魔弾

弾は人を選ばないし、人は弾を選べない。だが使う銃を選ぶことができ、銃口を向けるべき人を選ぶことができる。

私は弾だ。一発の弾だ。銃口から飛び出し、標的の頭に入り込み、標的その物になる。その時私だった形ある物は形を無くし世界から消える。そして私になった形ある物はまた標的に弾を打ち込むまで私になる。ずっとそうしてきた。どうやって生まれたか?どこから来たのか?それを記憶する為の媒体を持っていない。
ただ、打ち込まれた形ある物が私となり、形が持っていた記憶を頼りにまた新しい形を探す。形、形、形、求める形、形となり形を撃つ。それを繰り返してきた。

私がこの少年になった時、目の前には小汚いおっさんが倒れて金色の粉に変わっていく所だった。そこには小さな銃が1つ。おっさんが粉になり風に吹かれて闇に飲まれていくと、その銃は存在を増したかのように鈍く輝いた。拾えと命令していた。

私は銃を拾い上げ見つめていた。テレビで見たことがある。いや、私が同化した須佐慶太の記憶がそう告げている。テレビで見た。刑事ドラマ。テレビや映画で見た通りに弾を入れるところを出して中を見た。何も入っていない。私はその銃を壁に向けて引き金に手をかけた。引き金は引けなかった。物理的な問題じゃない。心理的な、このまま引くと弾が出る。そしてその瞬間この形は消失してしまう。漠然とした不安が私を襲った。

同化と言うのは寂しい。私はこの須佐慶太の記憶の窓の外に居る。そこは雪が降っている。部屋の中では須佐慶太が楽しく過ごし、そして安心の中で生きている。同居しているはずなのに私は覗くことしかできない。しかし、家よりも大きな外に居るのは私なのだ。私はその家をバラバラにして須佐慶太を外に連れ出し森の中で儀式を行う。須佐慶太は近々誰かを撃つだろう。私はまた弾になり、そして新しい形となり生きるだろう。私はどうしたら消えるのか?もし何も無い所に撃ってしまったとしても弾はそこにいる。回転を続けそこに居る。そして獲物が近づけばその内部に侵入しまた同化するのだ。

須佐慶太の部屋のドアをノックする。簡単に開けた。

「外はどうも寒くてかなわない。中に入って良いか?」

「良いよ。外は寒いでしょう。風邪をひいてしまうよ」

「ありがとうありがとう。それじゃあ上がらせてもらうよ」

私は彼の部屋に上がり込み、当たり前のように椅子に座る。黒く毛布が敷かれたロッキングチェアーだ。須佐慶太はニコニコしながら椅子に座り机に置かれた小包を見ている。

「ああ、やはり部屋の中は違うね。すべてが生き返る。その小包はなんだい?」

「これは大切なんだ。大好きな子にプレゼントするんだ。もうすぐクリスマスだからさ。」

「そうかいそうかい。それは良い。凄く良いね。喜んでくれるだろうね」

「うん。喜んでくれると思う。僕はね、あの子の事が大好きなんだ」

「そうかいそうかい。それは良い。凄く良いね。でも、それだけじゃあ足りないんじゃないのかい?」

「そうかなあ?僕は凄くこれを探したんだ。それでやっと見つけたんだよ?」

「坊や、何もそれが駄目だなんて言っちゃいないさ。ただ、それだけだと喜びも一回しか味わえないんじゃないか?」

「どう言う事?」

「女の子はね、何度も喜びたいんだ。何度も何度も喜びたいんだ。その中身は凄く良い物なんだろう。だからこそ、もっと沢山喜んでもらって、最後にそれを渡すのはどうだい?」

「おじさん。それは凄く良いよ。素敵だよ。でもどうしたらいいのかな?もうあと数時間後には渡す約束なんだ」

「そうかいそうかい。だったら花を摘みに行こう。花を渡せば喜んでくれる」

「そうかなあ?あの子はいつも花の匂いを嗅いで「あるべき場所にある方がいいのに」って言うよ」

「それは照れているのさ。それに花は形じゃない。心だ。その心を渡すんだ。おじさんと摘みに行こう」

「そうかなあ。でもどこに行くの?」

「あの森の奥さ。誰も踏み込まない世界にしか咲かない花があるんだ。さあ、善は急げだ。一緒に行こう。おじさんと行くと迷わないからね」

「だめだよ。ここから出ちゃ駄目なんだ。ここは僕の部屋で外は違う僕の部屋じゃないから」

「気にする事は無い。それに勇気を振り絞って摘みとった花だ。その子もきっとよろこんでくれる」

「そうかなあ」

「きっとそうさ」

うつむき考える須佐慶太の手を取り私は無理矢理部屋から連れ出した。その瞬間無数の手が須佐慶太を包み込み、森の奥へ、奥へ、奥へ運んで行った。ああ、こう言う風に彼は形を失う。森の奥で、誰も知らない世界に行き私は部屋に戻る。これが形を得ると言う行為だ。

いつものように一人で部屋に戻る。私はこの部屋の中に何があるのかがわかる。ハム、ワイン、お気に入りのレコード。誰の部屋も結局は一緒だ。ドヴォルザークを流しながらロッキングチェアーに腰掛ける。そして目を閉じる。目を覚ました時、私は形を得る。得る。得る。しかしあの小包は…

銃を手にして立っていた。左手には小包。僕は会わなきゃいけない。あの子に会わなきゃいけない。でも不思議だ。あの子がどんな子だったか思い出せないんだ。今までこんな事は無かった。僕は今からあの子の家に行ってちょっとしたパーティーをしてこの夜を祝う。その予定は覚えているし、あの子の家に向かう道も覚えている。でもあの子の事は何一つ思い出せないんだ。

初めての事は楽しい。胸の高鳴りを感じながら向かった。角を曲がって真っ直ぐ。左側の一番大きな家。僕はチャイムを鳴らす。

「どなた?」

「僕だよ」

「慶太君!入って!!待ってたのよ!」

声からも分かる。この子は僕のことが大好きだ。そして僕もこの子が大好きだ。これから幸せな時間が始まると思うと震えてくる。僕は今、世界で何番目かに幸せなんだ。だってこんな素敵な子と一緒にこの夜を祝えるんだから。

門を通り、ドアの前についた時、迎え入れるかのように光が僕を包んだ。そこにいたのは髪が腰まであって、赤いサンタクロースみたいなワンピースを来た女の子だった。

「いらっしゃい!嬉しい!私…本当に嬉しい」

「僕もだよ。本当に嬉しいよ」

「プレゼントはちゃんと持って来てくれた!?私も用意しているのよ!!」

「もちろんさ!しっかり用意してきたよ!」

背中に差し込んだ銃の冷たさを感じながらも僕は温もりに包まれていた。この子の笑顔のためならなんでも出来そうだ。そして実際に今までもしてきた。これからもしていけるのだろうか?
家の中に入ろうとした時、あの子が声をあげた。

「これから近くのお肉屋さんにチキンを取りに行かないとダメなの!今日は注文が多くて配達できないんですって!一緒に行こ!」

「ああ。もちろんさ。一緒に行こう」

あの子は上着をとってくると言いドアを閉めた。閉まったドアを見て僕は少しさみしい気持ちになった。でも、この後すぐに凄く大きな幸せが待っているんだ。そう思うと音楽が街中に溢れているんじゃないかって言う気持ちになった。

「お待たせ!行こ!」

黒いコートを着た彼女がドアから飛び出してきた。勢い余って僕にぶつかる。女の子の甘い匂い、柔らかい感触、杖の冷たさ。彼女は白杖を持っていた。そうか、この子は目が見えないんだ。そうだった。そう。この子は目が見えない。ずっとずっと見えなかった。「汚い物を見なくて済むから良いの!」って言うのが口癖だった。小さい頃、砂場で泣いていて僕が話しかけた。そこから仲良くなったんだ。

いつものように腕を組み僕が少し前を歩く。そう、いつも通りに。

「何か今日は雰囲気が違うね!」

「そう?」

「うん!でもそれだけ楽しみにしてくれていたってことなのかしら?」

「そうさ。ずっと楽しみだったんだ」

二人でいつも歩いている道を歩いた。学校のこと、未来のこと、世界のこと、色んな事を話した。どんな話しをしても、どんな暗い話しをしても彼女は楽しそうだった。まるで世界が見えているように、その両目で見てきたかのように楽しそうに話す彼女を見て私は嬉しくなった。そして少し、私は不安になった。何かが湧き上がってくる。私の部屋の奥からかすかに何かを引きずる音が聞こえる。その音は力なく響く。しかし力を失った訳ではない。ずっとずっと響いている。

「少し遠回りしようか」

私は彼女の腕を引きちょっとした山に向かった。肉屋を越え、教会を越え、暗く静かな山に向かった。彼女はずっと嬉しそうに話す。私もその気持ちに当てられて嬉しくなった。ただ嬉しかった。そこに何かがあった訳じゃない。ただただ嬉しかった。

「静かね…」

音の無い世界。光り輝く街を見下ろしてベンチに座る。こんな美しい光景が彼女の目には映っていないのが信じられない。少しさみしい気持ちになったけど、これはそう言う運命なんだと思って彼女の方を見た。彼女は薄く笑みを浮かべて居る。

「これ…プレゼント…」

私はそっと小包を彼女の膝の上に置いた

「え…!?うれしい!!開けていい!?」

「もちろん。そのために買ったんだから」

彼女はリボンを外し、包み紙を取ろうとする。テープで止められた箇所を見つけ、その白い指先で剥がそうとする。コツ…コツ…と爪が小包に当たる音を聞いていると私の部屋の外からも同じ音がした。

コツ…

コツ…

コツ…

初めての事は怖い。聞きなれない音を聞いた私は立ち上がった。ドアに近づき覗き穴を見る。すると遠くに小さく須佐慶太が見える。無数の手に引っ掻かれて血みどろになっている須佐慶太が見える。彼の目は私を見据えていた。厳密にはドアを見ていたのだろうが、その目は確実に私の心を見据えていた。

私は怖くなって椅子、タンス、机をドアの前に置いた。部屋に入られると駄目だ。今まで入られた事は無いが本能的に分かる。これは駄目なことなんだと分かる。

彼女は包み紙を剥ぎ取った。バリッと少し大きな音が響く。その音が響いたとき須佐慶太はドアの前に居た。不意に移動した。彼は入ろうとしている。彼女を守るのか?私はすでに須佐慶太だ。何を考えている?私が彼女を傷つけるとでも?お前は銃で撃たれてわかっただろう?撃たれても怪我1つない。ただ形が入れ替わるだけだ。それだけの話しじゃないか。

「うわあ…何…これ…」

「ピアノの形をしてるでしょう?裏にあるつまみを回してみて」

「うん…」

ジジジ…

ジジジ…

ジジジ…

とつまみを回す音がする度にドアの前に置いたテーブルや机が吹き飛んで行く。

メロディーが流れる。包み込むメロディーが。音の無い世界の中に広がるメロディーが流れる時、ドアが開け放たれた。

「オルゴール…素敵…嬉しい!本当に嬉しい!もう…!こんなに素敵だったら家の中で渡してほしかった!いじわる!」

「ごめんごめん。でも…喜んでくれて嬉しいよ」

「うん…本当に嬉しい…」

彼女は泣き出した。ポロポロと涙を流し、その涙が地面に落ちて吸い込まれていく。

「もう…これが…最後のクリスマスって…思うと…ごめんね…」

「大丈夫だよ。来年もまた過ごそうよ」

「ううん…自分のことは分かってる…一番分かってる…でも…本当にうれしいよ」

私の前のには須佐慶太が立っている。幽鬼のように青白い顔をした須佐慶太が。彼は私を見ている。ただ見ている。形を失った須佐慶太だった物は須佐慶太になった私を見ている。私は彼の形を得た。私は彼だ。だから彼は私に何もできるはずは無い。

「本当に…喜んでくれて良かったよ…でも…こんなので良かった?」

「うん…本当に嬉しいよ…でも…」

「でも…?」

「ううん…これは…言わない約束だから…」

「言って」

「…………君の…顔が見たかった…君が見てる景色も見てみたかった…」

私は部屋を飛び出していた。そして森の中に走って逃げていた。耐えられなかった。形を無くした形が私に近づき、そして何を訴えるでもなくそこに居ると言う状況が。ああ…どうなるんだ。ドアは閉められた。閉められたと言う事は少なくとも追っては来ない。私は恐る恐る部屋に近づいた。勇気を出して窓を覗く。そこには須佐慶太が椅子に座り、机の上に置かれたオルゴールを見つめていた。そして顔を上げて私を見た。私を指差した。両手を見ると形が曖昧になっている。須佐慶太に目を戻すと形が明確になっている。私はどんどん形を失っていく。かたちをうしなうとどうなるのか?そんなの経験したこトがナイ.カタチをうシなこいハジメわい。がお、あさ

「そっか…」

「ごめんね…本当にごめん…でも…少しで良いから…一瞬でも良いから見てみたかった…」

「大丈夫だよ」

「うん…大丈夫…私は…大丈夫…」

「実はもう一つプレゼントがあるんだ。花を摘んできたんだ」

「お花…?お花の匂いもしないよ…?」

「これを持って」

「何…これ…」

「大丈夫。ちょっとした手品みたいな物さ」

「うん…」

「そう、そのまま大丈夫。じゃあそのまま右の人差し指を折り曲げて」

私が見たのは幸せを象徴する家の明かり、そして光りに包まれた女の子だった。
雪が降りそうだ。多分、そんな気がする。

~完~


この文章はTwitterでなんかやってる本物川小説クリスマス大会のなんかそんな感じです。本物川ってなんなのですか?わからなさすぎてイラついてきたぞ!

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