疎水クロマトグラフィの原理についての考察

学部4年に進級して、晴れて分子生物学系の研究室に配属された際、タンパク質の精製から行う方も多いかと思います。

タンパク質の精製には様々な方法があり、その原理についての良質な解説も多数存在しますが、今回取り上げる疎水クロマトグラフィに関しては自分自身納得のいく解説がなかなか見つからなかったため、今回初めて筆を取りました。

本記事を参考にしてゼミ等で発表することは推奨しませんが、疎水クロマトグラフィについて調べるきっかけになれば幸いです。

疎水クロマトグラフィの概要

疎水クロマトグラフィとは、その名の通りタンパク質ーカラム間の疎水性相互作用を利用して、目的のタンパク質を細胞破砕液などから精製するカラムクロマトグラフィの一種です。

具体的な方法の一例を示すと、
1:硫安などの高濃度の塩を含むバッファーでカラムを平衡化
2:高濃度の塩を含む細胞破砕液を通し、タンパク質をカラムの担体に吸着させる。
3:洗浄バッファーで夾雑物を洗い流す。
4:塩濃度を下げていき、目的のタンパク質を溶出させる。
となります。

この説明だけでは、塩濃度と疎水性相互作用の関係が分かりにくいかと思います。
この関係を理解するためには、疎水性相互作用とは何だったかを思い出す必要があります。

疎水クロマトグラフィの原理

疎水性相互作用とは、水中にある疎水性の化合物同士は集まった方が、集まらなかった場合と比べて、結果として自由エネルギーが小さく、系全体が安定であるために形成されるものです。

脂質二重層やタンパク質の立体構造の話で聞いたことがあるかと思いますが、それと全く同じものです。

つまり、疎水クロマトグラフィでは

塩濃度を高濃度から低濃度に下げることで、タンパク質と担体が結合していた方が安定な系から、結合していない方が安定な系に変化させているのです。

原理としてはこれに尽きるのですが、以下では塩が系の自由エネルギーに寄与する現象のより詳細な理解に役立つであろう枠組みを提示しようと思います。



界面化学・電磁気学

カラムの担体にはセファロースビーズが使われることが多いかと思います。
ビーズと水溶液が接する領域は界面と呼ばれ、ビーズの中や水溶液中など均一な領域とは異なる性質を持ちます。
例えば、界面にある水分子は水素結合を形成していないため、内部エネルギーが高い状態にあります。

界面にアンモニウムイオンなどの電荷が存在する場合は、その電荷には界面から電気影像力と呼ばれる力が働きます。
電気影像力は電磁気学の電気影像法により導出され、
F=(-Q^2/(16πε0ε1d^2))×((ε2-ε1)/(ε2+ε1))
ε0:真空の誘電率
ε1:電荷が存在する相の比誘電率
ε2:反対の相の比誘電率
Q:電荷量
と表されます。

水溶液の誘電率ε1がセファロースビーズの誘電率ε2よりも大きい場合、電荷には斥力が働くため、内部エネルギーが高くなると考えられます。

ここで、タンパク質がセファロースビーズと結合して、タンパク質がもう一つの新しい相を形成した場合、タンパク質とセファロースビーズは疎水性相互作用により安定化され、タンパク質と水溶液は誘電率の差が小さくなることで安定化されるのではないかと考えられます。

一方で、タンパク質自身も側鎖に電荷を持ち得ますので、タンパク質にもセファロースビーズとの界面から斥力を受けます。

こういったことを全て総合して、系全体としてタンパク質と担体が結合した方が安定な状態から結合していない方が安定な状態にシフトしているのではないかと思います。

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