見出し画像

導き (内科医律Vol22)

2024年 8月
東京も例年にも増して暑さの厳しい夏を迎えていた。

律はここ数年夏休みらしい夏休みも取る事なく働いていたが、今年は思うところもあり1週間の夏休みを取ることにしていた。日曜や祝日を合わせると実質10日間の長期休暇となった。そんな夏休みを直前に控え病棟で仕事をしている律に話かけてきたのはいつも飲みやらご飯やらを共にする看護師の宮野瞳だった。

瞳「先生明日から夏休みなんですねぇ、どこに行くんですかぁ?」

律「久々に長く時間が取れたから一人で車で関西方面をまずは回る予定、それから帰省かな✈️」

瞳は明らかな疑いの目を律に向けながら言う

「一人で?それはないでしょう、律ちゃんに限って」

律「限ってってなんだよw、ちょっと自分の感じるまま動いてみたいから敢えての一人旅です」

瞳「明日から愛美さんも休みになってるからてっきり二人でどっか行くと私は読んでいたのですが・・・」

愛美とは瞳の先輩看護師である保園愛美のことだ。

その愛美とは瞳との3人での食事の後に酒に酔い潰れてしまったところを自宅に送って行くこととなりその流れで一度関係を持った過去があるので瞳のその指摘は律としては「ドキッ」とするものであったのは事実ではあったが、愛美とは確かにそれ以後には何もないのもまた事実であった。

「今回は今まで行ってみたかった場所、神社とかパワースポットとかも含めて自分が導かれた場所に行く旅なのよ、たとえ深キョンが一緒に行きたいと言ってきても一人で行くよw」

律は瞳にそう言って、病棟をあとにする。

瞳「はいはい、そうですか、そうですかっ! とりあえず気を付けて行ってきてくださいね、お土産待ってまぁす!!!」

今回の休みは不思議なコトにどうしても一人旅がしたいと思っていた。
現代医療に対する不信感については以前から感じていて事実いろいろな勢力と戦ってきたが、律はすでにそうした連中の顔は脳裏からは消え失せていていて、そんな小さな存在ではなくもっと大きな存在、人間が到底敵うはずのない大自然や神といった漠然としたそれでいてはっきりと感じる事も出来る存在、そんなものを感じてみたいと思い立っての旅なのだった。これまでに経験してきた家族旅行とも、愛する相手との旅とも、気の置けない仲間とのゴルフ旅行の前でも感じたことのないワクワク感が律の心の中にはあるのだった。 

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?