってあるんだろう?本当は自分には"あれ"があるのか?って考えてしまうものさ。」
「そうやって、"あれ"を見つけるために、いろんなことに手を出す。」
「これを試すといいよ、これを食べるといいよ。テレビや雑誌、今だとYouTubeの広告なんかに影響をうけては、試してみる。」
「だけど、大抵しっくり来なくて続かない。だって、自分の"あれ"は他人とは違うと思っているからね。これは、"あれ"じゃないってね。そもそもね。」
「"あれ"がないことでお悩みのようだけど、何も特別じゃないよ。落ち着いて、"あれ"を探せばいい。ちゃんと、君は特別なんだから。」
「さぁ、今日は家に帰りなさい。担任の先生には、先生から伝えておくよ。」
◯祖父
帰宅。親はまだ帰ってない。
病院に行くつもりで、早めにかえって来たのに。
縁側で、祖父が腰掛けて、庭を眺めながら茶をすすっている。
「じいちゃん、ただいま。」
「お~ぅ、おかえり。今日は、はやいのぅ。」
こちらを振り向く。
傍らには、いつも祖父のはなし相手をしているラジオが、聞き慣れない番組を流れている。
じいちゃん、"あれ"しらない?
無くしたみたいなんだ。
隣に腰掛ける。
「あぁ、"あれ"じゃろ。あの、そうよ、ええっと、"あれ"なんよ。わかる、"あれ"じゃろ。」
「歳をとると、なかなか言葉がでてこなくなるんでな。あれもこれも、みんな"あれ"になる。」
「そうじゃな。わしの若い頃は、"あれ"を見せつけて、生きとったのぅ。『これが、俺の"あれ"だ!凄いだろ!どうだ!お前たちはこんな凄い"あれ"ないだろう!』血気盛んに"あれ"を見せびらかしていた。」
「じゃが、"あれ"は人に見せびらかすものじゃない。若気の至りよ。今はもう豆粒ばかりの"あれ"しか残っておらん。」
「じゃけど、本当はそれでいいと、今では思っておるよ。」
「無いものを見て、あると思える。受け入れるまで、わしは、長い時間をかけてしまったなぁ。」
ふー、ふー、ふー。
ずずすずず......。
祖父が飲むのに倣うように、
落ち着いて、茶をすする。
一度、湯呑みを口の前に持っていき、ちょうど三回だけ、ふー、ふー、ふーと息を吹きかけて茶を冷ます。
幼いころから、こうやって祖父と縁側で茶をすすっているうちに、僕にも、おんなじような飲み方が染み付いた。
そういうものかな。
茶をすすりながら、ただただ庭を眺め、
無くなった"あれ"を、ぼんやりと思い浮かべていた。
◇ ◇ ◇
"あれ"をさがしもとめて、幾年月を経ただろうか。
無くなった"あれ"を埋めるため、ずいぶんと遠くまで来てしまった。永遠に終わらないような、"あれ"さがしの旅の果て。
もはや、"あれ"が何であったか、そもそも本当にあったのかさえ、記憶もおぼろげだ。
199X年、世界は核の炎に包まれた!
海は枯れ、地は裂け、全ての生物が死滅したかのように見えた。だが、人類は死滅していなかった!
蜃気楼ゆらめく荒野の果て、逃げ惑う民達は、
ひとりの漢の姿をみたッ!
「やぁ、君は、おちんちんかな?」
お鍋のなかからモワっと、
おちんちんおじさん、登場~♪♪♪♪♪
◯おちんちんおじさん
おちんちん。おちんちん。
にんげんは、みな、おちんちん。
あなたも、わたしも、おちんちん。
おちんちん。おちんちん。
ちんちんもとめて、さんぜんり。
おちんちん。おちんちん。
ついにみつけた、たびのはて。
\みつけた!/
"アレ"は、アソコじゃなく、ここにあったんだね。
ぼくの、おちんちん! 装着! パオーン!
𓃰𓀒𓀒𓀒𓀒𓀒ヌオオオオオオゥ!!
シャキーン( ・`ω・´)
おちがつく。
お後がよろしいようで!
(珍椿亭解解・作『あれ問答』より)
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