観測者SS番外編"DirtyWorker"その4

観測者本部 総務部
「執行部による暴走アンドロイド殲滅を確認」
「引き続き侵入者への対処をお願いします」
モニター前にて、局員たちが現地への支援を行っていた
「ふぅ...後は執行部が無事に侵入者を排除すれば終わりだな...」
一息つくリュシオル局員
「あの時の未来視がなかったら対処が遅れてたな...さて...」
その時だった、リュシオル局員に耳鳴りと頭痛が襲う
「ッ...!!この感じ...こんなタイミングで未来視...!?」
その一瞬、リュシオル局員は目にした光景に驚愕する
(...嘘...だろ...!?早く伝えなければ...!)
そんな意志とは反し、意識が薄れてしまう
(駄目だ...まだ倒れる訳には...!!皆に...伝えなければ...)
(皆に伝 え  な   き    ゃ...)
その場に倒れ込んでしまうリュシオル局員
「リュシオル部長がまた倒れたぞ!!」
「また激務が体に響いたってのか!!」
騒ぐ局員達とは対照的に、冷静に式神を使役してリュシオル局員を医務室まで運ばせるユーヌ局員
「この前触れの無さ、おそらく未来視だろうね
...この表情、何かを必死に伝えようとしたが間に合わなかった、と言ったところか」
「...リュシオル部長、一体今度は何を見たというのか...?」

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下層 オーパーツ保管庫
「見えたか行商人、あの傭兵一瞬目を離した隙に居なくなってやがるぞ」
「おいおい、頭を狙ったんじゃないのか?黒金局員」
「確かに狙った、だがいくつか違和感を感じた
着弾の瞬間、奴の体が一瞬赤く発光したように見えた
それに、普通なら体の一部は吹き飛んでもいいはずだ
だが、奴は突き飛ばされただけだ」
「...とすると...バリアかなんかでも出したとでも言うのか?シンプルだが厄介だな...」
アッシュとTAKE局員、黒金局員が逃走する黒の傭兵を追いかける
「奴は自分が真正面から狩りにいくッス
2人は回り込んで逃げ場を...」
そう言ったアッシュをTAKE局員が制する
「言っただろアッシュ局員?俺達に任せろって」
「自分はまだ戦えるッス、だから」
「相手が黒の傭兵だから自分の手で仕留めたい、と?」
「ッ...!」
「気持ちはわかる、だが今は抑えろ
今のお前は猟犬じゃない、観測者だ
まずは奴からオーパーツを取り戻すのが先だ
仇討ちはその後でも出来るだろ?」
「...了解ッス」

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撃たれたはずの黒の傭兵は、一切ダメージを受けた様子もなく逃走している
「全く、ヒヤッとしたぜ、相棒」
情報屋Fが通信で呼びかけてきた
「しっかし、あんなのに撃たれたのによく無事でいられんなァ、人間やめたのか?」
「いや、『バリアデバイス』を使った
不意打ちだったが咄嗟に起動して間に合った」
「ほほーん、バリアデバイスねぇ...
って、それ私の私物じゃねぇか!!何勝手に持ち出してんだァァァ!!!」
「言っただろ?万が一に備えるってな」
「ったくよ...高かったんだからちゃんと返せよ?」
黒の傭兵は逃げながら現在の状況の整理を始める
(撃たれた直後、逃げ出すためにステルスクロークを3秒起動した...使えるのは残りおよそ7秒)
(バリアデバイスはダメージをシャットアウトする
弾丸だろうとビームだろうと爆発だろうとな
だがその分衝突時の衝撃はある程度受ける
本来なら頭を貫通して吹き飛ばしていたはずだが
廊下の奥まで吹っ飛ばされるだけで済んでる
あのライフルで撃たれたら一巻の終わりだ)
(ステルスクロークと同じくバッテリーは長くは持たない
オマケにデカすぎるダメージを防ぐとオーバーヒートを起こし内部の回路が焼き切れる
無闇に使えないのが現実だ)
(予定通りの逃走経路を通ればライフルで狙われる...別ルートを探すにも追っ手は3人...それに戦闘に秀でた執行部...まともに逃げられるはずがない)
黒の傭兵が正面の部屋を見て何かを思いつく
(...勝機があるとするなら...ここだな...)

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「TAKE先輩!奴、あの部屋に逃げて行くッス!!」
黒金局員が再びライフルを構える
「逃がすかよ!次はその頭吹っ飛ばしてやるよ!」
「待て!撃つな黒金局員!!」
黒の傭兵が逃げ込んだ部屋は『火薬庫』だった
「ッ!?あっぶねー...危うく火薬庫ごと吹っ飛ばすところだった...」
「この先に逃げ込んだとなると火器の類は使えんな...
近接戦闘を強いられるか...」
TAKE局員と黒金局員が火薬庫の中へと入って行く
「アッシュ局員、お前は動ける局員を率いて火薬庫周辺を包囲しろ、異常生態課から借りた『例のブツ』を展開してな」
「ッ!!奴を相手取るなら1人でも多い方がいいッス!だから自分も...」
「言っただろアッシュ、最優先はオーパーツの奪還だ
その為に動け」
「...ッ...」
「...奴を確実に確保出来る状況を作り出せば俺たちの勝ちだ
捕らえた後は、お前にとどめを刺させてやる
それじゃダメか?」
「...約束ッスよ?TAKE先輩」
そう言うとアッシュは、局員達をかき集めるために駆け出した

...火薬庫の構造は、廊下からの出入口は1つ
搬出口のシャッターが1つ 現在閉まっている
シャッターを開ければ大きな音が鳴り、すぐに居場所がバレる
出入口から出ようにも、直に包囲する局員達が集ってくる
まともに逃げ出すのは不可能だろう
「...ライフルで狙撃される危険性を消す為に火薬庫に逃げ込んだって事だろうが、むしろ袋小路に入っちまったみたいだな」
「接近戦なら俺達を仕留められるとでも思ってるのか?甘く見られてるんじゃねぇのか行商人?」
「油断するなよ黒金局員、相手はいくつもの修羅場をくぐってきた傭兵だ」
火薬庫内部を探っている2人の元に、黒い影が迫る
「ッ!来るぞ!!」
咄嗟に防御するTAKE局員、黒の傭兵は一瞬で物陰に逃げ、姿を消す
「一撃離脱...反応するのが精一杯だな...」
再び駆け出す黒の傭兵 2人の間を通り抜けながら斬りかかっていく
「速い...ッ!防御すんのがギリギリだな!」
「なんだコイツ...まるで捉えきれねぇ...!」
一撃、また一撃と、黒の傭兵が通り過ぎ様に攻撃を加えていく
「クソッ!段々とこっちの防御をくぐり抜けてきてやがる!!」
徐々に2人の防御をすり抜け、ついにはほんの僅かではあるが斬られてしまう
捉えきれない姿は、まるで命を刈り取る黒き風だ
「ぐぅ...!マズイぞこれは...どうにか止めねぇと...!」
TAKE局員は目を閉じ、静かに構えていた
(...目で捉えきれないなら、見る必要は無い
音、風、そして殺気...それらを捉えれば...)
全神経を集中させ、黒の傭兵の接近を待つ
そして、その瞬間が訪れる
「そこだッ!!」
交わる一瞬、2人の斬撃が交差する
TAKE局員は腕を僅かに斬られ
黒の傭兵は、腹部を斬られた
競り勝ったのは、TAKE局員だ
「やったか...!?」
「いや、斬撃の入りが浅い、攻撃しつつダメージを抑える為に体を逸らしたんだ」
その一撃を境に、黒の傭兵の攻撃が止まる
2人は隙を見て応急処置を施す
「...黒金局員、この状況お前ならどう動く?」
「普通なら二手に別れて探すが、正直タイマンでやり合える相手じゃねぇ
かと言って2人で探してもさっきの二の舞だ
奴はこちらの探る音で位置を特定し、奇襲を仕掛けてくる 防御と回避の癖も読まれている以上、恐らく次は無い」
「...となると、最適解はあえて奴の動きを待つ、ってことになりそうだな
物音1つ立てた瞬間、同時に攻撃を仕掛ける
一瞬でケリをつけるぞ」
その時、アッシュから通信が入る
「こちらアッシュ、火薬庫周辺の包囲、完了したッス
例のブツもバッチリ起動してるッスよ」
「ご苦労さん、アッシュ局員」
「そういや行商人、例のブツってのは?」
「異常生態課から借りた対大型獣捕獲用電磁ネットだ
こいつなら確実に動きを止められるだろ?」
「大型獣用って...最悪焼け死ぬだろうな、こりゃ」
「ともかく、これで奴に勝ち目は無くなった
奇襲を仕掛けようものなら斬られ、逃げようものなら電磁ネットの餌食」
「...完全な"詰み"だな こっちの準備はいいぜ行商人」
「さあ、黒の傭兵...どう動く...?」

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黒の傭兵は、火薬庫の隅で応急処置を施しながら情報屋Fと通信をしていた
「おい、相棒、大丈夫かよ...?」
「ああ...止血は済ませた...やはり一筋縄ではいかんな...」
「周囲のスキャン完了...最悪だ、囲まれてやがる
オマケに高出力のエネルギー反応、多分電磁トラップの類だろうな」
「F、何か策は無いのか?」
「あるとすりゃ、大人しくオーパーツを返して土下座して命乞いするくらいだな コイツは流石にお手上げだ...」
「...なら玉砕覚悟で2人を仕留めに行くしかないな
外の連中はどうにもならんが...」
少し間を置いて、黒の傭兵が再び口を開く
「...いや、たった一つのだけ突破口がある」
「お、どんなだ?土下座よりいいプランでもあるのか?」
「...最後の手段だ、これしかない」

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火薬庫内が静寂に包まれて、およそ十数秒
突如として静寂が破られる
カチャリ、と何かの音が火薬庫の奥から鳴る
「!...あのコンテナの裏だ!」
「挟み撃ちにするぞ、黒金局員、右から回れ!」
2人が火薬庫奥のコンテナに向かって疾走する
先にコンテナの裏に辿り着いたのは黒金局員だった
が、コンテナの裏の光景を目の当たりにした瞬間、黒金局員は身を翻し叫ぶ
「こっちに来るな行商人ッ!!火薬庫から出ろッ!!!」
コンテナの裏では
黒の傭兵がグレネードのピンを抜いていた
「野郎、自爆する気だ!!正気かよ!!!」
「急げ!!とにかく火薬庫から離れるぞ!!」
2人は急いで火薬庫から脱出しつつ
TAKE局員が周囲の局員に緊急の通信を送る
「周囲の局員へ、急いで火薬庫から離れろ!!
可能な限り身を守れ!!!」
...程なくして、後方から爆発音が響く
と同時に、凄まじい衝撃波と熱風が2人を襲う
けたたましく鳴り響く警報の中
意識がブラックアウトしてゆく...

to be continued...

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