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塀の中のリクエスト

2014.3.16.
 20年前に、訓練で山口刑務所に行った時、「リクエスト放送」というのがあった。
毎週土曜日の夜、懲役の書いたエピソードと共に、リクエスト曲をかけてくれる。就寝は1時間遅くなった。
 このエピソードをまとめて、「塀の中のリクエストカード」と題して、出版されていた。
 俺は情報処理の訓練で行ったが、雑居には、電気工事できている人たちもいた。
 ある日、電工の阿部さんが、竹内まりやの、「駅」が聴きたいと言い出した。
 リクエストは、それなりのエピソードがよくないと取り上げてもらえない。俺は阿部さんのリクエストカードを代筆することになった。
 そしてその週末、阿部さんのリクエスト「駅」は、全舎房に流れた。
 DJは懲役で、エピソードを読み上げる。
「どうも皆さん、黒羽から来た、電工の阿部です。毎日訓練頑張ってます。先日、こんなことがありました。作業中に、トイレに行った時の事でした。
 手をよく拭かないで電源に障ったので、火花が散りました。その瞬間、目の前が真っ暗になってしまっい、三途の川を見てきました。すると、闇の向こうから「駅」が聞こえてきて我に帰り、目が覚めました。
 こわい体験をしましたが、この曲が私を地獄から救ってくれました。まさに命の恩人と言える曲で、ますます好きになりました。 みなさんも聞いてください」と。
 読み終わると、DJが、感想なんて入れてくる。
「しっかし危なかったですねえ。みなさんも、明日は我が身ですよ。コンセントは絶対に、濡れた手で触らないこと」と言って締めくくった。
 翌日、阿部さんは朝一番で担当台前に呼ばれて唸り飛ばされた。
「阿部、この馬鹿、そういうことがあったらなんで報告しなかったんだ」
こっぴどく怒られると、泣きそうな顔で俺にひと言。
「後藤さん、勘弁してくださいよ」

リクエストはかかったんだからそれでいいでしょ。(笑)

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