視覚_サンプル文書

眼球内の構造
眼球は主に角膜、水晶体、虹彩、眼房水、毛様体筋、硝子体、胸膜、網膜、視神経から構成されており、網膜には中心窩と呼ばれる中心視野に寄与している重要な領域がある。

それぞれの機能
・角膜、水晶体、虹彩:光情報を網膜に小さな像として投影するために重要な役割を果たしている。私たちが近い場所でも遠い場所でも鮮明な像を見られているのはこれらの役割があるからである。角膜は大抵の光を屈折させて光情報を網膜に届けているが、これに加えて水晶体の屈折力があることでより鮮明は像を見ることを可能にしている。遠い場所を見るときには水晶体が薄くなり、近い場所を見るときには水晶体が厚くなる。
・毛様体筋:水晶体の厚みを調節する役割がある。
・硝子体、強膜:眼球の外速を覆う膜であり、眼球の形を保つ役割がある。
・網膜:光情報を処理し、視覚中枢へ情報を伝達する上で眼球の中で最も重要な部位である。ここでは、外界の光情報からある程度の空間および時間的な特徴を抽出し、高次の視覚中枢へ送られる。

網膜
網膜の層構造
網膜は40種類以上の神経細胞があり、階層的で高度な情報処理を行っている。網膜は①色素上皮層、②視細胞外節層、③外課粒層、④外網状層、⑤内課粒層、⑥内網状層、⑦神経節細胞層、⑧視神経線維層の8層構造になっている。そして、この8層構造の中に桿体細胞、錐体細胞、アマクリン細胞、水平細胞、双極細胞、視神経細胞の階層的に結合している。

網膜の情報処理
網膜の情報処理は、視細胞から双極細胞を経て神経節細胞に至るまでが、視覚信号の流れの最も直接的な経路である。これらの細胞の他に水平細胞とアマクリン細胞が存在する。
双極細胞:双極細胞はオフ型双極細胞とオン型双極細胞に分類される。
水平細胞:視細胞からの入力を受け取ると神経突起を側方に伸ばして周囲の双極細胞や視細胞に伝える。
アマクリン細胞:双極細胞から入力を受けて周囲の神経節細胞・双極細胞・他のアマクリン細胞に情報を側方に伝える。

桿体細胞と錐体細胞(視細胞)
網膜の最外側には約1億2500万個の視細胞が存在している。視細胞は、外節、内節、細胞体、シナプス終末の4つの部位で構成されている。また、この視細胞は錐体細胞と桿体細胞に分けられる。

錐体細胞:円錐形をしており、片眼に約600万個存在している。主に明るい環境で活動する。錐体細胞には3種類の波長によって活動が異なる細胞が存在しており、それぞれL錐体(長波長)、M錐体(中波長)、S錐体(短波長)と呼ばれている。そして、厳密ではないが、L錐体(長波長)が赤色、M錐体(中波長)が緑色、S錐体(短波長)が青色に対応する。
桿体細胞:片眼に約1億2000万個存在している。主に暗い環境で活動する。桿体細胞は錐体細胞より多くの視物質を含む膜円板を持っているため、光に対する感受性が錐体よりも1000倍も高い。そのため、数個の光量でも反応する。しかし、桿体細胞は色を識別できない。

錐体細胞と桿体細胞は中心窩と周辺部で分布が異なっている。錐体細胞は中心窩に最も多く分布している。特に中心窩から10°以内に多く分布している。一方で、桿体細胞は周辺部に多く分布している。中心視と周辺視の特性の違いは、この2つの細胞の分布の違いからも説明することができる。つまり、中心視は錐体細胞が多いため色が鮮明なのに対して、周辺視は桿体細胞が多く色を識別できない。

M神経節細胞とP神経節細胞
M神経節細胞:短時間の反応特性を示し、高い光感度と時間解像度を持っており、反応までの遅延も小さい。したがって、動きの情報を担う。
P神経節細胞:高い空間解像度と色選択性を持っているが、反応までの遅延が大きく、活動が持続的である。したがって物体の認知情報を担う。

神経節細胞の中心-周辺受容野
神経節細胞はオン中心/オフ周辺型とオフ中心/オン周辺型の2種類に分類される。
オン中心/オフ周辺型は受容野中央部を照射する場合に活性化し、周辺部を照射する場合は抑制される細胞である。一方で、オフ中心/オン周辺型はその逆になる。
このように2種類はある理由としては、空間コントラスト(明暗や色)の検出である。どの神経節細胞でも、受容野の中心部を照射するときと周辺部を照射する時の反応は同程度ということになる。そのため、全体照射の時には強く反応はしない。

外側膝上体
外側膝上体は、視床領域の一部であり、網膜からの視覚情報を一次視覚野に伝達する。
外側膝上体の構造は、細胞が明瞭な6層構造になっている。1、2層が大細胞層、3、4、5、6層が小細胞層である。これらは網膜からの情報は上記で述べた網膜のM型、P型、非M-非P型神経節細胞によって入力が異なってくる。P型神経節細胞からの情報は小細胞層、M型神経節細胞からの情報は大細胞層、非M-非P型神経節細胞からの情報は小顆粒細胞(K層)に入力される。さらに、対側の網膜からの視覚情報は第1、4、6層に入力され、同側の網膜からの視覚情報は第2、3、5層に入力される。

一次視覚野
外側膝上体からの情報は、一次視覚野に入力される。一次視覚野は縞模様をしており肉眼でも確認できることから線状皮質とも呼ばれている。
一次視覚野は6層構造であるが、Ⅳ層がⅣA、ⅣB、ⅣCと3層になっており、さらにⅣCがⅣCαとⅣCβに分かれている。そのため、合計で9層構造になっている。

単純細胞と複雑細胞
単純細胞:明確なオン領域とオフ領域を持っており、方位選択性があり、特定の位置で特定の方位を持つものに反応する受容野を持つ。光の棒のような視覚刺激が受容野のオン領域に入ると神経細胞は発火し、オフ領域から出るときにも発火する。つまり、単純細胞は空間内の線分や位置に選択的である。

複雑細胞:明確なオン領域とオフ領域を持たず、方位選択性はあるものの単純細胞よりも大きな受容野を持ち、方位が合っていれば、受容野のどの部位でも反応する。また、刺激が受容野を横断するときに持続的に反応する。

単純細胞と複雑細胞の他に興奮性中心領域の側面に抑制性領域の受容野を持っている細胞が存在する。これは、終端抑制と呼ばれる性質を持つ。これを持つ細胞は、終端の抑制領域に入らず、興奮性領域を覆う線に対してよく反応する。抑制性領域の方位選択性は興奮性領域と同じであるため、終端抑制を持つ神経細胞は湾曲した線には選択的に反応し、角に対しては良く反応する。

入力と出力
外側膝上体からの情報は視覚野のⅣ層に入力されるが、外側膝上体の大細胞層からの情報はⅣCα層に入力され、小細胞層からの情報はⅣCβ層に入力される。また、小顆粒細胞(K層)からの情報はⅣ層に入力されず、Ⅱ層およびⅢ層に直接入力される。
ⅣC層の情報はⅣB層とⅢ層に出力される。ⅣC層は単一の眼から入力を受けるが、ⅣB層とⅢ層は両眼からの情報を受け取る。つまり、ⅣB層とⅢ層で初めて両眼からの情報が統合されることになる。しかし、大細胞層から入力を受けるⅣCα層は主にⅣB層に出力し、小細胞層からから入力を受けるⅣCβ層は主にⅢ層に出力することが明らかになっている。

視覚経路
視覚経路は主に4つあることが明らかになっている。
一般的に知られている教科書レベルの経路はWhere経路とWhat経路である。
Where経路は空間認識に関与していて物体がどこにあるかを判断する役割がある。
What経路は物体認識に関与していて物体が何であるかを判断する役割がある。
一方で残り2つの経路はHow経路とWhen経路と呼ばれている。
How経路は運動のコントロールに関与していると報告されている。
When経路はこの経路は物体がいつ出現したか、いつ消失したかを判断する役割があると報告されている。つまり運動視に関与している経路である。

参考書籍および論文
・Bear B. W. Connors M.A. Paradiso. Neuroscience (text only) 3rd (Third) edition by M. F. 2006.
・Kandel E, Schwartz J, Jessell T, Siegelbaum S, Hudspeth A.J. Principles of Neural Science, Fifth Edition. 2012.
・Battelli L, Pascual-Leone A and Cavanagh P. The ‘When’ pathway of the right parietal lobe. Trends in cognitive science. 2007; 11(5): 204-210.
・Googate MA, Milner AD. Separate visual pathway for perception and action. trends neurosci. 1992;15:20-25.

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