観測者SS番外編"DirtyWorker"その3

観測者本部
「ふぅー、報告書も片付いたッスから一息つきに行くッスかー」
アッシュがそんな事をつぶやきながら食堂へ向かっていた
「確か福利厚生科が試作のデザート作ってるって聞いたッスからちょっと貰いに行っちゃおっかなーなんて」
食堂に着くとまず目に入ったのは、カウンターにて試作のデザートを振る舞うのを今か今かと待ち構える
雨町局i
「お邪魔しましたッスー」
アッシュは何も見なかった事にして引き返した
...が、服の端をガッチリ掴まれてしまう
どうやらカウンターの雨町局員はマネキンらしく、本物は出入り口近くの机の下に潜んでいたようだ
「たーべーてーけー」
「...ハイパートホホって感じッス」

観念したアッシュは無駄に姿勢よく座っていた
「...一応聞いておくッスけど、ちゃんと食用ッスよね?」
「さすがに食べれるってー、それに今回はちゃんと作ったんだって」
「...ホントッスか...?」
雨町局員が出してきたのは、何の変哲もないバニラアイスだった
「あれ、普通のバニラアイスだ...」
「ね、言ったでしょ?」
「なら安心ッスねー、いただきまーす!
...ん?よく見たら粉がトッピングでかかってるッス
粉砂糖ってやつッスかねー」
アッシュがバニラアイスを食べる
雨町局員がトッピングについて答えたのは、アッシュがバニラアイスを口に入れた後だった
「あーそれね、クエン酸」
瞬間、アッシュの口内に強烈な酸味が走る
「アイスにも隠し味として練り込んでおいたからね♪」


「ッッツァァアアアアアアアアアアアイッ!!!!!!!!!!!」

悶えるアッシュ、鈴を転がすような声で笑いながら逃げる雨町局員、フラつきながらも追いかけようとするアッシュ、入る際には気が付かなかった食堂の隅で安らかな顔で倒れているジリア局員、その傍に転がるストロベリーアイス(後に超激辛と判明)、少し騒がしくとも平和な観測者本部の光景だ
「待てやァァァ!!隠し味って言葉の意味知ってるッスかァァァァ!?全ッ然隠れてねぇッスよォォォ!!!!」
結局捕まえる事は叶わず、アッシュは休憩室で口直しにココアを飲んでいた
「あークソ...今度仕返しにあのウサ公のノートパソコンを強力接着剤でガッチガチに...」
その時、緊急の連絡が入る
「下層セクター■■■■、オーパーツ保管庫にて暴走アンドロイドが襲撃、執行部は直ちに出動せよ」
「っと、急いで準備しないとッスね」
アッシュが連絡に応答を送る
「了解ッス!執行部代理、出動準備に入るッス!」
アッシュが装備を整えに行こうとした瞬間、また別の通信が入る
「待ってください!」
「リュシオル局員?どうしたッスか?」
「少し前に観た未来視と状況が非常に似てます、襲撃に来たのはアンドロイド5機、場所は下層の保管庫...間違いない...なら内部にも既に侵入者が居るはずです!」
「未来視で見たッスか、で、侵入者はどんなヤツか覚えてるッスか?」
「侵入者の姿ですか?確か...」

---
「セキュリティ解除完了、ドアが開きま~すっ」
「おいF、ふざけてる場合か」
「まあまあ、ここまでは完璧なんだぜ?落ち着いていこうぜ?」
情報屋Fがアジトから遠隔でセキュリティを次々と解除していく
黒の傭兵は、慎重に保管庫内部を進んでいく
「んで、ステルスクロークの使い心地は?」
「真横に警備の連中が通ってもさっぱり気付かれない、透明人間にでもなった気分だ」
「高ぇ金払った甲斐があったなァ、そういやバッテリー残量はどうだ?」
「ここまでで合計20秒近く使った、残りは使えても10秒程度だろうな
アンドロイド達の状況は?」
「1機が機能停止した、残りは4機だ
今はまだ連中に戦闘に秀でたヤツが居ないんだろうな」
「いずれにせよ、急いだ方がいいな」
「ああ、執行部の連中がすぐに来ない事を祈ろうぜ」
黒の傭兵がある扉の前で止まる
「ここだろ?狂王の頭冠が収容されてるのは」
「ああ...いよいよご対面だぜ...準備はいいな?」
情報屋Fが狂王の頭冠の保管装置にハッキングを仕掛ける
「急げよF、いつ連中が私の存在に気が付くか...」
プシュー、と音を鳴らし、保管装置の扉が開く
「ん?ほら、開いたぜ」
「...よくもまあこんなにあっさりと開けてくれるな...」
黒の傭兵が耐衝撃バックパックに狂王の頭冠をしまう
「これで、後は脱出するだけだな」
「よーし、それじゃ、さっさとズラかろうぜ...待て、アンドロイド達が...」
「...F、どうした?」
「アンドロイド達が次々と破壊されてる...さっきとは比べ物にならねぇスピードだ...まさか...もう到着したってのか!?」
「来たか...執行部...」
「落ち着け、まだ内部にアンタが居る事がバレてる訳じゃねぇ、予定通りのルートで脱出すれば...」
その時だった、数発の銃声と同時に黒の傭兵に向かって走る足音が響く
放たれた弾丸は黒の傭兵を掠めるも、黒の傭兵は動じずに武器を構える
「ぅおらァァアアッ!!!!」
黒の傭兵に向かって接近し、斬撃を与える人物
黒の傭兵はそれをブレードで受け止める
攻撃を仕掛けたのは、連絡を受けて出動したアッシュだった
「耳を疑ったッスよ、リュシオルが見た未来視にアンタが居たなんてな...
観測者相手にコソ泥とは、随分と身の程知らずなんスねェ、クソ傭兵ッ!!」
「誰かと思えば、観測者の野良犬か...相も変わらず私に殺意剥き出しじゃないか」
アッシュはかつて、猟犬という雇われ部隊の一員だった
黒の傭兵によって、猟犬のメンバー全員を殺され、自身も瀕死の状態にまで追い込まれた
アッシュにとって黒の傭兵は、浅からぬ因縁を持った相手であった
「またと無い機会ッスね...アンタを仕留める絶好のチャンスだ...
今ここで決着をつけてやるッス!!」
「全く...お前と遊んでいるヒマなどない
早々に決着をつけてやるぞ、野良犬」
アッシュと黒の傭兵の戦闘が始まる
アッシュはブレードと桜花の二刀流で斬りかかる
黒の傭兵も二刀流で攻撃を受け流していく
「なかなかやるようだな、野良犬」
「っるっせぇ!!とっととくたばれってんスよ!!」
アッシュが身体を捻らせると、そのまま勢いよく回転しその勢いのまま鋭い斬撃を放つ
黒の傭兵は防御するもほんの少し怯んでしまう
「今だッ!喰らえッス!!!」
アッシュはそのまま武器を高く構え、渾身の振り下ろしでトドメを刺そうとする
が、黒の傭兵は一瞬で体勢を立て直し、振り下ろしを大型ブレードで弾き返す
「...全く、あの時と何も変わらんな」
黒の傭兵の力を込めた蹴りがアッシュに命中する
アッシュはそのまま後方の壁まで突き飛ばされてしまう
「ぐあッ!!」
「決着を急ぎ過ぎて隙を晒す...猟犬だった頃と何ら変わりもない
もう一度、死の淵に落ちなければ学ばないようだな」
黒の傭兵が大型ブレードをアッシュの眼前に突き立てる
「元より観測者になったお前は1度では『死なない』のだろう?教訓として刻み込め」
黒の傭兵がアッシュにトドメを刺そうとした瞬間だった
廊下の奥より響く銃声、その一瞬で黒の傭兵は大きく吹き飛ばされる
「ふぅ...どうやら間に合ったようだぜ、行商人」
「よぉアッシュ、また勝手に1人で突っ込んでくれたなァ」
ライフルを構えた黒金局員と、桜花を手に持ち臨戦態勢のTAKE局員が駆けつけて来たのだ
「TAKE先輩!黒金局員!」
「待たせたな、こっからは俺らに任せな」


to be continued...

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