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ある恋の記憶(vol19)

「おはようございます4/12金曜日の朝、いかがお過ごしでしょうか」

ラジオから流れるアナウンスで律の脳裏には古い記憶が浮かび上がった。

今日4/12は中学校のクラスでマドンナ的な存在だった朋美の誕生日、記憶に残っているのには理由がある。

律の中学校はこの時期に東京に修学旅行があった。当日の行動は6人程の班に分かれて行動することになっていた。

男子の誰もがマドンナである朋美と過ごす時間を夢見ていたのだが、少年律は何と同じ班になることを勝ち取ったのだった。確かくじ引きとかではなく各々で相談して班を組んだ記憶がある。

とにもかくにも朋美との自由行動を勝ち取ったクラスの精鋭男子は野球部主将でいつも髪をジェルでしっかり固めるオシャレ男子高畑、サッカー部のエースでお笑いセンスも抜群の人気者須藤、そしてその二人と仲良しだっただけだった地味なメガネ男子である少年律の三名だ。

男子達は、朋美との時間をどう過ごすかのプランニングにまだまだ発達途上の脳を最大限に使っていた。

そして最大のポイントは行程の途中で訪れる朋美の誕生日に何をプレゼントするかであった。

迎えた誕生日当日少年律らの班の男女6人は原宿にいた。

最初に動いたのはいつも以上にジェルで前髪をキメていた高畑だった、それとなく朋美を若者向けのジュエリーなどが並ぶ店に連れて入って行った。楽しそうに買い物をしながら朋美は気に入ったアクセサリーを誕生日プレゼントとして買ってもらって上機嫌だ。

その日は律と須藤は共に動かず。
正確に言えば律は動けず、須藤は動かずだったのだが、それを律は翌日思い知る事になる。

翌日は最終日の夢の国。

当然女子達のテンションは最高潮であった。

アトラクションに6人で乗り楽しい時間を過ごしていたが少年律と須藤にはやり残した事がまだあった。

ランチを終えて次のアトラクションに向かう時に須藤が動いた!道中にあるショップに朋美を誘う、朋美が好きなプーさんのショップだった、そこで須藤は朋美が選んだプーさんの食器のセットを誕生日プレゼントとして買ってあげたのだ。大喜びの朋美をよそに少年律は明らかに追い詰められていた。
他の男子2人がそつなくプレゼントを買い終わっていたからに他ならない。

しかしながらウブな少年律は朋美をショップに誘うタイミングすらも掴めないままでいた。

時は残酷なまでに刻まれる。
男女6人を照らしていた春の太陽は既に西の空へと移動し、おマセ男子2人と同様に本日の「任務」を終えようとしていた、それは少年律の心をさらに圧迫した。

周囲が暗くなり、夢の国はエレクトリカルパレードを待つ人々の群れで溢れ始めていた。当然朋美達女子らの心も既にそちらに向いていた。少年律はさらに朋美をショップに誘うタイミングを失っていた。その時朋美が声を発した。

「ちょっと気になるお店があったから見てくる!」

それを聞いた少年律は考えた。
自分もお土産の買い物のフリをして同じ店に行ければそのタイミングでプレゼントを買ってあげる事が出来ると。

その場を離れようとする朋美の後を追うように少年律もそれに続いた。店に入りお目当てのものを探す朋美、それを見守る少年律、朋美が買いたいものを見つけたタイミングで声をかけた。

「それ、買ってやるよ、誕生日だし」

「えー?律ちゃん、これは私が自分で買うって決めてたからいいよ、結構高いし」

「いいってば!こんな値段のもらえないから」

そう言いながらレジに並ぶ朋美。
それ以上は何も言えなかった少年律。

そしてまもなく始まったはずのエレクトリカルパレードの記憶は律には残っていない。

出勤前のラジオを聞きながら律は心の中で思っていた

「今度の帰ったら久々に行ってみるか、あいつの店に」

to be continued



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