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3舎1階には出ます

2014/7/13  記
 今月の就労支援指導の講話の中で副担のオヤジが雑談のつもりかこんな話を言い出した。
 「刑務所にはいろいろな怪談話がありますが、ここの3舎1階には出ます」
 なんだよ。俺はオカルト的な話は大好きだが、結局のところこの50年の人生の中で一度もお目にかかったことがないのでもう信じないことに決めている。つまらない話はよしてくれという感じだ。
 なんでも、3舎の前には霊安室が建っていて、独居の西側の窓からそれは見えるとのこと。
 「やっぱりそうか」なんて声も上がった。そしてその霊安室から一番近い3舎1階に目撃談は集中してるというのだ。
 オヤジの後を、戦後の官服を着たオヤジがついていったとか、食器孔越しにオヤジが懲役と話をしていると、後ろを誰かが通るのだが、振り返ると誰もいないとか。
 ましてや霊安室に遺体が安置してある晩の出没は鉄板らしく、オヤジの誰もが夜勤を断るとか。
 最も苦情が多い例が、夜勤で廊下を歩いていると、後ろから足音がする。何度振り返っても人影はなく、それでも近づいてくる足音は、姿のないまま本人を追い越して行くというものだ。
 副担は真剣に語っていたけれど、最近読んだ、オウム真理教の信者の洗脳を解いた脳科学者の本によると、日本人は仏教の中で霊は祟るとか、あの世があるとかの洗脳を古来から受け継いでいるため、それを信じる人には幻視として見えてしまう。とあった。
 ということは見えたことは事実なのかもしれないよ。その人だけにはね。しかし実在するかしないかといえば、やっぱりないんだよね。
 だって50年も生きてきてただの一度も見たことないんだから。
 LSDでも持ってりゃあ話は別だけどね。実在するならせめて死ぬまでに、一度はお目にかかりたいものだ。

PS  あれから10年。
まだ見るには至らないね。

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