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メタバースと身体性

加藤直人著『メタバース さよならアトムの時代』を読みました。メタバースの歴史というか、インターネットの歴史からひも解いて、メタバースについて理解ができる良書でした。

その中で、加藤さんも指摘していますが、メタバースの条件として、特にインターネット全般と違う特徴として、身体性(身体感覚)をあげられています。

僕はむしろデジタルでフィジカル(身体)を実感できることがメタバースだと考えている。

加藤直人著『メタバース さよならアトムの時代』p.38

この点についてはその通りだと思いますが、身体性については今後メタバースが普及するにつれて考えないといけない論点が色々あると思っています。

メタバースにおける身体性

先日友人と話をしていて、メタバースにおける身体性には2つあるなという話になりました。アバターになってメタバースにいる時の話です。2つということで以下の2つを想定しました。

  • アバターを自分自身の投影として操作する場合

  • アバターを自分とは別の存在(例えば人形遣いの人形)として操作する場合

まず1つ目の自分自身の投影として操作する場合というのは、VRゴーグルをつけて動くような場合を考えます。以前にVRゲームの開発者の話を聞いたことがあるんですが、VRゲームのインターフェイスではプレイヤーが経験のある動作だとすぐにプレイできるが、経験していない動作だとうまくプレイできないということがあるそうです。逆に既に経験していることは、VRのプレイで凄く強化されるということは、アメフトのクォーターバックの事例がジェレミー・ベイレンソン著『VRは脳をどう変えるか?』に紹介されていました。つまりこの場合、リアルな身体とバーチャルな身体が相互に連動しているので、リアルな身体から全く自由ではないとも言えます。

2つ目のアバターを自分とは別の存在として操作する場合ですが、その場合はアバターに自分ではできない動作をさせることが割と簡単にできます。こちらの方がより全能感が得られると言ってもいいでしょうか。それでも操作しているアバターを何らかの自分の身体の拡張として感じる部分があって、アバターに触られたら不快に感じたりはします。でもこちらの身体性というのは脳が想像している限りの身体性であり、ある意味リアルな身体も脳の記憶の中の身体として認識されるように、アバターの身体も脳の中の想像された身体として同じような認識の中にあると言えます。

どちらの場合でもバーチャルな身体とリアルな身体との間での相互フィードバックが起こっていると思いますが、前者の場合、フィードバックが相互で割と均衡していると思うのですが、後者の場合はバーチャルな身体の方が一方的に拡張されていく感じのように思います。では前者なら良くて、後者が問題であるということなのかというとそうではありません。

人間の身体は、そもそも外部に開かれています。腸などに住む常在菌がいることで生命を保っています。それらの助けがないとリアルな身体は健全な状態を保てないと思います。そうは言っても今後メタバースで過ごす時間が増えていくことは確実なので、そうなっていった場合、自分のリアルな身体がある程度は適応できたとしても、いや逆に適応すればするほど、動物としての人間の身体感覚を失っていくのではないでしょうか。

身体性の進化の可能性

そうは言っても、メタバースで過ごす時間が増えてくるにつれ人間の身体感覚がどう変わるのかということについては未知数な部分もあります。それは年齢によっても差があると思いますし、ある程度の年齢を超えると新しいメタバース身体感覚を身につけられないかもしれません。メタバース身体感覚を完全に身につけていてもしばらくはリアルな身体としての活動も必要になるので、戻っても大丈夫な感覚も保持するための仕組みも必要ではないでしょうか。

ちょっとその辺の論点を纏めてみますと次の3点かと思います。

  1. メタバース環境に適応した時、身体感覚はどう変わるのか

  2. メタバースで得られる特に身体的な充足感は、リアルで得られる充足感とどう違うのか

  3. メタバース環境に高度に適応した後、リアルに戻った場合にその身体感覚をうまく切り替えられるのか

まだ身体感覚が変わるのは先だと思いますが、変わる前の状態を記録しておかないとどう変化したかがわからないので、記録する意味はあると思います。それをどうやって測定するのかという問題はありますが。脳波とかをとっておけば少しはわかるのだろうかとか思ったりはします。

メタバースにおける時間感覚


メタバースで過ごす時間が長くなるとそのうち1日のほとんどを過ごすようになるかもしれません。メタバースにおける時間というのはリアルと同じように24時間で1日でなくてもいいと思いますが、当面はそうだとしてどこの地域の時間帯に合わせるかという問題はあります。イベントがいつあるのかというような個別具体的な話もありますが、そうではなくメタバースにおける太陽とか月の動きのようなものです。

人間も動物である以上、太陽や月の影響を受けていますが、メタバースではそういう感覚も当面は実現されないでしょう。メタバースにほとんどの時間を過ごしていているとそのうち、今、何時とかよくわからなくなるのではないかということです。そういうことも再現できないと人間の動物としての身体感覚は失われていくと思うのです。それを失わないための仕組みも考えないといけないなということと、失われたものはなんだったのかというのがわかるようにしておくことも大事かなと思います。

それでも人はメタバースでどんどん過ごすようになると思いますし、そのことで変わるべき感覚と変わらず残す感覚について色々考え続けたいと思いますし、自分でも体験してその感覚を確認したいと思います。完全なメタバース身体感覚を身につけるには年齢的に遅いのかもしれませんが。




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