幕間:猟犬と執行者

観測者本部ラボ内  休憩室
アッシュが缶コーヒーを飲んで休憩していた
...が、何やら様子がおかしい
「...げー、これ無糖だったッス...微糖だと思ったんスけど」
どうやら間違えて無糖のコーヒーを買ってしまったようだ
「まー自分もいつまでもガキじゃないんで、無糖だろうが武藤だろうがムドーだろうが飲んでやるッスよ!!」
そうしてコーヒーを飲むアッシュであったが、数秒後には苦さで顔が歪んでいた
「...あとでべらぼうに甘いクリームパンでも買ってこようッス...」
そこにもう1人、ある局員がやってきた
執行部役員、Mr.TAKEだ
「よーアッシュ局員、報告書は出したか?」
「どーもTAKE先輩、さっき出したッスよー」
「...ん?ブラックコーヒー飲むなんて意外だな」
「んぶッ...そ、そりゃブラックコーヒーくらい飲むッスよー(目が泳ぐアッシュ)」
「ふーん...あ、そうだ、前から聞いておきたいことがあったんだ」
「何スか?自分があのクソ傭兵になんであんなに執心してるかって事スか?」
「まあそれもあるが...それよりも、だ
どうしてそう1人で突っ走る事が多いのかってな」
「1人で突っ走りがち、スか...」
「...そんなに仲間が信頼出来ないのか?」
その一言を聞くと、アッシュはコーヒーを(無理矢理)飲み干してから語り始めた
「...逆ッスよ、信頼してるから、いや、何よりも大事に思ってるから、気が付けば先陣を切ってるンスよ」
「...ほう」
「...かつて所属してた猟犬も、自分にとっては家族同然だったッス
...あのクソ傭兵が全てを奪いに来るまでは、ずっと一緒だと思ってたッス
目の前で自分の親友が殺された瞬間は、今でも自分の脳裏から離れないッス
本当なら自分もあの場所で死ぬはずだったッス
けど、そこで自分を救ってくれたのが観測者だったンスよ」
「確か、たまたま通りがかったFOX局員に助けられたんだったな」
「...今の自分がここにいるのは、観測者のお陰なンスよ
だから、何もかも失った自分の命を救ってもらった恩を返すためにここに入ったってわけッス
...それに、仲間を失う怖さを忘れることが出来ない、いや、できるわけがないッス
ここには残機システムがあるっていうのに、こんな事怖がるなんて、おかしいッスよね...」
「何もおかしくなんかねーよ、安心しなって」
「...もし、これで本当に死んだなら、って思うと...
1人でも多く斬れば、1人を救えるって思えば...
気が付けば誰よりも前に立ってるンスよ
...もう二度とあんな痛みは味わってたまるかって...」
話を聞き終えたTAKE局員は静かに頷く
「...ありがとな、何の考えも無しに前に突っ込んでるってわけじゃないのが分かれば十分だ」
そういうとTAKE局員は缶ジュースをアッシュに手渡す
「だが忘れんな、俺だって仲間を苦しませたくないのは同じだ
無茶すんな、なんて『無茶』は言わん
死ぬんじゃねぇぞ、とでも言っておくか」
そう言うと、TAKE局員は休憩室を後にした
「...死ぬんじゃねぇぞ、スか...」
ふと、手渡された缶ジュースを見る
可愛らしいイラストが描かれたぶどうジュースだった
「全くもー...子供扱いしちゃてー...」
少しふくれながら、アッシュは缶ジュースを開け、飲んだ
「あ、うめー...」

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