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もめた原因の謎

2014/10/19 記
 この連休は懐かしいヤクザがらみの思い出話で締めくくるとするか。
甲府で罰が明けて、俺が初めて一般工場に降りた時、舎房は全員現役ヤクザの先輩方だった。俺も若かったから。

 そんな時、ある日の夕食でパンが出た。
 この時、俺が来る前からNHKののど自慢で、何番がチャンピオンになるか食い物かけてギャンブルしてたようなんだ。
 おかずのハンバーグを見ながら横浜のクニさんが、静岡のトオルさんに言った。

「今日はこのハンバーグ、俺がもらえるんだよね」

するとトオルさんは

「いや、クニさん、それはこの間のぜんざいでチャラになってるでしょ」

すると、それを聞いてどうにも腑に落ちない顔のクニさん、

「ええ?そうだっけ?」

仮就寝になってもクニさんは納得しない。
 トオルさんも相手が納得しなけりゃ気分も悪いので色々説明するのだが、頑固者のクニさんは話半分で

「ええ?そうだっけ?ユタカ!」
と、なぜか俺に振ってきた。

ちょっと待てよ、俺が来る前のことだろ。

「いや、自分はその件は……」

と言うとクニさんはトオルさんの話を打ち切るように

「わかったわかった。もういらねえよ」と、言い捨てた。

これにはさすがのトオルさんも

「わからないみたいだから説明してんだろ」  と。

するとクニさん、立ち上がり

「やんのかよぉ」と、ファイティングポーズだ。
 それをやられちゃ引くわけにいかないトオルさんも立ち上がったが、この人に暴れられたら大変だとみんなで必死に止めたっけね。

 この騒ぎ、オヤジにはバレなかったが向かい側の舎房の人たちは全員食い入るように見ていたから次の日工場で大変だ。
 トオルさんは人気があったからな。
俺は皆になにがあったのか聞かれるが、何と言っていいのやら困っていた作業中、トオルさんが作業交談にかこつけて班長の俺を呼んだ。

 「ユタカ、お前のことでもめたことにしとくから合わせとけ」

何とまたしても俺かと思わず言うと、

「馬鹿野郎、いいヤクザが食い物のことでもめたって言えねえだろ」

参るんだよな、仕方ない。恩を売るつもりで受け入れたが、運動の時間には皆から、
「あまりトオルさんに迷惑かけんなよ」
なんて言われちゃったりする。

若かったからな。二度目の懲役35歳の時か。俺にもこういう下積みがあったんだよ。

トオルさん、クニさん。その後出所されてからの数多くの差し入れ、本当にありがとうございました、

PS
あの二人。ほんとに世話になった。
 
 クニさん、送ってくれた本200冊は、中の一冊にクニさんの許可証が貼ってあって出所時交付でした。
 全ての荷物を郵送し、身軽に出所したとこに、段ボール2箱持たされて参りました。

トオルさん、送ってくれた刺青原画集はみっちり勉強ましたよ。

よし、今日は二人にコンタクトとってみよう。

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