人から貰ったお題文~田舎のツタヤ書店~

23:07に書き始めました。行くぜ!

どうも気になる。俺と同じ趣味の人が居る「サワチ ヒロミ」男か女かもわからない。だが「ゴーストバスターズ、デスファイル、シックスセンス、第九地区、フォレストガンプ」と言う流れで一本ずつレンタルをしていく。

こんな福井県の田舎にそんな人間が、俺と同じ趣味の人間が居るのだろうか?一体どう言う人なのか?もしかしたら考えている事も同じで、ツタヤの店員の様な仕事をしているのか?

名前だけは知っているが、丁度私のシフトと違う時間にやってくる。そこで私は店長に無理を言って早朝のシフトに入れてもらった。しかし入れてもらって二週間、「サワチ ヒロミ」はまだここに来ない。この田舎町、DVDをレンタル出来る場所はここ以外に無い。待っていたら必ずここに来る。それは確定している。しかしこう言う風に同じ趣味の人間を見つけると言うのは非常に趣味が悪い気がしている。そして出来れば会いたく無いとも思っている私が居る。

狭く、人も少ない田舎だ。会ってしまうとどこかの居酒屋で探してしまったり、ちょっとスーパーに行く時も目で追ってしまうかもしれない。私の中のリソースが「サワチ ヒロミ」に割かれてしまうのだ。しかし、取り立てて何も起こらないこんな田舎だからこそ、何か物事が進展するかもしれない。何かを変えられるかもしれない。ただただ私の渇望を、充への渇望を満たしてくれる存在なのかもしれないのだ。

もしおっさんだったら?

もし美少女だったら?

もしオカマだったら?

色んな気持ちが去来するが、根底にあるのは渇望だ。私は求めている。父がやっている農業を継ぐのが嫌で、何となく始めたレンタルDVD店員の仕事だからこそ求めている。

私は変わる事が出来るのか?何かこの場所で感じている退屈を紛らすことが出来るのか?ただそれだけを考えて眠い目をこすりながら早朝シフトを勤め上げている。同僚に「サワチ ヒロミ」の事を聞いても全く知らないと言う。当然だ。私達は日々の業務に追われてしまい、よっぽどの客でも無い限り記憶に客を留める事は無い。ただただ連続した生活に追いやられ日々の記憶は瞬時に色あせていく。

だからこそ色あせない衝撃がほしい。たった一つの衝撃がほしいのだ。その瞬間ドアが開いた。DVDを返しに来る。大学生風の男が今風の女の子と店に来た。そして私に返却の旨を伝えDVDを渡してきた。中身はフォレストガンプだった。名前は

「サワチ ヒロミ」 だった。

私は恋人も居なくてただただ現状を誤魔化すだけの為にこの仕事をし、そして何かが変わるのでは無いかと思いこの仕事を続けていた。しかし、サワチはただの学生で、毎日に充実した顔をして私にDVDを渡してきた。私は何を期待していたのか。自嘲が心に芽生え顔全体に広がっていく。

ああ、ただただ終わった。ただの映画好きだったのだろう。そうだ、期待なんてしてはいけない。毎日をただ過ごし、植物の様に日々少しずつ成長するだけで良いのだ。もう何も思わない。私は夜勤に戻ろう。他者に自分を投影し、そして期待をする。ただそれだけが楽しみだったのが全て打ち砕かれた。

サワチがまたDVDを持ってきた。彼女も一緒だ。どうせマイティーソーとかだろう。

「痴漢OL屈辱の宴」

完璧にAVだった私は嬉しくなった。彼は私を超えている事を認めたからだ。彼女とそれを見るのか。凄い。ちょっとドキドキする。

毎日の中、何も感じる事が出来なかった私だが、楽しみを一つ見つけられた気がする。

昼も過ぎ、だるい空腹が到来したが、それをねじ伏せられるだけの気持ちを胸に今後も働く事が出来るだろう。自分の小さな期待が大きな現実に打ちのめされた時、「この生活も悪くない」心からそう思えたのだ。

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