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皆さんからお寄せいただいた質問への回答まとめ

前回の記事は、もともと知り合いの4人くらいが読んでくれたらいいなぁという気持ちで書かせていただきましたが、とんでもない人数の方にお読みいただき、大変びっくりしております。

残念ながら今国会での審議は見送りとなってしまいましたが、賛成派であれ、反対派であれ、想像以上の方々が種苗法改正に興味を持ってくださり、また内容を真剣に理解し、ジャッジしようとしてくださっていることを知り、大変嬉しく思っております。

(自分の専門外の法案に対して、皆様のようにきちんと事実を知ろうという姿勢をもっていたかというと、必ずしもそうではなかったので、反省すると同時に見習います。)

その中でいくつかご質問をいただきました。多くの方が同じような疑問を持たれているかと思いますので、コメント欄でお答えしたことを改めて記事にさせていただきます。

質問①反対の方は主に海外からの外資系企業の進出を恐れての反対だと理解してるのですが、実際の所どうなのでしょうか?

回答:私の知りうる限りでは、今回の改正により外資系企業がどんどん日本の種苗を抑え、日本の食料事情が危ぶまれるということは、考えにくいと思います。

一般品種という自家増殖が許された植物が9割ある中で、海外の種苗会社がどのようにして市場を独占していくのでしょうか。

反対派の意見の中にはお金のある企業は一般品種(在来種含む)を新品種として簡単に登録できてしまう落とし穴があると指摘しておられる方もいらっしゃるようです。

ただ品種登録時には大雑把に4つの登録要件があります。
1『区別性(いままでにある品種との違いがはっきりとわかること)』
2『均一性(おなじAの品種の種をいくつかまいたときに、それぞれから同じように植物ができること)』
3『安定性(毎回、毎年、安定して同じ特性が出ること。何世代増殖を繰り返しても同じものができる。)』
4『未譲渡性(登録したい植物体がまだ誰にも譲渡されていないこと)

僕が経験したケースでは品種登録にあたっては、様々な資料を提出するとともに、農水省の方と、専門家の方が当研究所までお越しになり、上記の登録要件を満たすかどうかをしっかり審査され、登録にいたりました。

今回の法改正でも、第15条に、現地調査または試験栽培を行うという原則が書かれております。(いままでは必ず農水省がそれを行う必要がありましたが、改正により農研機構に依頼できるようになりました。)

そのような中で、既存にあるものを、新品種として登録することは、基本的にはありえないと思います。ですので、一般品種までが、海外企業に独占されていくというシナリオは考えづらいです。

*農研機構とは(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)http://www.naro.affrc.go.jp/introduction/about-naro.html
シャインマスカットという素晴らしい品種を開発されたのは、農研機構です。(つまり、シャインマスカットの権利者はおおざっぱに言えば国になります。登録品種の中には、私のような民間の育種家や、種苗会社もありますが、こういった国や県によって開発され、登録されている品種もたくさんあります。)

質問②海外で品種登録する事や国内の育種の方の補助をもっとしっかりする事で種苗法を変えなくてもいいのか、それ以外にも変えなければいけない理由があれば知りたいです。

回答:もちろん海外での品種登録も一つの手段ではありますが、万能でもありません。(このあたりは色々と複雑です、、、詳しくはいつか直接お話するチャンスがあれば、、、、)

 現在も海外での品種登録を育種家が希望する場合には、その費用に国からの助成が降りる制度もあります。

ただ、登録できたとしても、現地での状況把握や取締り等の費用や労力も多大で、運用はなかなか容易ではありません。

改正を通じて、登録品種は簡単に持ち出してはいけないものだ、種苗にもコピーライトがあるということをしっかり認識していただくことで、今までのように、悪気なく品種が海外に流出することを抑える効果はあるのではと期待しますし、まず諸先進国においては、基本的に自家増殖は禁止され、ある程度知財を守るという共通認識があることがスタンダードです。その国際基準に少しずつ日本も近づいていかなければ、このグローバル社会の中において安定した知財の開発を行っていくことが難しくなるのではないでしょうか。

質問③一つ質問なのですが、以前ラジオで元農水大臣の山田さんが、「在来種の設計図だけ登録した「権利者」が、裁判で「実物を出せ」と言われて、在来種使用の被告の農家に対して敗訴した。今回、実物を出さなくても権利だけで勝訴するように改正されるとおっしゃっていました。」この点についてはどのようにお考えですか?

→山田さんがおっしゃる設計図だけ登録というのが、抽象的すぎてわかりかねますが、登録品種の特性表のことをおっしゃっているのかもしれません。たしかに今回の改正で、『品種登録簿に記載された特性(特性表)と被疑侵害品種の特性を比較することで 両者の特性が同一であることを推定する制度を設け、侵害立証を行いやすくする。 (第35条の2)』というものがあります。しかし特性表を一度みたことがある方はお分かりになるかもしれませんが、ぶどうでいえば特性表の項目は52項にも及び、この52項目がすべて合致する植物体が、世の中にたくさんするということは、まず考えにくいです。 

この第35条の2が作成された背景には、いままで違法に譲渡されたり、盗まれたりした種や苗を栽培している農家を、品種権利者が訴えた場合、その違法行為を証明することに高いハードルがありました。

その盗まれた苗と、自分が権利を持っている苗が同一のものであるということは、基本的には訴える側の権利者が自らその情報をキャッチし、証拠を抑え、特性比較、比較栽培、DNA分析などを通じて証明せねばならず(下記の表のとおり、相談すれば農研機構の品種保護Gメンのサポート受けられます*内容によっては有料)、侵害立証が大変難しかったため、その労力や費用を考えると訴訟を起こさず、違法行為を放置せざるを得ないケースが多々ありました。その現状を踏まえて、第35条の2が加わったのです。もちろん今後も、裁判所が特性表だけでは同一だと判断できないとすれば、比較栽培やDNA分析も行われます。

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出展:農研機構HP
http://www.naro.affrc.go.jp/introduction/about-naro.html

質問④在来種を在来だと証明するには?大企業なら簡単に新規として登録できるなら、登録されてない90%は危険ということですよね。

回答:いままでにご説明してきた登録要件や審査体制の中で、既存にあるものを、新品種として登録することは、基本的にはありえないと思いますし、違法です。ましてや在来種を簡単に新規として登録できるなどありえません。

また、種苗法改正前から、登録品種に対しての育成者権自体は存在するわけで(農家の自家増殖が許されていただけ)、もし在来種の遺伝子等が目的で、外資の大企業が日本の在来種を抑えにかかるなら、今回の改正に関係なくすでにそういう申請事例もありそうなものですが、農林水産省に確認しても、そういった事例は現在全くみられないそうです。

また一般品種だと知りながら、登録をしようとしたことが発覚した場合には逆に詐欺罪に問われますし、その登録はもちろん抹消されます。

最後に、下記に関しては直接質問はありませんでしたが、気になる方もおられると思いますので、家庭菜園に関して説明を農水省HPから転載いたします。

今回の法改正で、家庭菜園(販売、譲渡を行わない場合)で
の利用に影響はありますか。
今回の法改正では、登録品種であっても、収穫物の譲渡や販売を行わない
自家消費目的の家庭菜園や趣味としての利用に影響はありません。
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/shubyoho.html

奇しくも、5月、6月はぶどう農家の最繁忙期にあたります。夜明け前から、夜中まで作業という日々が続いており、なかなか十分に、またタイムリーにみなさまのコメントや、応援のメッセージのご返信ができず申し訳ありません。メッセージはすべて拝見し、大変うれしく思っております。

何が事実かもう訳がわからない、そんなご意見も特に非農家の方々から見られますし、私もみなさんの立場ならそうなるかもしれません。農業現場と消費社会があまりにも分断されすぎていて、「この種苗法改正って結局どうですか?めっちゃ影響ありますか?」ってことを聞けるような顔見知りの農家さんが近くにいなかったりすることも、不安がどんどん増してしまう原因なのかな、とも感じました。

「大規模流通ももちろん食を支える上で欠かせないものだが、農家と消費者が直接つながる世界も一方で重要」というポケットマルシェ代表の高橋博之さんの言葉が思い出される今日このごろです。

https://tohokutaberu.me/concept.html

また長文にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
引き続き、畑がんばります!

林ぶどう研究所
林 慎悟



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