6/30分 第59作 テーマ:屋台

小さい頃、お祭りでよく見かけた屋台。
屋台には不思議な力が働いていた。

なんの変哲もない物なのに、そこで売っているものをすごく魅力的な物に見せる魔力。

なぜだか知らないけれど、いつのまにか視線が惹きつけられてしまう引力。

そんな力が働いて、少年時代の僕には、屋台は大変魅力的なものに映っていた。

屋台で商品を売っている、頭にタオルを巻いた、色黒のお兄ちゃんをかっこいいとも思った。

しかし大人になって、そんな考え方は消えた。

屋台を出すのも、所詮は商売、金儲け。
店舗を出すより固定費が安く済むから、若干利益率が上がる。

人が少ない時は出店する必要がないから、
客が少ないのに無駄に発生する人件費を抑えることだってできる。

結局屋台だって、いい大人のおいしい商売なんだ。

そんなこともつゆしらず、子供は踊らされているだけなんだ。

いつしか僕は、そんな風に考えるようになった。

きっと会社でマーケティングや販売戦略などを徹底的に叩き込まれたせいなのだろう。

そんな時息子が、ふと言ってきた。

「ねえパパ。僕たちが普段遊んでる公園に出てる屋台の料理がおいしそうなんだ。今度2人で食べに行こうよ!」

公園に屋台?
珍しいこともあるもんだ。

俺は物珍しさでその公園に行ってみた。

背中が曲がりかけのおじいちゃんが、一生懸命、プライドポテトをあげていた。

聞けばこのおじいちゃん、毎日この公園で屋台を出していて、提供している料理は日替わりだそうだ。

焼きそばの時もあればポテトの時もあり。
フランクフルトの時もあれば、唐揚げの時もある。

子供の頃に好きだったメニューは、一通り食べられるようだった。

しかしこんな人通りが少ないところに屋台を構えたとて、ほとんど売れないに違いなかった。

実際おじいちゃんに聞いてみると、
1日平均5食程度しか売れないようだった。

屋台なので、材料をあまり買わないようにすれば、
赤字を出すことはなさそうだったが、

そんな1日5食のために、このおじいちゃんはなぜ、
暑い日も寒い日も、雨の日も雪の日も、この屋台に立ち続けるんだろう?

疑問に思ったから聞いてみた。

昔は街にはお祭りがあり、そこには屋台が出ていた。
屋台の親父とやんちゃ坊主。
喧嘩もしたけれど、そこには愛情があった。

親父は子供を可愛がったし、子供は親父を慕っていた。

そんな子供の憩いの場が、子供が大人の働く姿に憧れられる場所が、今どんどんなくなってきている。

わしだけはその機会を守ってやりたい。

そんな思いで屋台をやっているのだそうだ。

俺は久しぶりに泣いた。

そして次の日から、俺の持てる全ての力を使って、
おじいちゃんの屋台を宣伝した。

1ヶ月も経つと、街に活気が戻ってきた。
そしてその中心には、すっかり腰の曲がった、おじいちゃんがいた。

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