令和6年度司法試験再現答案[労働法 第2問] バッタ

バッタです。
R6司法労働法の第二問です。


第一 労働組合法(以下、「労組法」とする。)7条2号について

1 X組合は、Y社の団体交渉における態度が誠実交渉義務に違反しており、実質的な団交拒否であると主張して、労働委員会に対し、誠実交渉命令及びチェック・オフの締結命令の申立てをすることが考えられる。

(1) かかる申立てが認められるためには、まずX組合の申し込んだ団体交渉の内容が義務的団交事項に当たる必要がある。

 義務的団交事項とは、労使対等と労使自治の促進という労組法の目的(1条1項)より、労働者の労働条件その他の待遇や団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者が解決可能なものをいう。

 本件でX組合が団体交渉を求めたのは、業務手当廃止の撤回と組合費のチェック・オフの実施である。業務手当については、賃金という労働者の労働条件に関する事項であるし、Y社の一存によって撤回することができるから、使用者が解決可能なものといえる。

一方で、チェック・オフの廃止は、団体的労使関係の運営に関する事項といえるものの、Y社が解決可能なものといえるか。

チェック・オフは組合員と使用者との間の組合費支払委任契約と、組合と使用者との間の組合費取立委任契約によって構成されるところ、チェック・オフといえども賃金の一部控除にほかならないから、賃金全額払いの原則(労基法24条1項)の適用を受ける。そのため、同項但書きの要件を充足しなければ、チェック・オフを締結することはできない。

 X組合に加入しているのは、Y社の管理職を除く労働者200名のうち25名のみであったため、X組合は「労働者の過半数で組織する労働組合」に当たらないし、「労働者の過半数を代表する者」ともいえない。

したがって、X組合の申し出たチェック・オフの締結は労基法24条1項但書きの要件を充足していない以上、法律上締結することができず、Y社が解決可能なものとはいえなかった。

 そのため、業務手当廃止の撤回は義務的団交事項に当たるが、チェック・オフの実施は義務的団交事項に当たらない。

(2) では、Y社の態度が誠実交渉義務違反となるか。

ア 上記労組法の目的から、使用者は合意達成の可能性を模索して誠実に交渉する義務を負う。

イ これを本件についてみると、たしかにY社は業務手当廃止の経緯について、業務手当が7年目にヒット商品が出て業績が一時的に好調だったときに従業員に利益を還元する趣旨で当面の措置として残したものであり、近年の会社の業績不振に照らせば廃止もやむを得ないという自らの主張を明示している。また、かかる主張を裏付ける資料として「当社決算の概要と過去10年の推移」という論拠も示している。

 しかし、会社の業績悪化が直ちに業務手当の廃止につながるわけではない。すなわち、業務手当が月額3万円であり、その廃止は労働者の生活に重大な打撃を与えることに鑑みれば、コストの見直しや人的コスト以外のコスト削減、新規採用の停止などの他に採り得る手段を尽くしてからはじめて検討されるべきものである。そのため、X組合が「当社決算の概要と過去10年の推移」以外にも更なる資料の提出を求めるのも合理的である。それにもかかわらず、Y社はかかる資料以外に提出資料はなく、業務手当の廃止によってどれだけの経費削減効果があるのか、他にどのような経営改善の努力を行っているのかなどの説明もしなかった。Y社は、「正式な計算書類は外部に非公表である」と主張するものの、X組合との合意達成の可能性を模索するならば、どうしても見せられない部分のみを黒塗りにして提示するなどの方法により最大限の説得を試みるべきであるにもかかわらず、それすら怠っている。

ウ 以上のことからすると、Y社の一連の態度は誠実交渉義務に反する。

2 よって、Y社は業務手当廃止の撤回については実質的な団交拒否として労組法7条2号に違反するのであり、労働委員会はY社に対し誠実交渉命令を発することになる。

第二 労組法7条3号について

1 まずX組合は、Y社がA組合とチェック・オフ協定を締結したことが中立保持義務に違反するため支配介入に当たると主張し、労働委員会に対しポストノーティス命令を求めることが考えられる。

(1) そもそも、複数組合間で協約締結の有無が異なったとしても、それは自由な取引の場における選択の結果が異なったにすぎないのであるから、支配介入には当たらないのが原則である。しかし、これは組合の自由な意思決定を前提とするから、これを担保するために、使用者は併存組合を平等に取り扱い、中立を保持する義務(中立保持義務)を負う。ただし、併存組合間に差異があるのは当然であり、各組合との組織力、交渉力に応じた合理的・合目的的な対応をすることは許される。そこで、既に当該組合に対する団結権の否認ないし嫌悪の意図が決定的な動機となって行われた行為があり、当該団体交渉がそのような既成事実を維持するために形式的に行われているものと認められる特段の事情がある場合に、例外的に支配介入に当たる(日産自動車事件判決参照)。

(2) これを本件についてみると、まず、チェック・オフの締結の申出はX組合との団交でもA組合との団交でもY社からではなく、組合側から申し出たものであるから形式的に中立保持義務に違反していない。また、X組合は労働者200名中25名しか所属していない地域合同労組であるのに対し、Y組合は労働者150名も所属する企業別労働組合であるから、その組織力・交渉力は大きく異なる。さらにX組合が断固として業務手当の廃止に応じなかったのに対し、A組合は業務手当の廃止に柔軟な態度を示しており、いわばこれとトレードオフの関係としてチェックオフの締結を認めたものである。

 これらのことからすると、あらかじめX組合に対する弱体化のためA組合とのみチェックオフ協定を締結すると決めた上で、形式的にA組合との団体交渉を行ったにすぎないといえるような事情は伺われず、中立保持義務に反しないというべきである。

(3) したがって、上記X組合の申立ては認められない。

2 次に、X組合はY社がA組合とユニオン・ショップ協定(以下、「ユシ協定」とする。)を締結したことがX組合を弱体化させ、支配介入に当たると主張し、労働委員会に対しA組合とのユシ協定の解除命令及びポストノーティス命令を求めることが考えられる。

(1) これに対し、Y社はユシ協定の効力がX組合の組合員に及ぶことはないためX組合弱体化の効果はないと反論する。そこでユシ協定の効力について検討する。

 ユシ協定は組織強制により組織を拡大・強化し、労働組合の交渉力を高めるという機能を有するから原則として有効である。しかし、労働者にも組合選択の自由があるし、複数組合主義の下、ユシ協定を締結していない他の労働組合の団結権も等しく尊重されるべきである。そのため、他の労働組合に加入し又は新たに労働組合を結成した者への使用者の解雇義務を定めた部分は、民法90条によって無効となる。

 そうだとすると、Y社の反論の通り、A組合との間でユシ協定を締結したとしても、X組合に対し何らの効力も及ばず、弱体化の効果はないようにも思える。

(2) しかし、A組合との間で締結されたユシ協定には「A組合に加入しない者・・・は、従業員の資格を失い、Y社はこれを解雇する」という定めがあった。このような文言を見た通常の組合員であれば、A組合に加入しなければ解雇されてしまうと思うのが通常である。実際に、A組合とのユシ協定の内容は、A組合のニュースレターに掲載され、Y社の従業員向けの掲示板の脇の机の上に積み重ねて置かれることで誰でも閲覧可能な状態となった結果、X組合から10名の脱退者が出ている。

 そうだとすると、あえて上記文言を設けたことにより事実上のX組合に対する弱体化の効果があるため、支配介入に当たり得る。

(3) 支配介入に当たるためには、支配介入意思が必要であるが、その内容は反組合的意思で足りる。本件では、X組合が始業前にY社の本社・工場の門前で抗議活動を行うというY社にとって好ましくない行動をとっていたこと、Y社は回答書②においてユシ協定の効力がX組合には及ばないことを理解しており、Y社があえて上記文言を設けたものと思われることからするとX組合に対する反組合的意思が認められる。

3 よって、労働員会はY社に対し、ポストノーティス命令及び上記文言の削除命令を発することになる。

以上

〇感想
・第1問で懲戒解雇を大展開しちゃったせいで、80分弱しか使えなかった。
・中立保持義務違反っぽいけど、典型的な中立保持義務の事例とはだいぶ色彩が異なり戸惑った。
・誠実交渉義務は予想通りの出題。ただ、昔の高裁の定義より、近時の最高裁判決の定義を使った方がベターだったか。
・X組合とチェックオフは法的に締結し得ないという話は中立保持義務違反でも論じればよかった。
・ユシ協定が支配介入に当たるという論理が合っているか微妙

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