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2023.春惜月

昨年の3月末、祖父が亡くなった。
亡くなった日の夜(恐らくタイミング的にも同じくらいだと思うが)とある夢を見た。


寂れた小さな駅で電車を待っている。
草木が生い茂った場所にある、木で造られた小さな駅。
他に人は誰もいない。
そのうちに電車が来た…ような気がする。


そこで目が覚めた。

目が覚めると、何やら下の階が騒がしい。
布団から出て着替え終わる頃、2階に母が上がってきた。


「爺ちゃん、亡くなったって。」


さっきの夢は
さっき見た夢はそうだったのか。
病院に入院したと聞いていた。(祖父は、仙台の隣の市(そこには従兄弟がいる)の施設に入っていた)
もしかしたらもう駄目かもしれないと。
その話を聞いていたものだからスッと腑に落ちた。
あの夢はきっと祖父目線だ。
ただの偶然かもしれないが。

「それは爺ちゃんだね」
母にその話をすると、わたしが思っていた事と同じ事を言われた。


その日は久しぶりに夕焼けが綺麗だった。



折り合いがついたんだか、ついたふりをしているんだか、もうじき一周忌が来る。
早いな。
死と向き合った時に生まれた感情は完全に消化出来ないんじゃないかと思う。
溶け残ったものをずっと抱えて生きていくんだって。実感も湧いた気になってるだけ。

死んだ祖父の、人間とは思えない感触になってしまった肌も
棺に入れた花の香りも
朝起きると漂ってくる線香の匂いも
着慣れない喪服の冷たさも
母の啜り泣く声も
季節が巡り、春が来る度に思い出すのだ。

でも、消えない悲しみが傍にあっても、それでもいいと思えるから苦ではない。



目の奥が痛い。
春は嫌いだ。悲しい別れが多すぎる。
皆、桜が咲く前に遠くへ行ってしまう。

我が家にある桜は、わたしが生まれた年に植えた記念樹らしい。
今にも泣きそうな顔で見上げるわたしを、あなたは何度も見て来たでしょう。
悲しみを包み込むような優しさを湛えたあなたに逢いたい。

美しく力強く咲き誇る命たちを、ただ愛でていたい。
嫌いな季節の中で。
癒えない傷と共に。




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