このことが無かったら五足のくつはできなかったに違いない その18.
その18.『弟のノート』
深夜の誰もいなくなったショッピングモールで、
弟と私ふたりで、まず出汁のチエックから始めた。
私も弟もこの店のラーメンを食べていたので
大体の察しはついていたし、
納品書から逆算して材料を推察することも可能だった。
壁に貼り付けてある走り書きのメモや社名入りのカレンダーなど
その店のなかのあらゆる物がさまざまなヒントとしてあった。
「明日から大丈夫か」と問うと、 弟は笑いながら
「これまで経験してきた食品に関する知識と技術を
駆使できる環境にはいることができてよかったと思っている。
この店のすべてのメニューについては、まったく問題ない。
今まで積み重ねてきた料理に関する資料もこんなにあるから」と言って、
分厚いノートを何冊もボストンバッグから取り出して見せた。
驚いた。
それは、項目ごとに分けられており、
手書きのスケッチ、レシピなど詳しく書かれていた。
ラーメンのところを開いてみると、
東京風中華そば、九州の豚骨ラーメンなどいくつかのレシピがあった。
夜が明けるころには、試食することができた。
美味しいー。
これなら、これまで以上の売り上げが期待できそうだった。
サイドメニューも申し分なかった。
私たちは徹夜のまま、一日目の営業が始まった。
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