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アートが人生について教えてくれるもの(1)

アートの展示を観て廻っていると、いいなと思う作品には結構な頻度で出会う事がありますが、心揺さぶられるような(思わず立ち止まってしばらく見とれてしまう)作品に出会う機会はなかなかないですね。でもそんな機会に恵まれると何故そこまで心揺さぶられたのか考えることがあります。そのような機会を与えてくれた作品たちとの出会いについて、なぜ心揺さぶられたのかを考えてみたいと思います。

まず今回取り上げたいのは、AKI INOMATAさんの作品『Think Evolution #1 : Kiku-ishi (Ammonite)』です。昨年、MoMAに収蔵が決まった作品ですが、それ以前に何度か観ていました。リンク先の動画を観て頂くとわかりますが、3Dプリンターで複製されたアンモナイトの殻に、タコが入っていくという作品です。アンモナイトは、タコの遠い祖先に当たるので、そこに回帰していくという感じですね。

タコは、進化の過程で殻を捨てて、その代わりに知性というか、保護色を使って捕食者から逃れるという能力を身につけました。それが、昔に捨てた殻にまた嬉しそうに入っていくタコを見ているといろいろ考えてしまいます。まず進化そのものについてです。同じ頭足類でもイカは、泳ぐ速度を速くすることによって、オウムガイは殻を捨てず、その代わりに深く深海に潜ることで、それぞれ生き延びて来ました。その中でタコは知性に賭けたわけです。

でも、私がこの作品に惹かれたのは、むしろタコが自分であったなら、今、何を捨てすべきなのかを考えさせられたことです。生き残っていくためには心地よい殻を捨てて、何か新しいものを身につけなければならなかったはずであり、それは殻を捨てた時点ではまだ十分に持っていなかった可能性もあるわけで、その決断した個体は何を根拠にしたんだろうと思ったりしました。私の場合はちょうど会社を辞めて次のステップに行こうかどうかということを考えていたので、何か背中を押されたような気になりました。あなたが捨てるべきものはなんですか?そう問いかけているように思えた作品です。

以前に、アート作品を見る側の視点として、4つの視点を紹介しましたが、この作品の場合、一見、対象へ向かう視点のベクトルを持つ作品のようでありながら、私にとっては、自分へ向かう視点のベクトルを持つ作品であったわけですが、逆に言えば、優れた作品は見る人にとっていろんなベクトルを持ちうるんだということだと思います。

尚、AKI INOMATAさんは、現在、東京の外苑前のMAHO KUBOTA GALLERYで個展中です。こちらの展示も海の中にいるような感じのとても良い展示なので、近くに行かれる方は是非、体験してみて下さい。

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