密会その2(内科医律vol16)
「では改めて乾杯!」
二人は律の行きつけの会員制の店にいた。
「しかし本当に久しぶりでしたね、顔を忘れるところでしたよ」
『申し訳ありません、ちょっと上司とトラブルがあって退職も考えて動いていたので・・・』
「え?上司ってあの?」
『はい』
真中伊織が言う上司というのは前回の講演会で律にべったりくっついていたあの男のことだろう。
コテコテの典型的おべっか使いのベテランMRだ。
「それでも辞めずに続ける事にしたの?」
『はい、というよりもいろいろと上司に問題が噴出して上司の方が異動することになったのでもう少し頑張ってみようと』
「なるほどね!じゃあまだしばらくうちに来ますね?」
『はい!もちろんです!』
二人はその後もしばらくお酒を飲みながら核心の話に入っていった。
会員制のその店は隣の席との距離もあり「密談」には最適な場所であった。
「しかしこれだけ治験の結果に手を入れてしまってはさすがにエビデンスとして世に出すのは無理なのでは?」
『そうだと私も思うのですが、開発の方の話を聞く限りは前に進んでいるような感じでして。。。この前も国際大阪学院大学の岡野教授がいらしてましたし』
岡野は以前に律の学会での発表に茶々を入れてきた関西のドン的な医者だ。
「癌治療の闇は本当に深いね。ただ今これを世に出したところでなかったことにされるだけなんだよね。ただ現在の医療に疑問を持っている人間はコロナで確実に増えているのは確かなので、タイミングが重要ですね、これは私が預かりますね」
『ありがとうございます』
「私の話を聞いて感銘を受けてくれてここまでの行動を起こす勇気は素晴らしいです、必ずあなたには危害がないようにしますから安心してくださいね」
『ありがとうございます!』
「さて、ちょっと雰囲気変えてここからは楽しく飲みましょう!場所変えようか?どこがいいかな?」
『先生が言われる場所ならどこでもついて行きます!』
真中伊織の表情はあの夜のそれにすっかり戻っていた。
「どこでも?そんなこと言って大丈夫か?」
「まぁ君が担当のうちは訪問もしずらくなるだろうから口説くつもりはなかったんだけどなぁ
あ、でもどうせ3か月以上来てなかったし別に良いかwww」
『もうぅ、先生!それは事情をお話したじゃないですかぁ。。。』
真中伊織は困ったような顔をして律を見つめていたが、その頬はお酒のせいなのか、それとも恥じらいのせいなのかほのかに紅潮しているのだった。
to be continued
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