メディカルイラストレーション描き方メモ

まずは最重要,色鉛筆。
これがなくては始まりません。
「ここだけはいいものを」との強いお言葉に押されて
ドイツは Faber-Castell社のポリクロモス色鉛筆36色をチョイスしました。
以前にとある脳神経外科の先生にも愛用品だと紹介いただいたことがあったんですよね,これ。
油芯の色鉛筆の存在を今回初めて知りましたが,色の伸びがよいのだそうで。
バラ売りもしているので,人体によく使う色のグラデーションでそろえるのでもOKとのことです。
文房具店で取り扱っていますがセット売りならAmazonでも買えます。
最多120色は壮観ですがお財布を粉砕するお値段ですので,ご購入の際には吟味ください。
めっちゃ反射してるけどBです
続いて鉛筆。
100円ショップで箱売りしているような激安品でなければなんでもいいとのことでした。
芯はBでも2BでもHBでも。
四半世紀ぶりくらいに練り消し買いました。
消しゴムと練り消しです。

色鉛筆で塗った後に消すことを考えて,色鉛筆用の柔らかい消しゴムを勧められました。
普通のプラスチック消しゴムだと削れてしまう? そうで?
練り消しはハイライトをつけて立体的に見せる際に使うのだとか。
なるほど、「立体的に塗る」よりも
「塗った後に練り消しをかけて立体的にみえるようにする」
ほうが確かになんとかなりそう。使うのが楽しみです。
ちなみに尖った角を使えるようにカッターナイフも用意しておくといいそうですよ。
プリンターからぶっこ抜き
クリップボードとA4用紙です。ボードは,あれば机の凹凸でガタってなったり紙がずれたりするのを防げます。
ただ,写真みたいにプラスチック製でツルツルした板面のほかに,
すべり止め対策なのか結構ザラザラしたタイプもあったので購入の際にはご自分に合ったものを。
紙については,最初は色の塗りやすいイラストボードなども検討したのですが,
「先生の身近にある紙のほうがよいのでは?」ということでなんの変哲もないA4のコピー用紙を使うことにしました。


「たくさん時間かけるとどんどん線に迷いが出てきちゃうんですよ。ズバッと描いたほうが線が生きます」

「躍動感がある」くらいにとらえとけばいいんでしょうか。
こうした外観や解剖図のときにはランドマーク(手でいえば手首の内外の骨の出っ張り,そこから親指に向かう手のひらの厚み,指の関節を同一円周上に置くこと,あたり)を意識するといいですね。例えば手ならまず手首で橈骨と尺骨が出っ張っているようにみえること。親指に向かう線で手のひらの厚さを表現すること,指の関節は隣の指の関節と同じ弧の上にあることなんかです」
「例えがよくわかりませんが。
あとはこうした外観や解剖図のときにはランドマークを意識するといいですね。
例えば手ならまず手首で橈骨と尺骨が出っ張っているようにみえること。
親指に向かう線で手のひらの厚さを表現すること,
指の関節は隣の指の関節と同じ弧の上にあることなんかです」

なるほど、大事なところはだいたい出っ張ってるみたいです。
でもこれはわかる話。絵が描けない人間って基本,立体感が出せないですからね。
なにやってもエジプトの壁画よろしく平面構図しか出てこない。

「バランスをとるための円の中で凹凸がちゃんとするとぐっと手の厚みが出ますよ。
真上から見ても手の厚さってわかるんです。
はやーい。
って,おお! 自分でも描いてらっしゃるけど進歩がみえる。

新しく描くことでこうして比較ができる。
「手早く描くのを繰り返すことで自分のなかで『正しい線』の感覚がつかめるようになってきます」
それにしてもこの指の谷間。ちょっとした線と陰を入れることで上から見た構図なのに厚みが感じられます。
改めてみると,たしかに水かきみたいなのあるんですよねここ。見事な観察眼です。


指の腱を描いたのもいいです。指の根元には関節があって,骨とその上を通る腱もやっぱり出っ張りますからね。
親指のところの手のひらはもう少し線を厚くしてもよかったかもしれません」

「これは女性的な,柔らかな手が描けていますね。小指の関節はもう少し下でよかったかもしれません。
でも指そのものはシャープでいいですよ」

確かに。特に親指周りの線は秀逸と認めざるを得ません。
この自然なライン,奥行きを感じさせる陰影。これが子を持つ親の実力(夏休みの宿題の手助けとか)ということなのでしょうか。やりおる。

これが絵描きの性なのか。しかしまあ効果は絶大でしたよ。
ランドマークを意識し,それをはっきりと描く。これが画力ゼロ脱出の第一手のようです。
「ちょっと三木さん。なに手助けしてるんですか」
「……あの,手についてはわかったんですけど,ほかのもの描くときはランドマークどうやってみつければ?」
「まず描く大きさのアタリを軽く円で決めます。その円の縦横の線を軽くクロスさせて中心を取ります。この重なっている円とクロスの線は消さないでください」

「このアタリに描くものの中央がくるようにして,描くものの全体を常に見ながら左右上下のバランス(長さなど)を取りながら大まかに描いていきます。ランドマークを2〜3カ所正確に決め,その位置を基準にまわりのものを入れていくのもひとつの方法です」

「描くうえで取っ掛かりになりそうなものがランドマークになるというわけですね」
「そうですね。いずれにせよ『大まかから細部へ』です。1回で線は決まらないので,軽いタッチでたくさん線を描き汚して,画面を自分のものにしていくことが大切です。そのたくさんの線のなかから『これ』という線がわかるので,そこで初めてしっかりした線を引いていきます」

かつて世界は256色でできていました。
アナログの曖昧な、あるいは固有の色表現をデジタルとすることで共有できるものとし、我々は同じものを同じ色として確かに認識するようになったのです。
時を経て、ディープカラーなるものが跋扈する昨今となっては10億を超える色を操る術を人類は手にしています。そんな21世紀にたった36色でどうして人の心を打つ彩色ができるでしょうか(反語表現)。

「用具についてはあんまりあれこれ言われなかったですが、色鉛筆だけはいいものをと指定が入りましたね。色もできれば多いのをと」

「こればっかりは使う色鉛筆で差が出ます。油芯のほうが色を伸ばしやすいですし、後で話しますが色を塗り重ねていくことになるので赤なら赤、青なら青で同系統の色が多いほうが使い勝手がよくなります」

「色鉛筆ってバラ売りもしてるんですね」
「自分がよく使う色を後から買い足すのでもいいです。人体なら赤、オレンジ系統ですかね」

「よく観察しながら色を落としていきましょう。『これかな?』と思う色を見つけられたらその場所を少し塗ってみます。塗りつぶすというよりは、その色の線を引くような感じですね」

「さっき塗り重ねるって話がありましたが」

「はい。輪郭線を描いたときと同じです。色も、いくつかの線を引いていくなかで納得できるものが見つかっていきます。同じ線画を何度も塗ってみたりします」
なるほど、そのためにまず手の絵をコピー取っておいたんですね。あ、はい。取ってたんです。


「手って結構赤いですね……」

「そうなんです。肌色とかペールオレンジとかいいますが、肌は赤く見えるところが多くあります」
「本人が塗りやすければなんでもいいんです……同じような線が引きやすいのがいいですね。それを薄くしたり濃くしたりすることで陰影が表現できます」

「黄色や黄緑の使いかたがいいです。赤との対比で肌のように見えてきます。手の甲には静脈が透けていることが多いので、青や緑といった色を下地に薄くおいておくのも効果的です」
おー、静脈。確かにしっかりと青みが浮き出ますね。太いし。複数あるし。

「関節部の腱を赤で強調していますが、それなら指の関節は全部濃くしちゃいましょう。それからお二人とも、もっとどんどん線を重ねてください。その重ねかたの違いで場所ごとの色の差を表現します」

「違う色を使うのではなく?」

「もちろんそれもありますが、同じ色の線で自然な陰影が出せます。例えば指を真上から見ると、腱の通っている中央に対して両サイドは赤が濃く見えませんか? これを再現できれば色でも立体感が出せます」

「静脈の側とか意外と暗い」

「改めて見ると爪って赤いんですね」

「気になった色はどんどん試しましょう。何色を塗ったらダメってことはないですし、重ねているうちにいい塩梅になったりもします。ポリクロモスの色鉛筆はこの重ね塗りにいいんです」


「あんまり何種類も色使わなくてもいいんですね」

「微妙に近い色を複数持ってると今みたいな陰影がもっと細かくつけられたりします」

絵描きの人って鉛筆の端っこ持つのなんでなんです?

「鉛筆の可動域を増やすためです。パソコンのマウスを持つような感じで鉛筆に手を載せて、手首を固定して肘から動かすようにする人もいますね」



「軸をメルクマールに棘突起のパースペクティブを取っていきましょう」

「パースって正確にはパースペクティブっていうんだ……」


「こういうのってモデルのほかに解剖書とかあると便利なもんですか?」

「構造を知っているとよく描けますね。観察は大事ですから。文献的な知識が役立つこともあります。そういう意味では手術をする先生は手術のイラストを描くのにすごく大きなアドバンテージを持っていますね」

「うーんパースペクティブ……」

「別にそんなことはないですが、線は堂々としているのがいいです。強い線を描かないと弱い線は出てきません。どれだけ強い線があるかでグラデーションの幅が変わります。思いっきりやっちゃいましょう」

「わかりました……じゃあ、縁取り作戦で行きます!」

「今から線を太く濃くしてそれっぽく見えるようにします」