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漫画の中の少女探偵についての備忘録(三輪香月と瀬名生燁姫編)

少女漫画でミステリのシリーズ作品は決して少ないというほどではありません。リストを作成した『パズルゲーム☆はいすくーる』『燁姫』以外にも松本洋子『すくらんぶる同盟』(全7巻。KCなかよし)もそのうちの一作です。(松本先生の作品は全て電書化されていないので、古本以外の入手方法はありません)

ただ「探偵役が少女」の少女漫画は決して多くはありません。むしろ少女探偵キャラは少女漫画ではない媒体の方で多く見かける印象があります。

少女漫画における少女探偵を語るに当たって『パズルゲーム☆はいすくーる』と、そのヒロイン三輪香月を避けて通ることはできません。もし抜きで語っている人がいたら「シリーズ長すぎ多すぎで、扱う気力が出なかった」人だと思います。
前回アップしたリストを作っている時にも、高校卒業後の回、シリーズは扱わない前提だったのに、もうめちゃくちゃ大変でした。コミックス全18巻ある『燁姫』のリストが「あれは余裕だったのでは?」と勘違いするレベルに大変でした。もちろんただの勘違いです。

三輪香月が所属する葉蔓高校ミステリ研は、香月とその恋人、押上大地、香月の友達である片岡未明、新入生である後輩、加瀬卓馬がメンバーになっています。葉蔓高校は独特の方針によって生徒の自治権がものすごく強く、普通には起こらないような事件もまた起こります。その中で香月達は事件を解決していく流れになります。

野間先生も恋愛のドキドキの優先度を減らすために、香月と大地を馴れ合いカップルという設定にしたようで、恋人同士とはいっても「恋の進捗」はあまり多く描かれていません。香月の推理能力、ミステリ研メンバーのそれぞれの強みを活かして物語が進行していきます。

この恋愛の優先度が低いことで、香月は「恋した相手に助けてもらうことが何度か続いて、恋が深まる描写をそれほど必要としない」キャラになっています。少女探偵に一定以上の強さ、解決能力を持たせることができるのです。

逆に言えば、恋の進捗の優先度が一定以上高いと「女性主人公が相手役男性に助けられ、頼もしく思うことで恋が深まる」ことが重要になり、探偵役として魅力的な女性主人公でなくなる可能性が上がってしまいます。

探偵である女性主人公に強い解決能力を持たせつつ、恋の進捗まで入れねばならない場合、相手役を犯人的なポジションにする方法などもあります。(高階良子先生のミッキーシリーズ第一作『ミッキーの顔役』の黒田丈はかなりそういう傾向の強いキャラでした)
ただしこの方法の場合、作風がかなり限定されることになります。多くの事件を解決するロングセラーとするのは難しくなりそうです。

野間美由紀先生は『パズルゲーム☆はいすくーる』以外にも多くのミステリ漫画を執筆しています。ほとんどの作品がミステリです。『パズルゲーム☆はいすくーる』以外のロングセラー『ジュエリーコネクション』シリーズは女性誌Silkyの連載で、宝飾業界を舞台とした連作ミステリです。(高校卒業後の香月のシリーズも同誌の連載です)こちらは宝飾業界という女性が強く好む舞台で描かれていて、恋の進捗も重要な要素にもなっています。

どの探偵ヒロインも魅力的ですが、やはり香月の「探偵として求められるスキルを身につけるため、卒業後はいろんな専門学校に行きまくる」など、探偵としての強さが魅力となっていると思います。その設定を活かし、いろんな業界での事件に巻き込まれていく物語も面白いので、大人になった香月達の物語もお勧めです。

野間先生が2020年の逝去まで描き続けた三輪香月は、少女漫画の中で、そして日本の少女探偵としてずっと語り継がれてほしいキャラクターです。

この探偵としての強さを持った少女探偵として、もう一人、佐伯かよの『燁姫』の瀬名生燁姫を採り上げたいと思います。
富豪の家に生まれ、画家である父の描いた自分の絵を探すために、普段は地味な女子高生として生活し、大人の画商として画廊『ギャラリー燁姫』を経営する少女です。華やかな活躍をするのが大人の美女である方の姿なので少女探偵とは認識されづらいですが高校生です。(その変わり方がすごいのである意味変身ヒロインでもあります)
画商としての才能が素晴らしく、本人も絵を描き、絵画、美術品にまつわる事件に巻き込まれていく展開です。
燁姫に思いを寄せる男性も婚約者である周防鷹士、途中で新たな婚約者候補として名乗り出る郷司栄、卓越した絵の才能を持つ少年、高柳蒼・ウィリアムと、美男子に取り囲まれています。

他の作家にはないきらびやかな世界観ですが、『燁姫』の前に連載されていた『口紅コンバット』から続く、佐伯先生の初期ヒット作を彩る才能ある富豪の少女をヒロインとする路線です。

こちらの燁姫の「強さ」は絵の鑑定の才能、贋作も作れる絵の才能、実家の尋常でない太さ、普段生活している地味な姿の女子高生としての燁姫と、華やかな画廊経営者としての燁姫が別人として認識されていることで、香月の強さとはまた別の見せ場が多くあります。

あまりミステリとして採り上げられることの多くない作品ですが、もっとミステリとして評価されていい漫画だと思っています。

(この変身ヒロインミステリがお好きな方は、小説ですが青柳友子『ミスティ・ガール紅子』シリーズもお勧めです。こちらは女社長として現れる時にお腹に詰め物して老けた変装をしていて、派手な夜遊びを楽しむ謎の美女として現れる紅子とふたつの姿を持つヒロインです)

三輪香月も瀬名生燁姫も、多くの能力を持つスーパーヒロインで、そのおかげでより多くの事件に関わり、解決することができるキャラクターとなっています。
『パズルゲーム☆はいすくーる』を描いた野間美由紀先生も、『燁姫』を描いた佐伯かよの先生も、もう亡くなられていますが、お二人の生み出した類稀な少女探偵達はもっと評価されてほしいと思います。

次回は日本の小説における少女探偵について何か書きたいと思いますが、まだどういう感じに進めようか考えていません。頑張ります。

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