「アトランタ シーズン3」1話ごとの覚え書き

エピソード1

白人男のレイシストなのかよく分からない陰謀論、ジョーダンピールの「アス」的な画から繋がるのは1人の子供。「強くならなければ白人に殺されるよ」と言って暴力、抑圧の中で育てられる黒人男児は児童相談所によって連れていかれる。引き取るのは善人そうな2人の女性だがどこか不気味。黒人の子供を養子として預かる彼女たちは目的がよく分からず、生活にも困っているようである。

黒人の子供がたくさん部屋に押し込まれている光景は「ゲット・アウト」並の不気味さを醸し出し、その後の電話線ブチーンで完全に狂気の世界へ。タランティーノ的な結末に涙が出る。全てはシステムの問題なんだけど、個々の人間がもう少し他人のことを思いやることはできないのか?そこで割を食うのはいつも、自己決定権が限定された子供たちである。エピソード1にして最高傑作とも言える衝撃作。

エピソード2

オランダの「ズワルトピート」と呼ばれる概念(白人たちが顔を黒塗りにする恒例行事)を初めて知る。ライブ会場がそれらで埋め尽くされる異様な光景。ライブの主催主がアーンと黒塗り男性の見分けがつかずタコ殴りにしてしまう皮肉。
なぜアルの遊び相手2人は乱闘したのか?あの酷い殺し方の儀式みたいなものはなんなのか?色々と謎が深まる回であった

エピソード3

イギリスのパーティーには多様な人種・階級が入り乱れている。富豪の白人男性(アートの価値をまるで理解してない間抜け)の金をむしり取るある意味クレバーな黒人アーティスト、アジア人女性のちょっとした発言を槍玉に上げ袋叩きにする自称リベラル集団など。特に黒人の権利が!と声高に唱える人物達から無意識的に漏れ出るアジアンヘイトの数々はかなり居心地が悪い。チェーンソーは爽快。

エピソード4

このエピソードもまた主要登場人物が出てこない。黒人が白人の家系を辿っていって、過去の奴隷労働に対する訴訟を起こせるようになった世界。エピソード3までは白人の内に潜む無自覚な差別意識を炙り出していたが、エピソード4ではその先、"社会的弱者の先鋭化"が極限まで達した挙句の白人達の「肩身の狭さ」を表している。その歯車の止められなさは現代のキャンセルカルチャーに対する警鐘とも解釈できる。これを見ながら思っていたのは、いや果たしてこの話を日本vs韓国の関係と重ね合わせる人がどれだけいるのだろうか…ということ。

エピソード5

アトランタというドラマの特異性、それはアクチュアルなテーマを取り上げながらフッとそこに入り込んでくる幻想性(シーズン2における至極のエピソード「森」のよう「)、文字通り"夢のような"世界が描かれる瞬間こそがユニークであり、本エピソードでは久々にその感覚が蘇ってきた。陰謀論めいたことを説き続けるダリウス、的を射ない発言を続けながらも、時々「全てを見据えている」ような不気味な雰囲気を見せるワイリーが肝か。この一筋縄ではいかない感じがとても心地よい。

エピソード6

ここまで一つ一つが濃すぎたからか、割と落ち着いたテンポで見られる。とはいえ扱っているテーマは「黒人達が受ける搾取と文化盗用」である。ナイジェリア料理の店に連れていった女性がいつのまにか店を買い取っており、働いていた店員のことも見放す。慈善活動が企業の広告によって資本主義の渦へと飲み込まれていく。今シーズンはとにかくダリウスが素直で、ヴァンが不気味。

エピソード7

スタンドアローン(主要登場人物が出てこない)回も3回目。トリニダード・トバゴのベビーシッターに育てられた白人の子供が、親の知らない間に様々な文化を吸収していた…一方で実の娘は、母が子守りの仕事のために自らに愛情を向ける時間が無かったことに対して怒りを露わにする。その搾取の構造に思考を向けるまでもなく「暴力的」と切り捨ててしまう展開の皮肉。
さすがドナルド・グローヴァー監督エピソード、"幽霊"描写も薄気味悪くて最高。

エピソード8

アムステルダム特有の妖気、現実と幻想が入り乱れる。「キャンセル・クラブ」というネーミングセンスは抜群ながら、語られるテーマは重層的で複雑。これまでで最もとりとめのないエピソードと言えばそれまでだが、シーズン2「森」にも通じる不思議な魅力を放っている。

エピソード9

またもスタンドアローン、そしてドナルド・グローヴァー監督回。唯一の全編モノクロである理由は、これまでのエピソードで割と前面に出ていた十把一絡げな"白人感"に対する認識のひっくり返しをするためか。(とにかく今回は批評的な視野の広さがハンパではないのだ)
極地で起きる分断と、そこから引き起こされる暴力が、差別発言の温床になり得るオンラインゲームの世界と一体化していく構成が面白い。序盤にじっくり映し出されるポスト・マローンのポスターが示唆するものとは?
補足: デュアリパ、リゾ、リアーナ、21サヴェージ、slowthaiなどの固有名が出てくるのも楽しい

エピソード10

最終話にしてカオス、超ハードボイルド。アイズ・ワイド・シャット的な謎のパーティー+カニバリズムを見てるだけで楽しいが、着地はなななんとメンタルヘルスの話に通ずる。改めてとんでもない射程距離を持った作品だと実感。某有名俳優のパンイチダンスで爆笑した。
そしてポストクレジットはまさかの円環構造を匂わせる不穏な着地…シーズン4が待ち遠しくて堪らない。

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