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日本における少年探偵団とナンシー・ドルーの影響力問題

とうとうこの問題に触れざるを得ない回がやってきました。一応両方に触れている記事もリンクしておきます。

いや、あんまりやりたくなかったんですよ。めちゃくちゃ面倒くさいし、既にこんな問題は検証済みの人がちょこちょこいるだろうと思っていたので、その記事、本などを紹介して済ませようかと探していたんですが、残念ながら「全く」見当たりませんでした。全く納得がいきません。

ただ「ない理由」は何となく推測はできます。
少年探偵団とナンシー・ドルーが「どこで売れているか」の違いです。
ナンシー・ドルーは世界規模で売れています。売れた数なら比較するまでもなくこちらの方が上です。

ウィキペディアのベストセラー本の一覧ではシリーズ累計2億冊、全世界で8位の売上と書かれています。江戸川乱歩作品は単刊、シリーズともにここに含まれていません。だからといって日本で「ナンシー・ドルーの方が売れているか」といえば全くそんなことはない訳です。

というか、この2億の数字を日本から見ると「ナンシー・ドルー、そんなに売れてるの!?」と驚く人の方が多いはずです。それどころか「ナンシー・ドルー、聞いたことすらない」という人の方が多いかもしれません。

まず、ナンシー・ドルーは児童書だというのに現時点でオリジナル版、改定版を含めてもあまり気軽に買えるところに売っていません。一番新しく出たのはヒラヤマ探偵文庫から2022年に刊行された『ナンシー・ドルーと象牙のお守り』ですが、商業出版されている本では2014年に論創社から出ている『歌うナイチンゲールの秘密』です。文庫だと改定版の完訳として創元推理文庫からナンシー・ドルー・ミステリ全8巻が出ていましたが、こちらは既に紙本が絶版しています。(電書では購入可能です)
金の星社から2008年に出ていた数冊は新しいNancy Drew Girl Detectiveというシリーズからの刊行ですが、こちらとフォア文庫版から出ていたオリジナル版両方とも品切れ・重版未定です。

要するに本来の購入対象になっている児童の皆さんには新刊で買うことができない状態になっています。電書ですら創元推理文庫のナンシー・ドルー・ミステリ以外は購入できません。
正直、リアルタイムで読者が紙本を新刊で買えない状態では児童書としては機能していないと思います。身も蓋もない話、日本ではナンシー・ドルーは少女達の手に入る場所にいないのです。

少年探偵団はどうでしょうか?
……書いてて「わざとらしいわ!」とセルフツッコミしたくなるくらい自明ですが、新しい版型から昔懐かしいポプラ社の本、もちろん著作権切れなので各所で本や電書が出されています。

江戸川乱歩先生はは日本では今でもリアルタイムで当たり前に買える作家で、少年探偵団シリーズもカジュアルに手に入るのです。

では、売れているかどうかを判断するのに重要な指針であるメディアミックスではどうでしょうか? 初の映画化の比較をしてみます。

ナンシー・ドルーは1938年に『Nancy Drew... Detective』が公開されています。原作は十作目『The Password to Larkspur Lane(1933年)』で、刊行から5年で映画化されています。

他にもテレビドラマ、映画が何作かあります。
映画は7本、テレビドラマは3回作られています。
最新の映画化は2019年『Nancy Drew and the Hidden Staircase』です。

二作目の『The Hidden Staircase』が原作で、16歳のナンシー・ドルーと書いてあるので、オリジナル版を原作としているようです。

キャロリン・キーンは法人の用意した共同ペンネームで、アメリカの著作権は「発行後95年または制作後120年のいずれか短い方」で切れるので、1930年刊行の『The Hidden Staircase』はとっくに著作権切れなのも理由かもしれません。

一応映画化テレビドラマ化のリストを『【ナンシー・ドルー】作品リスト』の下の方へ追記しています。

少年探偵団シリーズだと終戦後間もなく始まった『青銅の魔人』が1949年刊行、初の映画化が『名探偵明智小五郎シリーズ 青銅の魔人 第一部』でこちらが1954年。こちらも5年で映画化しています。

最新のメディアミックス作品は2019年『超・少年探偵団NEO -Beginning-』です。『超・少年探偵団NEO』はアニメも実写映画も少年探偵団キャラの子孫という設定なので、原作のメディアミックスという訳ではありませんが、それでもベースとなる少年探偵団あっての作品です。

実は少年探偵団に関する実写映画は、原案も含めると16本出ています。ただしほとんどは原作が連載されていた時期の映画です。近年の作品は二本ありますが、どちらも原案になっています。
テレビドラマは5回、テレビアニメは4回作られています。(原案含む)

どちらも結構頻繁にメディアミックスされています。
ただしナンシー・ドルーのテレビドラマは『The Hardy Boys Nancy Drew Mysteries』以外は日本で地上波での公開をしていません。

日本ではあからさまに少年探偵団の方が人気、知名度も高く、比較にならない状態のようです。

ナンシー・ドルーの小説は56巻(グロセット&ダンラップ社からハードカバーで出版されていた作品。そのうちの最初の34冊にオリジナル版と改定版があります)まではクラシックシリーズと呼ばれていて、そちらの本のうち25作は日本でも翻訳され、新シリーズGirl Dertective(金の星社からは『少女探偵ナンシー・ドルー』というシリーズ名で刊行)は4作翻訳されています。決してニーズがない作品ではないのですが、ずっと親しまれてきたとまでは言いづらい状態です。

ただ、ナンシー・ドルーに影響を受けてきた海外女性作家やナンシー・ドルーの痕跡がある作品は多く、作中でも探偵めいた推理をする女性に対して「自分がナンシー・ドルーだとでも思っているのか」的なあてこすりがあったりします。
最近では『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』でも、行方不明になった昔の少女の持ち物としてナンシー・ドルーの本が出てきたりもしています。
少なくとも世界では「少女探偵といえばナンシー・ドルー」という前提は通じるようです。

ただしこれは日本では全く通じない。そう言っていい状態です。

「日本において『少女探偵と言えばこのキャラクター』というので一番通じるのは誰か?」という問題は、「とりあえずナンシー・ドルーではない」という結論を出していいと思います。

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