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ずっと大好きです

12月19日、朝スマホを見てそのニュースを知った。悪夢なら醒めてほしかった。
大好きな役者さんだった。

「アナと雪の女王」で神田さんが演じたアナの声を聞いてからずっと気になる存在だった。私はヒットして流行しているという雰囲気が苦手で流行りのものに手を出せない性質なのでアナ雪を見たのも割と最近だ。友達がカラオケで「雪だるまつくろう」を歌ったときに流れた本編映像に興味を引かれてレンタルしたのだが手短に言うと予想をはるかに超えて素晴らしかった。エルサとアナのすれ違いが切なく、アナの溌溂とした明るさと健気な姿が眩しい。この全力で味方になってあげたくなるアナのキャラクターに神田さんの声が素晴らしくマッチしていた。イメージとしては幼い頃大切にしていたおもちゃの宝石箱を思い出す、女の子の夢が詰まっているような可愛らしいお声。言うまでもなく歌唱力も最高。こんなに周りを照らしだすように明るく歌えるなんてすごい!とその歌声に聴き惚れた。

それから毎日神田さんの歌を聴いている。
私は比較的最近の曲しか知らないのだが黒崎真音さんとのユニットALICEs(アリセス)の「私の永遠」は毎日のようにYouTubeで視聴している。このMVは神田さんの作詞の楽曲と黒崎さんが監督した映像で世界観がとても好みだった。後半は衝撃の場面もあり、この二人の関係性について小説でもあったらいいのにと思っている。続く楽曲「Chocolate_Cosmos」も黒崎さん作詞の歌詞の言葉選びがとても好きだ。二人の表現力が美しく切ない世界観で光っている。是非聴いてみてほしい。

私のプレイリストの半分は神田さんの歌声だ。ボカロ曲をカバーしたアルバムで、私は元々ボカロに興味は無かったのだが、緒方恵美さんとコラボした「ロキ」を聞いて以来神田さんのボカロカバーを聴きこむようになった。お気に入りは「バレリーコ」、「ラストリゾート」、「ジターバグ」、「リコレクションエンドロウル」「Good Morning, Polar Night」。勝手に高い音域が得意な方だと思っていたが、意外と低めの音程で歌っている部分に安定感があったり、歌唱力も表現力もずば抜けている。細かいリズムもぴったりハマっていて気持ちいいしワンフレーズごとに表情を変えていたりとディテールまでこだわっているのがよく分かる。何よりボカロ曲を歌って世界観を崩さず持ち歌レベルにしてしまう辺りが超人的だ。しかもセンスではなく一曲歌うのに1から100までイメージと構想を考えて計算して歌っている感じがする。この“頭で歌っている”感じは何かコンプレックスと表裏一体のようなものなのだろうと漠然と感じていた。そうして身に着けたスキルや経験の中で自分なりのロジックを固めていったような、センスで歌う天才型とは正反対のタイプなのだろうと思ったのだ。
世代的にご両親の活躍をよく知らないので、神田沙也加って人がすごい!と話していた時に父が「ああ、松田聖子と神田正輝の娘だろ」と口をはさんで初めて知ったくらいだ。なんと言えばいいのかこの姫川亜弓感。


2月に神田さんが出演した舞台「ローズのジレンマ」を見た時は素敵すぎて見終わった直後にもう一公演チケットを確保したほどだ。コメディもシリアスもロマンスもたっぷり詰まった作品で大地真央さんとの掛け合いも素晴らしかった。この時神田さんが演じていたアーリーンという女性も健気で悲しい女性だった。母親に対する思いが、境遇は違えど自分に重なる部分もあって沢山の台詞が印象に残った。

「私、あなたからもらった手紙を全部取って置いてた。だって手紙があなたからもらえる全てだったから。でも手紙をハグするのって難しいのよ、とりわけ“母より”って書いていないときは」
「私34歳よ!19歳の時にあなたが必要だったの!」

この作品は今まで観た中で一番大好きな舞台で、映像化されていないのが本当に残念だ。いつか再演されることがあったらまた見たいと思っていた。動画サイトのダイジェスト動画を未だにずっと見ている。


8月のミュージカル「王家の紋章」に神田さんが出演すると知った私は先行抽選開始と同時に申し込んでチケットを確保した。「王家の紋章」は原作を読んだこともなかった。シナリオの差異なんかに気を取られるのも嫌だったので結局開演前に軽くあらすじを読んだだけ。物語についていけるのか不安だったが、結論から言うととても楽しめた。
神田沙也加さんの演じるキャロル、通称“さロル”の可愛らしさ。セットや衣装も凝ってて豪華な舞台だった。ピンク色の衣装がとても似合っていた。セルフネイルで衣装に合わせた“キャロルピンク”を塗っているとインスタで知って自分の役に愛情をもって演じてらっしゃるのだと分かった。同じマニキュアを買った。気づけばYouTubeで紹介していた化粧品も集めていた。コメント欄でも多く見られた意見だが、神田さんの化粧品紹介は分かりやすく丁寧で全部欲しくなる。BAさんでも天職として輝いたかもしれない。自分とは全く違う生い立ちで、華やかで実力のある芸能人なのに何故か身近に感じられる不思議な魅力のある方だった。

11月のミュージカル「マイ・フェア・レディ」もずっと楽しみにしていて、神田さんのイライザを見れたことがとても嬉しかった。前半部分の口汚い台詞は神田さんの声で聴いてびっくりしたが、すぐに愛嬌たっぷりのイライザが大好きになった。
「だったらいいな」はアナ雪の「生まれてはじめて」を彷彿とさせるような楽曲で、こういう歌を歌ったらピカイチな魅力を放つ神田さんにピッタリだった。公演で一番印象に残った曲で、動画サイトで頻繁に見返している。
お気に入りの衣装としてSNSにアップしていたグリーンのドレスがとっても似合っていて可愛かった。印象的な白黒のドレスで叔母の暗殺説を語るシーンでは沢山笑い、王女様のような白いキラキラしたドレスは気品に溢れていて美しさにうっとりした。神田さんの圧倒的なヒロイン感が舞台で際立って素晴らしい舞台だった。
少しだけ残念だったのは、前半でがなるような台詞もあったから無理をしたのか後半は喉の調子がイマイチのようで高音部で声量が足りていなかった。しかしプロの根性を見せられたのもここだった。喉に不調を感じると普通は無意識に表情に出てしまうと思う。喉に手をやりたくなるし、高音で歌うとなれば声を張るときに顔をしかめてしまったりしがちだ。しかし神田さんは明るいイライザの表情のまま、一音も外さず歌い切った。音を外さず出せるギリギリの声量を攻めたのだと思う。華やかな笑顔で歌いイライザの仮面を外さなかった女優魂に心から喝采を送った。

次は「銀河鉄道999」でメーテル役が決定したと知って、チケットを取ろうと発売日まで指折り数えているところだった。


未だに信じられない。
あんなに華やかで生き生きしていて太陽みたいな人が。ファッションのお仕事、アニメや漫画が大好き、と好きなものに真っすぐな印象が強かった。毎日通勤中に歌声を聴いて、運転する時も曲を流して一緒に歌っていた。神田さんみたいに歌いたくてカラオケで沢山研究した。
ちょうど一か月前に見たあの「マイ・フェア・レディ」が遺作になってしまったのだと思うと悲しくて仕方がない。繰り返し動画を見ていたので神田さんの声で「だったらいいな」が頭の中で流れ続けている。

こんなことならもっと早くから舞台を見に行けばよかった。たった三作しか見れていない。チケットは取っていたたものの無観客公演で配信になってしまった朗読劇「女王がいた客室」はきっと劇場で観る機会があると思って視聴は見送ったのだ。神田さんが演じるエレオノーラが見たかった。見るべきだった。
これから舞台で彼女を見ることができないという現実に打ちのめされている。眩しいくらいの多幸感に満ちた笑顔で舞台に立っている姿が大好きだった。春風に声があるとしたら神田さんみたいに歌うのかもしれない、と本気で思っていた。

訃報を聞いてから何度も夢だったんじゃないか、何かの間違いだったのではないかと思いニュースを見るものの見れば見るほどショックで涙が止まらなくなった。物心ついてからこんなに泣いたことはなかった。そのうちにとってつけたようなゴシップ記事まで出てきて絶望が増すばかりだ。

陰謀論を唱えるつもりは無いが、憧れて慕っていた大地真央さんから受け継いだ念願のイライザをこんな形で投げ出すとはどうしても思えない。いかにも悩みが多いという報道があるけれども彼女はもっと厳しいときだってひたむきに努力して実力を伸ばしてきたはずで、そういった人並外れた根性があるからこそ“スターの娘”でなく”神田沙也加”として活躍してきた。それも誤魔化しのきかないミュージカルや舞台で。下種なゴシップを信じることはプロとしての彼女を否定するようなものだと思う。共演した芸能人の追悼コメントを見ても、明るく努力家で人当たりが良くいつも周りに気を配っていたとプロ意識の高さと人柄の良さが分かる。そんな人が、立場も影響も十分に分かっているはずの人が自分の舞台の直前に自ら、とはどうしても信じられないのだ。万が一思い悩んだ末の行動だとしても状況も遺書を残さなかったこと(書き置きと呼ばれていたものがどうして遺書に成り代わったのか。神田さんは悩み事は書き出して整理すると自身の動画で言っていたし遺書なら共演者に何もないとは思えないので意図的に遺書として書いたわけではないのでは?そもそも15センチの窓からどうやって?)も不自然に感じられた。亡くなったことだけでも信じがたいのに考えれば考えるほど腑に落ちずにもやもやと苦しくなるだけだ。しかし私ごときが何を考えたところで、納得しようがしまいがもうどうにもならないことは嫌というほど分かっている。私は自分が今まで見てきた彼女を信じることにする。

あまりに突然で受け入れたくない。太陽を失った。生きる楽しみが一つなくなった。文字にすると大げさに見えるが、この先も出演作は必ず観に行こう、ずっと応援したいと思っている役者さんだった。この文章も、大好きな役者さんについて書こうと少しずつ書き溜めていたものを修正したものだ。とても楽しく書いていたものをこんな気持ちで見返すことになるとは夢にも思っていなかった。記者会見で神田正輝さんが抱いた骨壷が小さくて息が苦しくなった。ピンクのカバーが掛けられていて、それを見た瞬間に本当にあの人がいなくなってしまったんだと分かった。

彼女の冥福なんて祈りたくなかった。
ただただ帰ってきてほしい。


本当に大好きでした。心から尊敬していつも舞台を楽しみにしていました。素敵な舞台や歌に出会えて幸せでした。これからも大好きです。ありがとうございました。

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