トラベルミステリにおける幽霊事件シリーズの独自性について
前回予告した通り、少し時間は経ちましたが幽霊事件シリーズについて語る回です。
電書で今もがっつり読むことのできる星子ひとり旅シリーズと違い、作者の風見潤先生が生死不明という状況もあり、入手はとても難しいですが、序盤の方の巻ならある程度入手しやすいので、リストのリンクも貼っておきます。(後の方の巻となるとちょっとアレなレベルのプレミアがついています)
一作目『清里幽霊事件』が出た1988年07月には、星子ひとり旅シリーズは十作目『ワンペアは殺しの花言葉』まで刊行されていて、幽霊事件シリーズ開始まで三年のインターバルがあります。既に星子ひとり旅シリーズで少女向けトラベルミステリがヒットしている時に出た企画です。
両シリーズが刊行されていた頃、ほぼ間違いなく十代から二十代の女子が一番トラベルミステリを読んでいただろうと思います。
幽霊事件シリーズの著者、風見潤先生は、学生時代からミステリやSFの翻訳家として活躍しつつ、同じくミステリ、SFで小説家としてもデビューしています。風見先生も山浦弘靖先生と同じくかなりの鉄道好きで、幽霊事件シリーズの作中でかなり多くの電車に乗ったエピソードが語られています。
幽霊事件シリーズは風見先生の母校に当たる青山学院大学をモデルとした青山大学に通う少女、水谷麻衣子が遭遇する事件を解決していきます。風見先生を始め、卒業生の作家さん達の名前がちらほら出てきたりするので、大学のミステリ研究会情報をよく知っている人だとにやりとできるかもしれません。
主人公の水谷麻衣子、有名な私立大学の推理小説研究会に所属するところから、卒業するところまでの四年間の物語です。『清里幽霊事件』は麻衣子が序盤から恋心を抱くことになるスポーツマン日下千尋、後に親友となる中田美奈子が親しくなっていくきっかけの事件ですが、麻衣子の伯父が経営するホテルのロッジで一年生のみの同人誌を作ろうというところから事件が始まります。
女子高校生の流星子がいろいろお小遣いその他をやりくりして一人旅に飛び出していくのとは違って、割とリッチな生活をしています。
恋愛要素については基本的に最初の巻から千尋に憧れている状態で早めに恋人になってしまうので、彼との恋の進捗がじわじわ展開していく感じです。(麻衣子のことを好きになる下級生、高科啓一がいますが、彼といい雰囲気になったりするシーンはありません)
『卒業旅行幽霊事件』まで読んでいくと「いかに推理小説好きの少女が名探偵となっていったか」の足跡を追っていくことになります。(『卒業旅行幽霊事件』のあとがきには、何故在学中にこれほど大量の事件に遭遇する展開になったのかを説明する箇所があります)
幽霊事件というキーワードが示すように、死体や犯人、重要人物が消えたり、いるはずのない場所に現れたりするという内容がかなり多く、『幽霊』に該当しそうなキャラクターが存在するという特徴があります。
そして事件を解決していく麻衣子を頼りにして相談を持ち込まれるなどのきっかけが増えてきます。続編が『京都探偵局』というシリーズになっていて、こちらでは探偵の仕事をするようになります。『パズルゲーム☆はいすくーる』の三輪香月と並んで、職業探偵となった名探偵ヒロインです。
「だとすると幽霊事件シリーズは『後進』じゃないの?」
という前回の疑問については「少女向けトラベルミステリではあっても、後進とは全くもって言いづらい」というのが回答です。
それぞれに全く違う作風を持った少女向けトラベルミステリのヒットシリーズが二本走っていたという壮絶な状態だったのです。
次回から星子ひとり旅シリーズと幽霊事件シリーズの細かい比較をやっていこうと思います。
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