観測者SS番外編"DirtyWorker"その5

ヴィルーパ 下層 保管庫と同セクター内の一角
1人の少年が散歩をしていた
廃墟のビルとビルの間を飛び、瓦礫まみれの道を駆けていくような、散歩と言うには少々物騒な足取りではあるが、彼にとってはいつもの事だ
彼は四月一日局員、下層に住む観測者の局員だ
「...この辺、まだ通った事なかったな...」
そんな事を呟きながら廃墟のビル内を駆けていた
直後、少し遠くから何か大きな音が聞こえた
「...爆発?」
窓から外を覗く四月一日局員
街並みの奥に、黒煙が上がっていた
治安が悪い下層では、こんなことも珍しくは無い
やれやれまたか、と頭を少し掻きながら黒煙を眺めていた
「...そういえば、あっちって何があったっけ...?」

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観測者ラボ 医務室
「...う..あ...また倒れてた...」
リュシオル局員が目を覚ます
「...そうだ!急がないと...!」
リュシオル局員は急いで総務部へ戻る
...総務部の大型モニターを見て愕然とする
黒煙の上がる保管庫、その様子が映されていた
「間に...合わなかった...」
愕然とするリュシオル局員にユーヌ局員が近づいてくる
「なるほど、これが未来視で見た景色か」
「...倒れる前に伝えられてれば...避けられたかもしれないのに...」
「部長、まだ休んでくれ、どうせ起きたばかりだろう?」
「...いや...まだ...まだ何かあるはずだ...現地の状況は...?」
「...爆発から数時間が経過している、現地では消火活動、爆発に巻き込まれた局員達の救護が行われてる」
「...侵入者の生死は?多分自爆したから死んでるだろうけど...」
「まだ報告が上がってない、消火が一通り済んだら内部の捜索が行われるだろうからしばらくすれば遺体の一部なんかが出てくるだろうね」
「...だよね...現地にはもう応援は向かってるんだよね?」
「既に医務課が着いてる、幸い死亡者はいないそうだ」
「...現地で何かあったらすぐに知らせるように言ってくれ、必要があればドローンを展開して魔眼を使う」
「わかった、けどあまり無茶しないでくれ、また倒れる訳にもいかないだろ?」
「...自ら望んで倒れてる訳じゃないよ」
(...未来視が爆発そのものじゃなく、爆発のその後を伝えたかったのなら...あるいは...)

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下層 オーパーツ保管庫内
「...う...ここは...?」
TAKE局員が目を覚ます
辺りには爆発に巻き込まれた局員達が寝かされてる
「...痛ェ...だが四肢を失ってねぇからまだマシか...」
爆発から数時間が経過した
ざっと見回した様子では、寝かされてる局員はおよそ20人、直前の警告が功を奏したのか、死亡者はいないようだ
「TAKE先輩!起きたんスね!」
「ああ、アッシュ局員か、無事だったのか」
「自分は少し後方から局員達の指揮に回ってたッスから、耳が潰れそうになった程度で済んでるッス」
「...で、動ける局員達と一緒に俺達を助けたと、ありがとな、アッシュ局員」
「...さっきの爆発って...まさか奴は...」
「...自爆だよ、打つ手が無くなってヤケになったんだろう」
「...あの野郎...勝手に襲って勝手に死にやがって...最後の最後まで気に入らねぇ奴ッス...」
「...すまねぇな、捕えられなくて...」
「...でも 、まだ遺体は上がってないんスよね...死んだ、なんて断言するにはまだ...」
そこに1人の少年がやってきた
四月一日局員だ
「...ここ、観測者の施設だったんだ」
「四月一日局員、どうしてここにいるッスか!?」
「辺りを散歩してたら、爆発があったから見に来た」
「見に来たって...そもそも爆発した地点に近づくモンじゃないッスよ...」
「...そうだ、ちょっと気になる事があるんだった」
「何があったスか?」
「ここからちょっと離れた所に外に向かって血痕が伸びてた、誰か逃げたのか?」
「...!?」

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「保管庫爆発から数時間、保管庫のあるセクターは封鎖され、付近のセクターも観測者が目を光らせてる」
情報屋Fが車両を運転しながらそう呟く
「だが、私『達』は既に中層まで逃げ果せている、保管庫を爆発させたバカ張本人とオーパーツと一緒にな」
車両の後部座席には、黒の傭兵が横になっていた
「しっかし、よくもまああんなバカな手段思いついたなァ相棒...火薬庫を爆発で吹き飛ばし、爆発の寸前でバリアデバイスを起動、爆発から身を守りながらそのまま吹き飛んで脱出、同時にステルスクロークも使って吹き飛んでる姿を見られずに済ませるなんてな」
「...あの場で最も安全に脱出するには死んだと思わせる事だ、真正面から突っ込んで勝てる相手じゃねぇ
仮に抜け出せても死ぬまで追い回されるハメになるだろうよ」
黒の傭兵の腹にはしっかりと包帯が巻かれている
「...まあ、バリアデバイスを使ったとはいえ、完全に無事じゃなかったがな、恐らく数本骨は折れてるし、現地で止血した腹の傷がまた開いた」
「それでも生きてるだけで十分だぜ相棒...そういやバリアデバイスはどうなった?」
黒の傭兵がバリアデバイスを取り出す
外装が一部吹き飛び、内部からは回路が焼け焦げた臭いがする
「...どうやら私の身代わりになったようだ」
「あーあ...高かったんだぜ...?それ...
...なんてな、お前さんが無事で何よりだよ、相棒」
そう言った少し後に、ため息混じりに情報屋Fが呟く
「...高かったんだよなぁ...」
「悪かったって、勝手に持ち出して...」
「...で、依頼人へのオーパーツ受け渡しだが、数日後に私が行く」
「ああ、頼んだ、この様子じゃ私は暫く休業だな...
で、受け渡しが明日じゃないのは何か理由でも?」
「...ちょいと気になる事があってね、このオーパーツを独自に調べる」

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数日後  ヴィルーパ中層 とある路地裏
黒いビニール袋を被った男が誰かを待っている
そこに、ケースを持った情報屋Fが現れた
「よう袋頭野郎、久々だな」
「お待ちしておりました、無事に取り戻せたそうですね」
「ああ...今渡す、だが1つ聞かせてくれ」
「ええ、なんでしょう?」
「...このオーパーツを使って何をする気だ?」
「決まっているでしょう?オーパーツの力を望む者にお渡しするのですよ」
「...このオーパーツ、狂王の頭冠は被った者の身体能力を増幅させる代わりにオーパーツに選ばれた者じゃないと狂っちまう、そういう話だったよな?」
「ええ、だから我々がこのオーパーツに選ばれる者を探し出すのですよ」
「...呪いの品ならまだ選ばれる奴が出てくる可能性はあっただろうよ、このオーパーツを独自に調べさせてもらった
コイツは特殊な電気信号で身体を無理矢理強化するモンだ
当然、脳への影響もデカい、長時間使い続ければ間違いなく脳が破壊され、正常な判断が出来なくなるだろうよ
過去のデータを洗ってみたが、コイツはどうやら数あるオーパーツの中でも失敗作の1つらしい
誰一人使える奴がいないからな 故に呪いの品と勝手に伝えられてれきたんだろうよ
お前らの言う『オーパーツに選ばれる者』なんて、何十年経っても現れねぇよ
...それでも、コイツを誰かに渡すっていうのか?」
スマイリーの男が口を開く
「...確かに、まともに使える人はいないでしょう、ですが何か問題でも?
オーパーツを得て幸福になれるのならそれで良いでしょう
使うかどうかは本人次第、結果として脳が焼かれようとも本人が選んだ道でしょう?
我々が探し出すのは道具を使いこなす者であり、道具に振り回される者じゃないのですよ
...それに、まだその電気信号に耐えられる者がいないと言い切れる訳では無いでしょう?
見つけ出して見せますよ、我々の手でこのオーパーツに相応しい『狂王』を...」
「...やっぱイカれてるよ、お前ら」
情報屋Fがスマイリーの男にオーパーツの入ったケースを手渡し
スマイリーの男は報酬の入ったケースを手渡す
「それでは、私はこれにて、今後ともご健闘を祈りますよ」
「...じゃあな、出来ればそのイカれた面二度と見せるなよ」

to be continued...

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