幕の下りた舞台の上でひとり

終演後ってどうしてもセンチメンタルになるというか、寂しいばかりではないんですけどどうしてもいろんな気持ちがないまぜになってしまいます。
なのでこれは制作としての私の独り言です。
感想の中にこれが混じるのも嫌なのでタグは付けずそっと夜中に放流します。

始まりは私の未練でした。
実は今回の企画、いいだしっぺは作者のぽんぽんさんではなく私で、私がぽんぽんさんにお願いする形で動き始めました。

私は舞台が好きです。
演じることが好きです。
照明を浴びて衣装を身にまとい自分ではない誰かになれるあの時間が好きです。

私もかつて4年ほど舞台に立っていたことがあり、その時過ごした時間は今でも記憶の中で鮮やかに色彩を帯びています。
その後はご時世柄もあってぷつりと縁もなくなってしまい、鮮烈な飢えだけが残っている状態……そんな時でした、ぽんぽんさんの戯曲『喫茶サンセットビレッジ』に出会ったのは。
まさかこのケモノ界隈で舞台の脚本を見かける日が来るとは思っておらず、見つけた勢いでそのまま最後まで読み切り、そして……私の中で舞台への憧れが再燃しました。
その後縁あってぽんぽんさんと知り合いになり、しばらく経った今年の6月、抑えきれずにぽんぽんさんに話を持ち掛けたのです。
「あの脚本を声劇という形でやらないか」と。
もともと死というテーマを扱った二次創作であったことからあまり積極的にこういった形にしようとは思っていなかったらしく、今回私から声を掛けられてじゃあちょっと考えてみるか、となったようです。私の記憶では。違ってたらごめんね。

んで、いざ人を集めるかとなった時に問題が一つ、まあ単なる私の心配事ってだけなんですけど。
「これ、人集まるかなあ……」
Vさんを追ってる方ならご存じかとは思いますが、シチュエーションボイス、いわゆるシチュボという文化あるじゃないですか。あれも一つの演技の形ですよね。
そういう文化があるとはいえ、『稽古期間があって』『文章も割と長くて』『舞台という形式で』やるって少なくとも初心者のかたにとってはハードル高くありません?それに舞台経験のある方の方がどうあがいたって少数派ですし、さっきも言ったけどここケモノ界隈だし。
5人、少ないようで結構私としてはビビってたんですよね。私そこまで顔広くないし。なので最悪4人集まったら私がやるかあって感じでした。
ここで勘違いして欲しくないんですが、役者をやりたくなかったわけではないです。むしろ滅茶苦茶やりたかったです、私舞台好きですし。
ただ、多忙なぽんぽんさんが演出をやると決まった時点で、誰かしらが制作の仕事を引き受けないといつかどこかでパンクすることが目に見えていたし、本企画のもう一つのコンセプトとして「舞台の楽しさを知って欲しい」っていうのがあったのでじゃあ私はそっちに徹しようと決めました。
ですので別にいやいや制作をやっていた、ってこともありません。いい舞台を作るために舞台の上で頑張るか、舞台の下で頑張るか、ただの戦場の違いです。
……と、まあ長々と心配していたのですが意外や意外、割とあっさり集まりました。もっとあっちこっちに声かけて回らないといけないと思ってたので一安心したのをよく覚えています。

そこからはもう激流下りみたいなものでした。
全員のスケジュール管理して、宣伝広告の仕方考えて……演出さんや役者さんたちが頭をひねってる横で私も色々頭を抱えていました、少しくらい褒めてもらってもいいのよ?
一方、やはり舞台未経験者の方が多い中、さらにオンラインで劇をするという(座組の中の人たちの中では)ほぼ初の試みだったので色々難儀したところはありました。事実、猫が鳴いたりどうしても音の遅延が入っちゃったりもしてましたし、まあそれはライブ感ってことでご愛敬です。
それでも役者さんも演出さんもたくさん考えて、試して、修正して……一生懸命脚本と向き合っていたからこそ私も安心して舞台の上のことを丸投げして自分の仕事に専念できました。役に立てたかは……まだちょっと自信ないですけど。

そして今日、本番。みんな裏で声が緊張してて、私はと言えばほぼやることもなかったのでのーんびりしてたんですけど、やっぱり私もドキドキしていたところはありました。
舞台の出来?違います、そこは私の領分じゃありませんから。
配信中トラブルが起きないか、スパムや荒らしが来ないか……大体そんなところです。私の心配は「つつがなく舞台が終わるかどうか」、その一点です。それもまあお客様方のご協力もあり杞憂に終わりましたけど。

そして、幕は下りました。

私個人としては肩の荷が下りた、って言うのに尽きるんですけど、役者さんたちにとってはどうだったんですかね。
一番大事なのは「楽しかったか」ですが、私は欲張りなのでそれ以上に何かを感じてくれたらなあ、とも思っています。
舞台を降りた彼らが何者になるのか、次にどこを目指すのか、舞台の上から何を持ってきたのか、私と同じように舞台に立つ喜びは感じられただろうか……答えは彼らの心にしかないので私には知りようがありません、それに聞こうとも思いません。野暮ってもんですから。
それに聞かずとも、今後の彼らを見ていればおのずと知ることになるはずです。なので私は制作という役から降り、彼らの次を見守る新たな役になろうと思います。

それがオセロという人間の生き方ですから。

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