観測者SS番外編"DirtyWorker"その6

「続いてのニュースです、先日中層セクター■■■■にて、1人の少年が突如として周辺の通行人を無差別に襲う事件が発生し、出動したヴィジランテによって射殺されました
近年活動が活発化している下層のテロ組織による犯行と見て現在も調査が進められており---」
黒の傭兵によるオーパーツ保管庫襲撃より、数ヶ月が経過していた
「...情報統制されてニュースじゃああ言われているが、私の目は誤魔化せねぇぞ、ありゃ例の袋頭野郎が狂王の頭冠をどっかの誰かに渡したんだろう」
「F、だとしたら何だ?私達が事件の引き金だとでも?」
「...ああそうだよ、お前さんが危険を冒した結果がこれだ、こんなの納得できるか?」
「...金に目が眩んだのは何処のどいつだ?それに今更正義の味方ヅラするつもりか?」
「...確かに金に目が眩んださ、だがこうなるとわかってたら受けやしなかった!」
「...F、私らは傭兵、金さえ積まれれば何だってやる、例えどんな汚れ仕事だろうとな  そうだろ?」
情報屋Fは何も言い返せなかった
「...それに、奴の報酬のおかげで、予定より早めに復帰出来た」
「結局バリアデバイスは買えずじまいだがな」
「...まだ引っ張るのかよそれ...悪かったって...」
その時、ドアをノックする音が聴こえた
「...誰だ?観測者か?」
「観測者が追ってきたなら丁寧にドアをノックして入ってくる訳ねぇだろ、火薬庫爆発させてオーパーツ盗んだバカがここにいるんだからドアの一つや二つ蹴破って来るだろ」
情報屋Fがドアを開ける
そこには、1人の少年がいた
「...ガキか...?ここが何処かわかってるのか?」
少年が口を開く
「...わかってます、傭兵さんですよね...?依頼があります...」
「はぁ...?言っとくが宿題の手伝いとかお使いの代行とかは受け付けてねぇからな」
少年を応接間に通す
少年と情報屋Fが依頼の話を始める
「...あの...今ニュースでやってる無差別殺人事件...知ってますよね?」
「ああ、今まさに話題になってるな」
「...その...あの事件の犯人...」
「...おい...まさか...」
「...あの事件の、ヴィジランテに射殺された犯人は...僕の兄ちゃんなんです...」
「...そんな...」
思わず言葉を失う情報屋F
少年は話を続けた
「僕の兄ちゃんは、ずっと弱虫だった僕を守ってくれたんです
僕は泣き虫で、弱虫で、そのせいでいつもいじめられてたんです
そんな僕を、いじめてくる奴らから守ってくれたんです
僕は、兄ちゃんが大好きだった
強くて、優しくて、いつだって僕の味方でいてくれる兄ちゃんが...
でも、いじめてくる奴らはとうとう一線を超えて、いつもより多くの仲間を連れて僕と兄ちゃんを襲ってきたんです
鉄パイプなんかも持ってきて...容赦なんて一切なかった...
兄ちゃんも数の暴力には勝てなくて、奴らにボコボコにされちゃって...
倒れた兄ちゃんは、ちくしょう、ちくしょう、ってずっと悔しがってた
奴らは次に僕の方に向かってきた
でも、その時に見たんだ、黒い袋を被った男が兄ちゃんのそばに現れたのを...」
「...やはりあの袋頭野郎か...」
「黒い袋を被った男は、兄ちゃんに冠みたいな物を渡したんだ
そして兄ちゃんは、その冠を被った
そしたら兄ちゃんは、力を取り戻したかのようにまた奴らに戦いを挑んだんだ
1人、また1人と、次々にいじめてくる奴らを倒していって、遂にはみんな倒しちゃったんだ
僕は兄ちゃんに駆け寄ったんだ
ありがとう、兄ちゃん、って
...でも、兄ちゃんは僕の事を無視して落ちてた鉄パイプを拾って
倒れてる奴らの頭を殴り始めたんだ
何度も、何度も、何度も...
やめて!それ以上やったら死んじゃう!って言っても、兄ちゃんは止まらなかった
兄ちゃんは次々と倒れてる奴らの頭を潰していった
...その時の兄ちゃんは、見た事もない怖い顔になってたんだ
そして、倒れてる奴ら全員の頭を潰した後は、路地裏を抜けて大通りに出たんだ
...そこからは、ニュースで伝えられてる通り...
最後にはヴィジランテに撃たれて...兄ちゃんは死んだんです...」
少年は話しながら涙目になっていた
その様子を見ながら話を聞いていた情報屋Fの手は強く握られ、震えていた
「...傭兵さん、お願いです
あの黒い袋の男を殺してください...兄ちゃんの仇をとってください!
あの男が兄ちゃんをめちゃくちゃにしたんです!
僕は...僕はただ、どんなにいじめられても、ボロボロになっても...
兄ちゃんと一緒に居られれば、それだけで幸せだったんです!!」
ポロポロと涙を流しながら、少年は懐から袋を取り出す
「これは、僕のおこづかいと、兄ちゃんの残したおこづかいです、足りないのはわかってます、でも、何年かけても頑張って働いて返します!だから、兄ちゃんを...兄ちゃんを...!!」
「...だとよ、相棒、どうすんだ?」
黒の傭兵が静かに立ち上がり、少年の元に歩み寄る
そして、袋の中から数枚の硬貨だけを取り出した
「...いいだろう、必ず袋頭を仕留めてやる」
「...え...全部...取らないんですか...?そんなたった数枚だけ...」
「この仕事は過酷な仕事になる、終わる頃には喉がカラカラになってるだろうな
だから、帰りの飲み物代はしっかり貰っていく
残った金は兄ちゃんの為に花でも買ってやれ」
「...!...ありがとう、ありがとう傭兵さん...!」
情報屋Fがニヤケながら黒の傭兵に語りかける
「...おいおい相棒、何だァ急に、正義の味方気取りかァ?」
明らかに先程より機嫌がよくなっている
「何を言ってるんだF、私達はこれからたった数枚の硬貨の為に前の依頼人を殺しに行くんだぜ?
立派な汚れ仕事じゃないか」
「ああそうだな、立派な汚れ仕事だ、私達らしい」
「...で、F、奴の居場所は特定できるか?」
「任せな、あんな目立つ袋頭野郎なんざ目を瞑ってでも探せるぜ」

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「ハァッ...ハァッ...何故!何故です!!」
黒いビニール袋を被った男が、路地裏を走っている
「何故私が『黒の傭兵』に追われなければならないのですか!?」
黒い袋...スマイリーの男は路地裏の出口へと向かう
だがそこには、1人の人物が立ちはだかっていた
「よーう、悪いがこっちは通行止めだぜ?」
情報屋Fが、拳銃を構えて待っていた
スマイリーの男は懐からナイフを取り出して脅し始めた
「情報屋...!何故ここに!?どきなさい!私がただ口達者なだけだと思った大間違いで...」
直後、情報屋Fは発砲し、手に持っていたナイフを弾き飛ばす
「悪いがこっちもただの情報屋じゃないんでね、なんつったってあの黒の傭兵の相棒さ、拳銃の扱いなら一流なんだぜ?」
「クソッ!!」
スマイリーの男が引き返し、別の道から逃げようとする
...だが、時すでに遅し、黒の傭兵がすぐ傍まで迫っていた
「ここまでだ袋頭、もう逃げ場なんてないぞ」
「そういう事だぜ袋頭野郎、わざわざ会いたくもねぇのに来てやったんだ、感謝しな?」
「...そういえばF、どうして今回はお前も現場にいるんだ?」
「コイツばかりは自分もこの手で直接ケリつけてぇからな」
スマイリーの男はへたり込みながら叫んだ
「い、一体誰にいくら貰ったのです!?つい先日まで手を取り合って仕事をした筈なのに、金に目が眩んで私を殺しに来たのですか!?
この汚らわしい金の亡者め!!貴様らには我々の崇高な理想など理解できやしない!!」
「...オーパーツを他人にぶん投げといて後は知らんぷりすんのが崇高な理想なら、一生かけても理解したくねぇな」
「汚れた金の亡者、か...それで結構、随分と私達らしいじゃないか」

「なにせ私達は」



画像1

「「"DirtyWorker"だからな」」

2つの銃声が、同時に響く---


観測者SS番外編"DirtyWorker"...END




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