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人さらいって?

2014, 4,10
この時期になるとさ、刑務官の一年生たちが見学だか研修で工場にも一人か二人は工場にいるんだね。いつもよりも刑務官の姿が多く目に入ってくるのでやりにくくて困るんだよ。
 この北海道月形刑務所ではこんなものだけれど、日本一と言われるマンモス刑務所の府中ではこの研修の時期は一味違う。
 朝、舎房から工場日向かう長い通路に、新入刑務官が1メートルおきに通路に並んで立っている。行進している俺たちに、号令をかけてるオヤジが通り過ぎる際に、体を45度確度を変えて敬礼しながら「異常ありません!」。異常ありません、異常ありませんって、うるさいっつーの。いったい何人入ってきたんだよ新入生は。工場までずっといるんだからすごい数だ。
 それで作業が始まってしばらくすると5~6人の新入生チームがベテランに連れられてやってくる。そんでもって、やれ「わき見」だ、「無断離籍」だと、何かにこじつけて連れて行くんだよ。
 練習のつもりで必ず一人は連れて来いと指導されてんだ。訳も分からず新入生の注意、連行の練習台にされて連れていかれたやつはすぐ帰ってくるんだけど、府中の懲役はこいつらの事を。
 人さらい
って呼んでた。初めて聞いたときは笑ったなあ。だってまさにその通りだろ。うまいネーミングしてくれるよね懲役は。
 月形刑務所には、この人さらいは現れないようだけどわからないぞ。今はただ獲物を狙うハンターのようになりを潜めて様子をうかがっているのかも。
 何しろこの時期は要注意だ。


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