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時と共に変わる展覧会

12時25分、水が勢いよく壁に向かって噴射され、壁に描かれた赤い壁から、その色が下に流れてゆく、床には水が溜まり、そこには生花が浮かんでいる。これは東山のKUNST ARZTで行われていた大石茉莉香の展示の一場面。1日1回、この時間だけ、この噴射が行われる。

大石茉莉香の今回の展示は、スリランカの教会で起こった銃乱射事件を題材としている。12時25分と言うのは実際、その事件が起った時間だそうだ。上に述べた水の噴射は、銃の乱射による血しぶきをシュミレートしている。展示は2部屋に分かれており、この噴射が行われる部屋は教会の外側、もう1部屋は教会の内側という設定である。教会の内側を想定した部屋には、蛍光色でできた椅子とその前にキリストの絵の映像、大石のいつもの作品同様、時間と共に雨による滲みでキリストの絵が変化していく作品である。蛍光色は、事件直後に駆け付けた警官の蛍光色のジャケットのイメージを表現しているそうだ。

今回の展示のすべてが、スリランカの事件のイメージと連なっているが、大石の展示へのこだわりは、時間である。前回の大石の展示では、事件性はなかったが、鑑賞者が水を霧吹きでかけることで作品が時間とともにかわるという作品であった。鑑賞者は作品のある一時点の状態しか目にすることができず、初日と最終日の鑑賞者は相当違う作品を目撃することになる。

私たち鑑賞者は美術館等に作品を観に行く時、いつ観に行っても同じ作品がそこにあることを想定している。しかし世の中に起こる出来事はほとんどのものが、その時その場でしか体験できない唯一の体験である。大石の展示は、常に鑑賞のタイミングが大切であることを思い起こさせる。特に今回の展示は、実際に起こった事件の時間を想起させることで、より一層ある時間に鑑賞者の意識を向けさせることになる。この体験が他の展示と全く違う体験で、何か体験したなという気持ちにさせてくれて心地よい。この心地よさのことを思い、大石の次回の展示が今からとても待ち遠しいのである。


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