ロッテキシリトールガムのデザインの驚きの仕組み
インターンの大崎です。日常の中には人の手によってデザインされたものが溢れていますが、今日は『ロッテキシリトールガム』のデザインに焦点を当てて、気づいたことをまとめてました。
キシリトールガム とは
キシリトールガムは佐藤卓 氏によってデザインされ、1997年から今までつづくロングセラー商品だ。2007年にはグッドデザイン賞を受賞しており、卓越したデザインであることを知識として知っていたが、それがなんなのかようやく掴めたかもしれないのでここに記載することにした。
歯から連想するイメージ
皆さんは『歯』という言葉を聞いてどんなビジュアルを思い浮かべるだろうか。
おそらく、歯を横から見たものを思い浮かべるのではないだろうか。
実際この世に出ている歯磨き粉や歯ブラシ、そしてキシリトールガムなど『歯に良い』という特徴をアピールするために、そのビジュアルを採用することが多い。もしくは、幾何学的な模様で構成し、歯を構成する成分を彷彿とさせるようなデザインもある。その範囲の中で会社の商品は市場の中でいかに差別化をするかを考えている。
私は最近、歯磨き粉パッケージのデザインを案件としてこなす中で、日常の『歯』に関わるデザインを注意深く見ることにしていた。それは様々なリファレンスがある中、案件で提示された要件をいかに満たすか、いかにビジュアルで伝えるかを考えていたからだ。デザイナーなら誰しもが通る必須なプロセスだろう。
その案件の中で私がデザインしたのは一般的な『歯』の断面図と『幾何学系』を使用した上での提案であった。
佐藤卓のデザイン
ここで、佐藤卓 氏のロッテキシリトールガムのデザインを見てみよう。
特徴的なのがこのロゴだ。真ん中の赤い星マークは『輝き』を示し、図である白と灰色の円は清潔感を示している。だが、このロゴの地と図の関係を逆転させると、奥歯を上から見たビジュアルにもなっている。これだけシンプルな幾何学形態と配色だけで同時多様な意味やイメージを生むことができることに驚きを隠せない。これは佐藤卓 氏の長年の経験が為せることだろう。
佐藤卓 氏のこのデザインは市場に溢れる『歯』のイメージをいったん置き、『歯』のもつ形や本質を追求した結果、20年経っても色あせないキシリトールガムのロゴデザインが開発され今なお市場に出回っているのではないかと思う。
https://president.jp/articles/-/15140
実際に調べてみると、佐藤卓 氏がどのようにデザインを進めたのかのインタビューの記事をみつけた。以下抜粋
マークを作ったのは、粒タイプやタブレットなどいろいろな種類が店頭で離ればなれに置かれても、ひと目で「キシリトール」とわかるようにするためです。デザインをするうえで手がかりにしたのは歯医者の看板。奥歯を横から見たマークが使われていることがほとんどなのですが、歯科治療においての痛さと、食べるという行為は正反対です。そこで思いついたのが、真上から奥歯を見てあげるということ。これなら、ひと目見ただけでは奥歯だとわからずに、マークとしては機能する。それに90度回転させてみても同じ形に見える。駅構内の「キヨスク」などで縦に置かれて一部分しか見えなくても、ひと目でわかるものになると考えました。
確かにキヨスクで売られているガム置き場を見るとガムの種類が多く、商品と商品が重なり合ってしまう。最近見た例だと、ガムが縦置きでちょうどマークだけが見えるように商品が置かれているのだ。90度回転させても同じ形を描く設計であるおかげで縦置きにしても横置きにしてもロゴの鮮度を保つことができる。
もし、これを奥歯を横から見た一般的なビジュアルを配置してしまうと、角度によってはデザインが意味をなさなくなってしまうのだ。
商品や企業の持つ強みや特徴を理解し、その商品がどう人に渡り、時代を乗り越えるか。そんな物語の部分まで想定し、デザインというビジュアルに落とし込んだこのデザインは秀逸と言わざるを得ない。
そして、デザインだけでなく商品のコンセプトも面白い。
キシリトールガムが市場に出るまでは世間のガムに対するイメージは『歯が悪くなる』ことが一般的で、合っても『歯につきにくい』ぐらいの機能で止まっていた。しかし、ガムの概念をひっくり返す「甘いけど歯にいい」甘味料キシリトールは、噛めば噛むほど歯にとっていいことがあることを世間に知らしめたのだった。世間の常識を変える『味』と『流通』と『デザイン』のハーモニーが市場を確立した。
ポスカのデザイン
この話を弊社西に相談したところ、西も以前ポスカというガムをデザインしたという話を聞けた。自分が小学生だった頃、GREEENというバンドが好きでそれに影響されてかわからないが、鮮やかなパッケージに惹かれよく買っていたガムだったのでおどろいた。ポスカは今では別のデザインだが当時はキラリとした星マークが歯の隙間になっている地と図の関係でイメージを伝えるデザインだ。これも一つのビジュアルで多様の情報を伝える。
このガムは細長いスティック状のパッケージではなく、グミなどと同じ平たい形状をしているため、大きい面積でアピールすることができるのがキシリトールガム との違いだ。そのため、90度回転させてもイメージを伝える上で過不足がないのだ。キシリトールガム の例を見ると、左右上下対称でなければならないと思っていたが、パッケージの形状やお店でどう置かれるかの状況によってビジュアルのアプローチは変わってくる。この二つの事例からそんなことに気づけた。
iphoneと当時の市場
また、この事実に気付いてふと思い出した事例がある。
この写真はiPhoneと、iPhoneがまだ世にない時代に各競合が世に出回っている市場を調査した上で当時販売されていた携帯電話を比べたものだ。「オレはこれが作りたい」から生まれたiPhoneと、市場調査をもとに生まれた8製品の比較だ。
https://twitter.com/elmo_marketing/status/1299499517243322369?s=20
デザインを構築していく上で既存のデザインやビジュアルを参考に方向性を絞り、決めていくことは一つのデザインプロセスとして確立されている。しかし、キシリトールガムやiphoneのようにものの本質を追求し、世の中に価値を提案することで生まれる、革新的なものもある。
もちろん、人々のインサイトを探る努力はしているはずだ。実際にロッテはキシリトールガムが発売される以前から消費者ニーズを調査し、従来の機能をより際立たせた「眠気を吹き飛ばす・頭をスッキリさせる・歯磨き効果がある・義歯でも安心して噛める」等の目的を持つガムを求めていることを見つけている。
今後のデザインプロセスを考える
今までは
1、頭の中のイメージをもとにリファレンスを探す
2、デザインしながらアイデアの解像度を上げていく
だったが今後のデザインを進める上で
1、まずは手でアイデアを考える
2、リファレンスを参照する
3、1と2を否定する(そして再度1に戻る)
というプロセスでもデザインを考えてみるのも試してみようと思う。この繰り返しの中で生まれたデザインはイノベーティブなものであると言えるからだ。
今後はいろんなプロセスでデザインという媒体に切り口を入れ、いずれは私もキシリトールガムのデザインのように、本質を追求した思いやりのあるクリエイティブを世に出せるような人間になりたいと思った、そんな話でした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?