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猫の地球儀を読め

 秋山瑞人のことを日本最高の作家だと思っている。ラノベで一番ではない、作家全体で一番好きなのだ。
 その中でさらに一番好きなのが「龍盤七朝」だが、残念ながらこれは完結していない。まずはちゃんと完結した「猫の地球儀」を読んで欲しい。それか「イリヤの空」を。

 ところでこの作家、電撃文庫から6シリーズ出して半分は未完のまま放置されている。ハヤカワSFマガジンで予告された陸海空三部作もいっこうに出版されない。まあ秋山瑞人はあまりにも最高の作家なので、完結しないという欠点があってもなお最高だ。君も、秋山瑞人がE.G.コンバットを完結させるまで死にたくない気持ちで不老不死になろう。

 さてジャンルで言えば、猫の地球儀はSFアクションものだ。人類が放棄した宇宙ステーションに取り残された猫たちが、人類の遺物を利用して生きている。主人公の一人は、最強の機械操縦士である猫。もう一人の主人公は、猫政府に禁じられた研究を進めている科学者だ。
 猫社会独自の風俗と価値観。それが話のあちこちで自然に垣間見えるさまはとても楽しいし、本筋に関わらない部分がさらっと流されていく中で描写されているよりも広い世界が感じられると、心が浮かび上がるような喜びがある。

 だが何よりも秋山瑞人作品の良さは、描写の美しさにある。
 これ以外の物語では、人の外見を具体的に描くことなく動作から想像させる作風を好む秋山先生。だが猫の地球儀では、猫であることを念押しするために視覚的にも踏み込んでキャラクターを描いていて、とっつきやすいのではないかと思う。
 人称がころころ切り替わりながらも違和感は全くなく、リズミカルに転がされてどんどん読むのが止まらなくなる。世界の語り口で人物を見せ、心情を語りながらもっと広い社会を見せる。あちこち飛びながらはっきりとした筋が通っていて、的確に心のツボを貫いてくる。

 もう語彙が足りないので、適切な言葉を出せない。読め、読めぇえぇえええ! 読めぇえぇえええ!と叫んで終わらせたくなる。

 ともかく、小説の良さを強く感じた思い出の作品なのだ。漫画の方が、映画の方が小説よりも多くを伝えられるんじゃないかと思っていた自分を打ち砕いたのが秋山瑞人作品なのだ。ノーベル賞を取るべきなのだ。星雲賞しか取ってないなんて世界は間違っている……!
 文章だけで伝えるのが手っ取り早い、というテキストはあっても、文章でなければ伝えきれない密度濃度を教えてくれる小説はそうはない。

 猫の地球儀を読め。二巻で完結して大満足の傑作ラノベ。今ではちょっと入手が面倒そうだが、もし万一見かける機会があったら迷わず手に取ってほしい作品だ。


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