6/27分 第56作 テーマ:メガネ
人には必ずギャップがある。
私にとってそのギャップの象徴は、メガネだった。
父も母も研究職で、仕事中は常にメガネをかけていた。
しかし、私と会話するときには必ず、2人ともメガネを取って話してくれた。
両親とも、メガネをかけると、少しだけ強面に変わる。
裸眼の時はすごく優しく温かい表情をしているのに、メガネをかけると少しだけ、怖い表情に変わる。
両親もそのことは自覚していたようで、私をはじめ、人と話す時は必ずメガネを取って話すようにしていた。
「メガネをかけて、他人を見てはいけないよ」それが両親の教えだった。
目は口ほどにものを言う。
だからこそ、他人と会話する時は、きちんとメガネを取って、本音で話しなさい。
お前自身がメガネをかけて話していたら、相手はきっとそのことに怯えて、本音を話してくれないよ。
あなたがメガネをかけていると、相手はそれを怖がって、あなたと仲良くしようとしないかもしれないよ。
それが両親の教えだった。
そんな私は最近、立て続けに人に騙される経験をした。
投資の詐欺に遭い、ぼったくられ、彼氏には不倫された。そんなことが何度も続いた。
人をメガネをかけて見ない。
そう教わった私は、決して他人を疑おうとしなかった。
目の前の人の言動を全て信じる。
それが私の生き方だった。
しかしあまりにも嫌な目に遭いすぎた私は、
他人を信じることができなくなった。
騙された疲れてしまったようだ。
それからというもの、私は出会う人出会う人、全員を疑うようになってしまった。
「優しいことを言ってくれているけど、きっと裏では何か自分のメリットになることを企んでいるに違いない」。
そんな風に考えるようになってしまい、見る者すべてが、本当の姿を偽る悪人のように見えるようになってしまった。
一方で、傷つくこともめっきり減った。誰も信じないのだから、裏切られようがない。「どうせ何かある」と思っているのだから、何かあっても動じない。
……次第に私は他人の見方というものを忘れてしまった。
何も考えず、ただ目の前の相手の言動を盲目的に信じてもダメ。
一方で、「どうせこいつは○○を企んでいるに違いない」と疑ってかかってもダメ。
目の前の相手を信じきったら、裏切られて痛い目に遭う。
逆に、他人を疑ってばかりでは、結局自分の心が寂しく、廃れてしまう。
迷いに迷った挙句、私がたどり着いた答えが「ギブ&ギブ」。
目の前の相手のことは、一緒に仕事をするまでは決して信用はしない。
しかし、自分が役に立てることがあるのなら、それはとことんまでやってやる。
その結果自分が痛い目に遭おうとも、それは自己決断の結果だから、嘆くことはない。心のきれいなほんの一握りの何人かが、報いてくれればいい。
そう考えてから、私の人生は180度変わることになった。
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