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どうしても伝えたい事

2014/10/26 記
 調査中、今更テレビの無いのは退屈だ。回覧新聞も気になるからテレビ欄は見ないでいるよ。

 さて、今日は過去の調査中の思い出話をするよ。
 府中で調査中のことだ。
 運動に出るため廊下を歩きながら舎房にどんな人がいるのかオヤジの目を盗んでは覗き込みながら歩いていると鈴木さんがいた。
 2回目の懲役で甲府に行く前に東京拘置所で一緒だった横浜の。
 とても感じのいい人で、一緒に生活していた金のない人に、皆にわからぬように知人に外から現金を差し入れされたりしていたカッコいい人だった。
 他にも、俺もこんなふうに生きてみようなんて思わせてくれた人なので忘れてない。
 鈴木さんは8年の懲役から帰ってすぐにパクられ、責任を一人で被って再び8年の判決を受けて東京拘置所にいた。
 そして府中に落ちたのだ。
 俺はその時5年で甲府に行って、次の府中で調査になった時、そろそろ娑婆に近い鈴木さんを発見したのだ。
 ドアの前を通り過ぎるほんのほんの一瞬だから俺も後から思い出して気がついた。
 次の運動の日、また鈴木さんのドアの前を通る時、自分の顔を指さして、「俺ですよ」と合図するが、鈴木さん、待っていたかのように俺を見るものの思い出せない様子だ。
 こうなるとどうしてもわからせたい。
 それじゃどうやって「後藤ですよ」と伝えたか。
 
 次に運動に出る前に、左の手のひらに大きく「ゴ」と書いて、手のひらを見せながら鈴木さんのドアの前を通った。
 そしてまた次の運動の日、今度は手のひらに「ト」と書いて通り、そしてその次は「ウ」だ。
 この3回目の「ウ」の時は、ドア越しに鈴木さんが笑いながら俺を指さしてうなずいてくれてたよ。
 あの人に会いたいなあ。


PS
思い出したよ。このノート読んでて。あの時はどうしたら伝わるか。俺なりに考えたもんだ。
くだらないけどね。(笑)

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