電波の前世記憶25
明朝。
ステラが目を覚ますと、ゲイルはすでに起きて水汲みをしていた。ステラが起きた事に気づいたゲイルは血相を変えてステラの元にやって来て、体の調子を聞いてきた。股に異物感が少し残るだけで具合は悪くない事を伝えると、ゲイルは安心したような顔になった。
二人は普通に朝食を食べた。
ステラとて全くの無知だった訳ではない。
昨晩ゲイルにされた事の意味は何となく知っていた。大人の男女がする行為だ。念の為端末でも調べた。愛し合う大人同士がする事。
(愛し合う…)
ステラの中に疑惑が生じた。
二人は言葉少なに昼食を食べた。
夕食時。
「ねえ、お兄ちゃん」
「何だ?」
「昨日の事なんだけど」
ゲイルの体がぎしりと止まった。一呼吸おいてから。
「やっぱり、痛かったのか?それとも、嫌だったか?」
青くなって言葉を紡ぐゲイルに、ステラは首を振った。そういう事ではない。
「じゃ、じゃあ…」
「私はきちんとお兄ちゃんのお嫁さんになりたいって言ってるのに、お兄ちゃんちゃんとしてくれてないよね?
なのにああいうことするのは、破廉恥だと思うの」
ゲイルは絶句した。
「ごめんって言ってたけど、謝って欲しい訳ではないの
する前に誠意が欲しかったの
お兄ちゃんは、どんなふうに私が好きなの?
どうしてちゃんと私と向き合ってくれないの?
ちゃんとしてくれないと、分かち合う事も出来ないのよ」
大人びた物言いに、ゲイルは返す言葉も無かった。二人だけの世界で、何となく愛するステラと結婚するような気がしていた。考えが甘すぎた。
『思った事は表に出さないと意味が無い』
おかみの言葉が頭をよぎった。真理だった。想いを伝えずに少女を傷つけた。
「ステラ、俺は…!」
「今言わないで。
私が言わせた事になっちゃうでしょ
そんなのってますますないわ」
もはや何も言えない。
そんなゲイルにステラは壁の傷を指差した。
「あれ。
あれに私が届くまでにきちんとして。
私が納得するように。
私、心が広いから待ってあげる」
完全に立場が逆転した。
『女の恨みは買うな』
グラインの言葉が空っぽになったゲイルの頭にこだました。
ゲイルは、完全にやらかした事を悟って天を仰いだのだった。
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