真相の真相(内科医律vol8)
「叙々苑は来週の金曜日の夜ならいいよ」
律は瞳にこうLINEを送った。
彼女が夜勤明けで夜はおそらく空いているであろうことを見越しての誘いだった。
「明けだからちょうど良いです!やった!楽しみ💕」
瞳からは予想通りの返信がしばらくして届いていた。
二人で食事をしているところを目撃されるといろいろと噂も立つ可能性はあったのだが、元々職場では最も意識していた瞳が相手でもあり律も吝かでない気持ちは正直あった、ただそれも愛美との夜を境に揺れ動いているのもまた事実ではあったのだが。
そして迎えた当日正月明けとはいえ暖冬の今年はやはりそれほど寒くはなく
銀座の街行く人の服装もやや軽装も目立つほどであった。
「お待たせ律っちゃん!」
銀座三越の玄関前に立っていた律の後ろからいつもの瞳の声が聞こえた。
振り返ると瞳はブラウンのダッフルコートに赤のマフラーを巻き、その風貌は一見女子高生と勘違いするほどだった。
「どこのJKに声かけられたと一瞬思ったでしょ?残念でした!」
「でも私ならどこに連れてっても犯罪じゃないのでご安心をw」
いつもの調子で瞳は律を茶化すが、相変わらず見透かされたような物言いに
律は若干当惑する。
「あ、さぁ、行くか、肉食いに!」
精一杯に平静を装い二人は店に向かった。
瞳は極めて自然に右に持っていたバッグを左手に持ち変えて律の左側に移動し自分の右腕を律の左腕に組んできた。
「えーっと、まず牛タン2人前!、上カルビも二つと、上ハラミ二つとサンチュ!あと生2つお願いします」
瞳が手際よく注文をする。
「カンパーイ!」
二人はビールで乾杯して食事をしながら最近の病棟内での出来事や他の医師の話などを始めた。医療関係者というのはこういう場所にきても結局仕事の話しかしない生き物なのは律も瞳も例外ではなかった。
「でもさ、あのクリスマスイヴはほんと嬉しかったんですよ!」
「愛美さんも言ってだけど、あんなことしてくれる先生は律ちゃんだけですからね」
瞳は珍しく律を誉める。
「まぁな、クリスマスイヴに夜勤してる悲しいナース達にせめてもの救いをなw」
律は瞳相手だと軽口も簡単に出てきてしまう。
「ほんとは私を誘いたかったけど勤務表見て作戦変更したんでしょ?わかってるわかってるうんうん」
ビールをすでに2杯飲んだ瞳はいつも以上に饒舌だ。
「あー、それだけはないなー」
律はすかさず答える
「まぁなぁ、愛美さんには私なんて敵わないよなぁ。。。」
「そういえば最近愛美さんなんかより綺麗になった感じしません?良い匂いするし!あれは絶対彼氏か好きな人出来たよね?律ちゃん感じない?てか心当たりない?w」
瞳の相変わらずのピンポイント発言に律は慣れることもなく困惑したが
「そういえば後輩の浅尾が愛美さんのこと気になるって言ってたけどな、でもさすがにまだ何も起きてる感じはないけどな」
律は冷静を装って答える。
「浅尾先生かぁ、なんか違うなぁ、律ちゃんはこの病院勤務が長いみたいだけど何も今までないの?愛美さんと。。。」
「俺には高嶺のハナコさんだね」
と答えるのが精一杯だったがいつになく今夜の瞳はそれ以上追及してこなかった。
「そうなんだぁ、じゃあ、お腹いっぱいだし次行くよ!まだ飲むぞ!」
「おいおい、飲み過ぎだって。。。」
「大丈夫!つぶれても律ちゃんこないだ私の家の場所も部屋番号も覚えたでしょ?ラクショーwww」
夜はさらに更けて行った。
to be continued
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