7/2分 第61作 テーマ:カレーライス

俺はいつの日からか、カレーライスのルーとライスを分けて食べるようになっていた。理由はよく覚えてない。

カレーライスだけではなく、ありとあらゆる食べ物に対してそうだった。

かつ丼がでてきたらとんかつとご飯を切り分けて食べていたし、

天ぷらが出てきた時でさえ、衣と中身を切り離して食べていた。

物心ついた時から、「そういえばそうだったな」というレベルだったので、本当に理由はよく覚えていない。

おそらくだが、せっかく2つあるものを1つにして食べてしまうことに、どこかもったいなさを感じていたのだと思う。

あとは単純に、何かと何かが混ぜってしまっていろんなものの純度が失われてしまうことが嫌だったのかもしれない。

何者にも混ざらず、染められず。いつまでも純度を保っている。

そんな食べ物をこそ、おいしいと感じる味覚になっていたのだ。

それはきっと、俺の生き方にも現れていたのかもしれない。

誰の考え方にも染まらない。自分は自分。純度100%で生きていく。

それが当時の俺の美学だった。

しかし、ある時、カレーライスを、カレーとライスに切り分けて食べることがどうしてもできないときがあって、10年ぶりくらいで、「カレーライス」を口にした。

口の中に衝撃が走った気がした。「なんておいしいんだ、この料理は!」まるで初めて食べる料理であるかのように、驚きだった。

……こういう安っぽいアナロジーは、俺は大っ嫌いなんだけど。

カレーライスのおいしさに気づき始めたその時から、俺の人生は好転し始めた。

何かと何か、誰かと誰かが交わって初めて生まれるおいしさ、シナジー効果に、気づいたのだ。

それまでの俺は、全てを一人でやろうとした。得意なことも、苦手なことも全部。だってそれが一番おいしくて、美しいものだと思っていたから。

でも、常にあと一歩のところで止まってしまっていた。あと一皮、あと一皮剥けることが出来ないまま、ずっと足踏みしてしまっている状態だった。

カレーライスのおいしさに気づいた瞬間から、その考え方を改めてみた。

とにかく人を手を組んでみよう。俺は俺にできることをやるし、相手には相手にできることをやってもらう。

大切なのは、一つになっていること。

そういうシンプルな考え方ひとつで、生きてみた。

びっくりするぞ、マジで人生が変わるんだ。

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