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大注目アーティスト ロザリア徹底解説


子供時代と初期の音楽的影響

ロザリア・ビラ・トビリャは1992年9月25日にスペインのカタルーニャ州サン・クガ・デル・バリェスで生まれました。彼女はサン・エステベ・セスロビレスで育ち、カタルーニャ語を話す家庭で育ちました。母親のマリア・ピラール・トベリャはビジネスウーマンで、父親のホセ・マヌエル・ビラはアストゥリアス出身です。ロザリアは幼少期から音楽に強い興味を持ち、特にフラメンコ音楽に惹かれていました​​。

小さい頃のロザリア

ロサリアの音楽の旅は、幼い頃から始まりました。彼女の音楽の才能は両親によって早期に認められ、特にフラメンコ音楽に対する情熱は、学校で停めてあった車から流れていたフラメンコの音楽を聞いた時から始まりました。この経験がきっかけで、音楽への情熱が燃え上がりました。両親はロザリアの音楽的な追求をサポートし、9歳で最初のギターを購入しました。またその流れでピアノも学びました​。

ロザリアは音楽教育を受けるために、地元のTaller de Músicsという音楽学校に入学しました。ここで有名なフラメンコ教師のチキ・デ・ラ・リネアと共に学びました。また、カタルーニャ高等音楽院(ESMUC)でも学び、フラメンコの伝統的な技術を深く学びました。

さらに、ロザリアは独学でも音楽活動を続け、結婚式や音楽バーで歌い、少額の報酬や食事と引き換えに演奏しました。このような経験を通じて、音楽シーンでのパフォーマンス技術を磨いていきました​​。

15歳の時、ロザリアはスペインのテレビ番組「Tú Sí Que Vales」に出演しましたが、選ばれませんでした。しかし、この経験はロザリアの音楽への情熱をさらに強化しました。17歳の時には激しい歌唱練習の結果、声帯を痛めて手術を受け、一年間歌えない状態が続きました。この困難な時期を乗り越えた後、フラメンコグループKejaleoのボーカリストとして活動し、2013年にはアルバム『Alaire』をリリースしました​ 。


『Los Ángeles』(2017年)


ロザリアのメジャーデビューアルバム『Los Ángeles』は、2017年2月10日にリリースされました。このアルバムは、フラメンコの伝統に忠実でありながら、現代的なアプローチを取り入れた作品です。プロデューサーのRaül Refreeと共同で制作されたこのアルバムは、フラメンコの持つ感情の深さと多様なサウンドスケープを見事に融合させています。アルバムのテーマは「死」であり、各トラックが異なるフラメンコの形式(パロ)を探求しています。

『Los Ángeles』は、フラメンコの伝統を忠実に守りながらも、新しい要素を取り入れた点で革新的です。例えば、アルバムの中で最もフラメンコらしいトラック「Catalina」は、クラシカルなギターとロザリアの圧倒的なボーカルが特徴です。

また、アルバムの最後を飾るのはボニー・"プリンス"・ビリーの「I See A Darkness」のカバーで、メランコリックな雰囲気がアルバム全体のテーマを締めくくります。


このアルバムは、フラメンコ音楽の新たな可能性を探求し、ロザリアの音楽キャリアの礎を築いた重要な作品です。



『El Mal Querer』(2018年)



ロザリアのセカンドアルバム『El Mal Querer』は、2018年11月2日にリリースされ、ロザリアの音楽キャリアにおいて重要な転機となりました。『El Mal Querer』は、13世紀のスペインの小説「フラメンカ」に基づいています。このアルバムは愛、嫉妬、解放の物語を描いており、各曲が章(Capítulo)として構成されています。アルバム全体が一つの物語のように展開し、そのテーマとストーリーテリングは「フラメンカ」と深く関連しています。

小説「フラメンカ」
「フラメンカ」は、13世紀に書かれたオクシタニア語のロマンス小説で、愛と嫉妬の物語を描いています。この物語は美しい女性フラメンカが嫉妬深い夫によって塔に閉じ込められ、彼女を救おうとする恋人との関係が描かれています。物語は宮廷生活の中での策略や陰謀、嫉妬と愛の葛藤を描いており、フラメンカの最終的な解放までの過程を追っています。

ロザリアは『El Mal Querer』で「フラメンカ」の物語を現代的に再解釈しています。アルバム全体が一つの物語として構成され、各曲が物語の特定の章を表しています。そのためこのアルバムは全体を通じて一貫したテーマになっています。

例えばアルバムのリードシングル「Malamente」は、物語の始まりを象徴する曲で、嫉妬と不安を表現しています。この曲では、フラメンカの塔に閉じ込められる運命を予感させる重厚なビートとフラメンコのパルマ(手拍子)が特徴的です。他の曲もそれぞれ物語の進行に沿って、フラメンカが塔に閉じ込められる過程や、彼女の内面的な葛藤、最終的な解放を描いています。

前作との違い
『Los Ángeles』の制作はライブ録音のようなシンプルで生々しいサウンドプロダクションが特徴であり、主にアコースティックギターとボーカルのみで構成されています。このアルバムは、フラメンコの伝統を強く意識し、ミニマルなプロダクションアプローチを採用しています。

これに対して『El Mal Querer』は、サンプルやループ、シンセサイザーなどを駆使し、より複雑で層の厚いサウンドを実現しています。El Guinchoのプロダクションは、エレクトロニックサウンドとフラメンコの要素を巧みに融合させており、前作にはない実験的でモダンなアプローチが際立っています。

音楽的特徴とサウンド

フラメンコと現代音楽の融合
『El Mal Querer』は、フラメンコの伝統的な要素をエレクトロニックサウンドやポップ、R&B、レゲトンといった現代の音楽スタイルと融合させています。このアルバムは実験的で多様なサウンドを取り入れており、ロザリアのボーカルが中心に据えられています。「Que No Salga La Luna」では、パキータ・デ・ヘレスのサンプルとブルリアスのループが使われており、フラメンコの伝統を強調しています。

サンプルとループの使用
El Guinchoの影響が色濃く出ているこのアルバムでは、サンプルとループが巧みに使用されています。「De Aquí No Sales」では、バイクのエンジン音やタイヤのスクリーチング音がサンプルとして使われ、緊張感とエネルギーを生み出しています。「Bagdad」では、ジャスティン・ティンバーレイクの「Cry Me a River」のインターポレーションが使われ、荘厳なサウンドが特徴です。

ボーカルの卓越性
ロザリアのボーカルは、フラメンコの伝統を受け継ぎながらも、その枠を超えて新しい解釈を与えています。「Malamente」では、ロザリアの独特なボーカルスタイルが際立っており、批評家から絶賛されました。Pitchforkは、ロザリアの声を「スペイン語ポップが長年にわたって遭遇した中で最も指揮を執る存在」と評価しています。

『El Mal Querer』は、ロザリアを国際的な音楽シーンの中心に押し上げ、フラメンコ音楽の新しい方向性を示す重要な作品となりました。このアルバムは、フラメンコの伝統を尊重しながらも、現代的なアプローチを取り入れることで新しい音楽の領域を切り開くものとなりました。


主要な楽曲

1.「MALAMENTE」 (Cap.1: Augurio)
この曲は、アルバムのリードシングルであり、重厚なビートとフラメンコのパルマ(手拍子)を組み合わせた楽曲です。この曲は、ロザリアの独特なボーカルスタイルが際立っており、批評家から絶賛されました。MVも印象的で、伝統的なアンダルシア文化と現代的なビジュアルが融合しています。


2.「QUE NO SALGA LA LUNA」 (Cap.2: Boda)
この曲では、ロザリアのメランコリックなフラメンコボーカルが、シンプルながら力強いギターとパルマのアレンジに乗せられています。PAQUERA DE JEREZのサンプルとブレリアスのループが伝統的なフラメンコの雰囲気を強調しつつ、モダンな要素を取り入れています。

3.「PIENSO EN TU MIRÁ」 (Cap.3: Celos)

「PIENSO EN TU MIRÁ」は、シンセサイザーのゆったりとしたサウンドとリズミカルな手拍子が融合した楽曲です。歌詞の「Pienso en tu mirá, clavá, es una bala en el pecho」(君の視線は胸に突き刺さる弾丸のようだ)は、そのMVで血がゆっくりとシャツに染み込む様子で視覚的に表現されています。


4.「DE AQUÍ NO SALES」 (Cap.4: Disputa)
「DE AQUÍ NO SALES」は、バイクのエンジン音やタイヤのスクリーチング音がサンプルとして使用され、緊張感とエネルギーを生み出している楽曲です。また、この曲では、強いリズムの手拍子と細かく分割され再配置されたボーカルトラックが使われています。

5.「BAGDAD」 (Cap.7: Liturgia)
「BAGDAD」は、ジャスティン・ティンバーレイクの「Cry Me a River」を部分的に取り入れており、そのメロディを加工して独自のサウンドに変えています。曲の最初の部分では、このメロディが歪んだ形で聞こえ、その後、合唱のような複数の声が重なる部分に移行します。また、ベルの音色やキラキラとしたエフェクトを使用して祝祭的な感じも演出されています。




『MOTOMAMI』(2022年)


ロザリアのサードアルバム『MOTOMAMI』は、2022年3月18日にリリースされました。このアルバムもロザリアのキャリアにおいて重要な作品となっており、ジャンルを超えた実験的な音楽スタイルと個人的なテーマを特徴としています。『MOTOMAMI』はロザリアが自身の名声、愛、家族、そして自己を探求する過程を描いています。アルバムのタイトルは二つの言葉から成り立っており、「Moto」(動き、力)と「Mami」(母親、女性)を組み合わせたものです。

『MOTOMAMI』は音楽的に非常に多様で、さまざまなジャンルを融合させています。アルバムの曲はレゲトン、R&B、ハイパーポップ、フラメンコなど、異なる音楽スタイルを取り入れており、ロザリアの実験的なアプローチが際立っています。伝統的なフラメンコの要素を現代的な音楽スタイルと組み合わせることで、独自の音楽に仕上がっています​。

またこのアルバムは、プロデューサーのEl Guinchoとの共同制作によるもので、ロザリアの革新的なビジョンを実現するために最新の音楽技術を駆使しています。『MOTOMAMI』には、大物アーティストThe Weekndとのコラボレーション曲「LA FAMA」なども収録されています。

それと『MOTOMAMI』の制作は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの影響を強く受けました。ロザリアはアルバムの制作を2019年に始め、2021年8月までかけて仕上げましたが、その間にパンデミックが発生し、多くのアーティストと同様に彼女の活動にも大きな制約が生じました。パンデミック中、ロザリアはマイアミに拠点を移し、隔離期間中にアルバムの多くを制作しました。

ほかに注目すべきはこのアルバムには、日本との多くの関連が見られることです。ロザリアはクレヨンしんちゃんやカードキャプターさくらを見て育ったと言っており、日本文化が好きだと公言しています。そのためアルバムに収録されている「HENTAI」や「SAKURA」、「CHICKEN TERIYAKI」といった楽曲は、日本文化に直接的に言及しています「HENTAI」では性的なテーマを探求しつつ、繊細でエモーショナルなサウンドを特徴としています。また「SAKURA」は桜の花の儚さと美しさを歌っています。「CHICKEN TERIYAKI」では、川崎重工業のバイクやサーモン巻きに言及しています。外国人に親しみ部会日本の主要なカルチャーが、今大注目のアーティストのアルバムの中で言及されていることは非常に面白い現象です。下にはロザリアがVOGUEの時にインタビューしたときの日本文化について話している記事を張っておいたのでぜひ見てください。

他に注目すべきはやっぱり強烈なインパクトを放つアルバムジャケットでしょう。『MOTOMAMI』のアルバムジャケットはロザリアが裸でヘルメットを被った姿を描いており、これは彼女が自己を曝け出し、同時に守る必要性を感じていることを表現しています。これももしかしたら日本文化の変態に影響を受けているのかもしれません。

このアルバムはプロダクションの質の高さと多様な文化的影響、音楽スタイルの融合によって、批評家からも高く評価されています。


主要な楽曲

1.「SAOKO」

「SAOKO」は、ジャズピアノのブレイクとダンスホールのビートを融合させた楽曲です。この曲のサウンドスケープは複雑で、重厚なベースラインとリズミカルなドラムビートが特徴です。ウィシンとダディー・ヤンキーの「SAOCO」をインターポレーションしており、フュージョンジャズの要素も取り入れています。サウンドの変化が多く、曲全体に動きとダイナミズムを与えています。

2.「CANDY」

「CANDY」はレゲトンのビートとジャジーなピアノブレイクを組み合わせた曲です。ピアノのリフレインが特徴的で、リズムセクションはシンプルながらも力強く、失われた愛に対する感情を音楽で表現しています。ベースラインは深く、全体的にメランコリックな雰囲気を醸し出しています​。

3.「CHICKEN TERIYAKI」

「CHICKEN TERIYAKI」は、重厚なベースラインとリズミカルなビートが特徴の楽曲です。この曲では、サンプルとしてバイクのエンジン音やタイヤのスクリーチング音が使われています。レゲトンのビートが中心に据えられており、シンプルながらも力強いリズムが曲全体を支えています​。さっきも述べた通り川崎やサーモン巻きが歌詞に登場します。

4.「BIZCOCHITO」

「BIZCOCHITO」は、チップチューンの影響を受けた軽快でエレクトロニックなビートが特徴です。チップチューンとは、ゲーム機やコンピュータの音源チップを使用して作られる音楽のことを指します。この曲では、軽やかな電子音とレゲトンのリズムが融合し、独特なサウンドスケープを生み出しています。そのため曲全体にユーモラスで楽しい雰囲気をもたらしています。ビートはシンプルでありながらもエネルギッシュで、ロザリアの軽快なボーカルと絶妙にマッチしています。

「BIZCOCHITO」のリズムは非常に規則的で、耳に残りやすい構造を持っています。メロディはシンプルながらもキャッチーで、ロザリアのボーカルが際立っています。

楽曲のタイトル「BIZCOCHITO」はスペイン語で「ビスケット」や「小さなクッキー」を意味し、これは日本の「カワイイ」文化にも通じる軽妙な表現となっています。


おまけ

また注目すべきことはロザリアはVOUGEのインタビューで日本好きを公言していることです。詳しくは下に貼ってある記事を見てください。一部分だけ紹介します。

子どもの頃は、スペインで『クレヨンしんちゃん』を観て育ちました。カタルーニャ語では「チンチャン」って呼ばれているんですが、本当は「しんちゃん」ですよね? あとは『カードキャプターさくら』というアニメもいつも観ていましたね。夏になると姉と一緒に。これを観て夢中になって、「いったいこれは何?」ってなりました。あんなに心を奪われたのは初めてでした。色使いや、形、表情がどれもとても斬新で、まさにぶっとぶような経験でした。その後、成長するにつれて、デザインや建築への関心が高まっていったのですが、それはもう少しあと、19〜20歳の頃でしょうか。その頃からそうしたものに興味が湧いてきて、感銘を受けるようになったんです。日本のインテリアのデザインとか、建築とか。それから食べ物にも。バルセロナではずっと寿司や、焼きそばといった日本食を食べています。焼きそばを作れるようになってみたいですね。でもバルセロナには、食材を置いているお店が少なくて。とにかく、日本のことは昔からずっと好きなんです。



優れたシングル曲

最後にロザリアのキャリアのなかで優れた楽曲を紹介して終わりにします。

「Con Altura」 (feat. J Balvin) - 2019年

「CON Altura」は、2019年にリリースされたロザリアとJ Balvinのコラボレーション曲です。この曲はリリース直後から大ヒットし、YouTubeのミュージックビデオは現在21億回再生されるなど、世界中のリスナーに広く受け入れられました。ロザリアのダンスパフォーマンスやスタイリッシュなビジュアルも、この楽曲を通じて新たなファン層を獲得する要因となりました。


「Yo x Ti, Tu x Mi」 (with Ozuna) - 2019年

「Yo x Ti, Tu x Mi」は、2019年にリリースされたオズナとのコラボレーション曲です。この曲は、ロザリアの柔らかなボーカルとオズナのエネルギッシュなパフォーマンスが見事に融合し、キャッチーなメロディーとリズムが特徴的です。楽曲はロマンチックなテーマを扱っています。商業的にも大成功を収め、多くの音楽チャートで上位にランクインしました。特に注目すべきは、この曲がリリースされてから短期間で1億回以上のストリーミング再生を記録したことです。


「A Palé」 - 2019年

「A Palé」は、2019年にリリースされたシングルです。この曲は、実験的なビートとユニークな歌詞で構成されています。曲中には工場のノイズや重機の音がサンプルとして使用されており、産業的なサウンドが特徴です。


「Juro Que」 - 2020年

「Juro Que」は、2020年にリリースされたシングルで、フラメンコの伝統に戻りつつも、現代的なアレンジを取り入れた曲です。この曲では、ギターのリフと強烈なボーカルが際立ち、ロザリアのルーツに対する敬意が感じられます。


「La Noche de Anoche」 (with Bad Bunny) - 2020年

「La Noche de Anoche」は、2020年にリリースされたバッド・バニーとのコラボレーション曲です。この楽曲は、二人のアーティストが持つ異なるスタイルを見事に融合させた作品で、メロディアスなリズムが特徴的です。ロザリアの柔らかいボーカルとバッド・バニーの独特なラップが調和しています。リリース後、各国のチャートで高い評価を受け、二人のアーティストの人気をさらに高めました。今ではロザリアの人気曲のかなり上位の方に位置する楽曲になっています。


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