NOPE(ネタバレあり)

紛れもないジョーダンピールの最高傑作。
IMAXGTレーザーで画角がコロコロ変わるのに戸惑っていたのも束の間、早く全画面になれ!と言う欲望を刺激され、本作最高のOJが広大な地を馬に乗って駆け抜けるショットが登場した時の快感は筆舌に尽くし難い。
この恍惚的なショットはジョンフォード、ハワードホークス→スピルバーグ→ジョーダンピールという直線的な継承構造を見せながら、ピールはそこに新たな視点、抜け落ちていた視点を加える事でアクチュアリティを持たせている。それを象徴しているのが、劇中で何度も出てくる映画のオリジン的な人物である黒人騎手の存在である。
よく言われている見る/見られるの搾取的な構造が劇中で何度も示唆される中で(登場人物3人がカメラを正面から覗いているショットはギョッとする)漠然と連想したのは「ブラック・フライデー」という小説の一編。街に出る黒人がいかに"黒人レベル"を下げるか(できるだけ人と目を合わさない、派手な服を着ないetc)ということが詳細に書かれており、古くから「黒人とは目を合わすな(危険だから)」と植え付けられてきた白人のスティグマを反映したものである。
OJがとうとうその正体不明の怪物(女性器の形を思わせるという点は、それが"隠さなければいけないもの"とされてきた歴史を投影してるのかも)と正面から対峙するショットは、黒人を虐げてきた社会の暗部を見つめ、LGBTQ+アライの象徴でもあるレインボーフラッグを武器に、目に見えない構造的差別と闘う姿を表現していると解釈した。

追記:
いろいろ考察を見漁ったがキリが無い。
マイノリティ的な立場で共鳴していたスティーブ・ユアンが資本主義の体制側に回ってしまったことから起こった悲劇とか、とにかく"記録に残す"ことへの執着(当初はバズりで金を稼ぐといういかにも資本主義的な目的があったが、それも雲散霧消していく)であったり、散々ハイテク機材を使い倒しながら結局役に立ったのは超アナログなポラロイドであったことなど。
めちゃくちゃゆっくり喋る撮影監督が最後の大仕事としてIMAXカメラを頑張って手回しするところはなんか泣けるし(リコリスピザのトムウェイツを思い出す)、ユーフォリアのバービーフェレイラがちょい役で出てたのも良かった。

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