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番外編: 英国家庭医療学会指導医養成講習会 Part 2

これは「大学院で学ぶ」ではなく、「英語を使って学ぶ」という番外編エントリーである。

2日目:カリキュラムと成人学習理論

2日目午前はカリキュラムについて学んだ。Genn (1955) によると、カリキュラムとは "Everything that happens in relation to the educational programme" と定義されている。カリキュラムにはhidden curriculum(指導医の背中や職場の慣習からいつのまにか学習者が学びとる学習内容)があるが、家庭医が学ぶべきことにはnon technicalな内容が多く、こうした内容は意図して学んでもらうことが難しいという気づきがあった。そしてこのhidden curriculumはカリキュラムの相当程度の部分を占めるということも分かった。Outcome-based curriculumで研修プログラムを整備しても、プログラムごとに相当色がでてくるのは、こうしたhidden curriculumの影響も大きいのだろうと感じた。

カリキュラムは 1. Planned curriculum、2. Delivered curriculum、3. Experienced curriculumという流れで学習者の中に入っていくが、1. と3. が同じものになることはなく、したがってコントロールできる部分は限られているということについて多くを学んだ。指導者としては、意図してデザインできる部分をしっかり計画しながら、「自分のプログラムにはどのようなhidden curriculumが存在するのか」という対話を繰り返しながら、プログラム改善していく必要があるように感じた。

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この日の昼食時にDr. Rashidと相席することが、自分が教育について抱えていた悩みについて率直に相談してみた。私がこの講習会に参加したきっかけとなった悩みである「学習者にpatient-centrednessを学んでもらうためにはどうしたらよいか」についてである。Dr. Rashidは次のように話してくれた。

「それは非常に重要な質問だ。Patient-centrednessは家庭医にとって非常に重要な要素だ。理想的には全ての家庭医がその要素を十分にもっているべきだと思う。しかし、現実はそういうものではない。そして、それについて学んでもらおうと思ったときに、学習者はすぐには変わらないものだ。もっと言えば、学習者は結局変わらないかもしれない。しかし、学びというものはそもそもそういう難しさがあるものだと思う。もし君にアドバイスできることがあるとすれば、特定の教え方がうまくいっていないと感じる場合、あるいは効果が出ていないと感じる場合は、他の様々な教え方やインプットを試してみる方がいいと思う。学習者の準備状態や、学習者のスタイルに応じた刺激を意識的に増やしてみるとよいと思う。

これには、何か胸のつかえがとれたような気がした。この領域の指導の成果の手応えを自分がなかなかつかめていなかったことに対して、自分に大きな責任があるのではと思っていたのだが、熟達した家庭医の指導者が「難しいことだ」と言っているのだから、やはりこれは難しいことなのだと腑に落ちた。「学習者は変えられない、変えられるのは学習環境だけ」という言葉を聞いたことがあったが(亀田ファミリークリニック館山の岡田唯男先生からお伺いしたように記憶しているが、originalの出典については不詳である)、そのことを実感をもちながら再確認することができた。同時に、もっと試してみるべきことにも目を向けることができた。押してダメなら引いてみろと言われるように、自分の得意な教え方から離れて、様々な刺激を使ってみることを決意することができた。

午後からは成人学習理論について学んだ。私たちにも馴染み深いKolbの学習サイクル、マズローの欲求階層説、ジョハリの窓などを指導に生かすためのいろいろなtipsについて学ぶことができた。

3日目:フィードバックの提供方法と評価の方法

3日目午前はフィードバックについて学んだ。フィードバックについてはPendleton ‘s modelについて学んだ。Pendleton’s modelは下記に示すような手順で行われる。ポイントは「フィードバックには学習者を巻き込むべき」という考え方である。学習者が自分をどのように捉えているかについて話し合う余地を作ることは、そこから改善していく方向を考える際に、目標や方略を具体的に考えやすくなる。学習者が実践できるようなnext stepを考えるために非常に重要な考え方だと思った。

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その他、フィードバックについていくつかの概念を学んだが、それをもとに自分の学習者への関わりを振り返ると、下記のような疑問が浮かんできた。

• フィードバックはタイムリーに行うべきとのことだったが、だとすれば果たして今の頻度(フォーマルなものは月1回の定期振り返り)で良いのだろうか?
• フィードバックにはその情報源を得るための観察が必要だとのことだったが、自分は十分な観察に基づいた情報を持っているだろうか?持っていないとすればどうすればそれが可能になるだろうか?
• 学習者はフィードバックを欲しがるものであるとのことだったが、果たして本当にそうなっているだろうか?そうなっていないとすれば、何がそうさせているのか?それは修正可能なものか、そうでないかものか?
• これらのことを現実的に変えていくには、どんな方法があるか?新しいdevice、新しいやり方、新しい資源が必要になるかもしれない。それは獲得可能か?
• 例え家庭医になる医学生ではなかったとしても、それでも家庭医がその学生のために貢献できる教育はあり、その役割は大きいとのことだった。家庭医が全ての医学生のために教えられる大切なこととは何か?

午後からの評価の方法は、学会やプログラム責任者が学習者をどのように評価すべきか、ということに対する様々な評価方法(筆記試験、workplace-based assessmentなど)と、それぞれの妥当性や信頼性について学んだ。現場の指導医のためというより、course organizer向けの内容であった。

2-3日目を終えて

講習会が進んでくるにつれて、さらに自分が現場でできそうな具体的なアイディアがいくつも出てくるようになった。UKではjoint surgeryという形で指導医の診療に学習者を同席させたり、その反対(直接観察)を行うという方法が利用されていると聞いて、まずこれを現場でもやってみようと決めた。学習者が困っている事例では自分も同席し、自分がpatient-centrednessが重要な場面でその実践を体現しているような場面を学習者に見てもらうことにした。今振り返ってみると、この変化は非常に大きな変化であって、この方法を実践してみるようになって、patinet-centrednessについて学習者に学びが入っていく手応えがしっかり得られるようになった。極めて大きな収穫であった。

〜Part 3へ続く〜


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